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「勝手にスポーツ大臣」5 小林信也 日本メディアの『情報鎖国』を打ち破る

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日本スポーツ界の《情報鎖国》を打ち破る
昨春、大谷翔平選手の通訳が違法賭博で巨額の借金を抱え、「大谷選手の口座から無断で支払っていた」事件が大きく報道された。この時日本では、「スポーツ賭博は悪で、MLBも賭けには断固厳しい姿勢を取っている」みたいな報じられ方だった。それは実態とかなり違う。
通訳と大谷選手が住んでいたカリフォルニア州(以下、加州)には合法的なスポーツベッティングがなく、彼は非合法の賭博に参加していた。これはもちろん違法だ。調べてみると、ほぼ40州がすでに導入している合法的なスポーツベッティングを加州は解禁していない。それには、日本人にはわかりにくい背景があった。
加州には多くの先住民がいて、彼らと折り合いをつけるため、彼らの居住区でだけ合法的な賭博を認めてきた経緯がある。ビンゴとかポーカーの施設である。もし加州がスポーツベッティングを認めれば、長年先住民たちが独占的に得ていた利益を阻害する恐れがある。それが導入に二の足を踏む要因だと説明する資料があった。
MLBはスポーツベッティングに前向きだ。すでに民間の運営会社と契約し、売上の何パーセントかを得ている。公表されていないが、関係者の推定では0.15%。つまり、MLB関連の賭け金が年間2兆円あれば、MLBに300億円入る仕組みだ。
MLBがWBCに本腰を入れ始めたのも、これが影響していると推測している。大谷が参加希望を表明し話題になりつつある2028ロス五輪へのメジャーリーガーの出場も、こうした追い風を受けて実現する可能性がある。
 
世界のスポーツ界はベッティングに影響されている
今日は「スポーツベッティングの導入は是か非か」という話でなく、スポーツベッティングの現実を理解しないと「世界から遅れるよ」という話。
日本のメディアは誰かに忖度しているのか、自分たちには関係ないと思っているのか、こうした世界の動きを積極的に伝えるどころか、ほとんど伝えない。これはスポーツベッティングに限らない。五輪関係のニュースにしても、IOCの出来事にしても、一面的な報じ方に終始して、裏表をきちんと伝えない。
例えば昨年暮れ、MLBのマンフレッド・コミッショナーが『ゴールデン・アット・バット』という奇想天外な新ルールを記者会見で提言し、レジェンドたちからも総スカンを食った。「試合中一度だけ、試合に出ている選手が代打に登場できる」という超法規的なルール。具体的に言えば、1点差で負けている九回裏二死満塁、打席に入るのは八番打者という場面で、ロバーツ監督が「代打・大谷!」を起用できる。大谷は1番打者で出ているのにだ。なぜこんなルールが提案されるのか? 日本のメディアはほとんど指摘しなかったが、僕はこれもスポーツベッティングの影響が濃いと感じている。
MLBではファンの高齢化が課題で、若者世代のファン獲得が急務。スポーツベッティングに参加するのは二十代、三十代が多いから、直接収益だけでなく、MLBのファン獲得にスポーツベッティングは大きな効果を発揮すると期待されている。
スポーツベッティングは、日本の既存のギャンブルと違って「インプレー・ベッティング」。試合が始まっても賭けができる。「この場面で大谷がホームランを打つか、凡退するか」も賭けの対象となる。つまり、先に挙げた勝負を決める場面で、8番打者が打席に立つか大谷が登場するかで盛り上がりは格段に違う。投じられる掛け金も遥かに増えるだろう。そうした現実を想像せず、「ゴールデン・アット・バットなんてありえない」と日本の野球ファンが批判するとすれば、これは世界の流れをまったく理解できていない話になる。

「勝手にスポーツ大臣」が裏表も忖度もないニュース発信をする
最初に『情報鎖国を打ち破る』と書いたが、何か規制をかけるつもりはない。権力者はとかく規制をかけ、権力で抑えつけようとしがちだが、「勝手にスポーツ大臣」は大らかだ。自由を愛し、他人の指図は自分も苦手だからなるべく他人にもしない。規制で縛ったりしない。
情報の鎖国状態を一掃するには、多面的な情報を「勝手にスポーツ大臣」が積極的に発信すればいいだけのこと。メディアがスポンサーや政治家に忖度して意図的に抱え込み、握りつぶす情報も、「勝手にスポーツ大臣」は軽やかに公表する。わかりやすい例が、甲子園の高校野球。毎日新聞は春の、朝日新聞は夏の大会の主催者だから、高校野球に関してマイナスの報道はなるべくしない。「災害的な酷暑の中、なぜ屋外で高校野球を強行するんだ」と多くの識者が感じても、朝日新聞は「健全に開催している」との姿勢を崩さない。文科省や厚労省も、厳しくこれを糾弾しない。こんな仕組みでいいはずがないと「勝手にスポーツ大臣」は考える。情報を多角的に公開し、国民に裏表いずれの情報も伝えたら、みんな国際感覚に近い理解と判断ができるようになるだろう。

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