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"天才"ライターの軌跡13 小林信也       消えた天才ライダー・伊藤史朗を追って

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伊藤史朗の年老いた父親と会えた
消えた天才ライダー・伊藤史朗を追って。
まずは高城さんに渡された、伊藤史朗の記事が載っている古いオートバイ雑誌の編集部に連絡を入れた。いずれも、「現在の居場所はわからない」「彼と親しい編集者ももういない」という返事だった。
続いて、当時のオートバイ仲間に連絡を取った。中には「伊藤史朗とは関わりたくない」と言って、取材を拒む関係者もいた。少しずつ、当時のライバルでありチームメイトだった人に会うことができた。始まった連載を読んで、連絡をくれた関係者が、伊藤史朗の父が住む実家に案内してくれた。父は高齢で病気を患っていたが、僕を自宅に招き入れてくれた。父は《からたちの花》《赤とんぼ》などの名作で知られる山田耕筰とも一緒に仕事をしていた作曲家だったという。父も史朗の居場所は知らないと言った。自宅では滞在中ずっと素っ気ない態度だったが、しばらくして手紙が届いた。ずっと姿を消している理由を父はこう書いていた。
「きっとまだ、一旗あがらないのでしょう」

一緒にアメリカに渡った恋人の友人を通じて、史朗との接触に成功
史朗の父に会い、レース仲間たちに会ったが、居場所の手がかりはさっぱりつかめず、伊藤史朗に「近づけた」という感じはまるで感じられなかった。状況が変わったのは、史朗ではなく、史朗が「一緒にアメリカに逃げた」と噂される恋人の友人からの連絡だった。
雑誌『サイクルワールド』の連載を知って、彼女が僕に連絡をくれたのだ。もちろん会いに行った。その友人に仲介を頼み、伊藤史朗の奥さん、そして史朗本人に取材の意図を伝えることができた。しばらくして、友人から連絡が来た。
「小林さんが来てくれるなら、会ってもいい、と言っています」。
伊藤史朗が住んでいるのはアメリカのフロリダだという。僕は、契約スタッフを務めているNumber編集部に約1週間の休みをもらって、フロリダに飛んだ。確か、高城さんから連載の依頼を受けて、ちょうど1年と少し経った、ゴールデンウィークのころだった。

フロリダで、ついに伊藤史朗と会うことができた
フロリダ州のオーランド国際空港での出会いは、もちろんいまも忘れない。荷物検査を終えて空港ロビーに出ると、そこに浅黒く日焼けした伊藤史朗と奥様が並んで立っていた。ほとんど無言で握手をかわし、長い空港通路を何も言わずに歩いた。そして空港の建物を出て、フロリダの太陽の光を浴びた途端、別人のような笑みをこぼして伊藤史朗が叫んだ。
「つかまったー!」
何とも言えない叫びだった。僕は、なんと反応していいのかわからず戸惑った。それが伊藤史朗独占インタビューの始まりだった。それからの告白は、連載で報告し、単行本にもまとめた。僕にとって初めてのノンフィクション作品がこうして生まれた。本の帯には、かつて六本木でよく一緒に遊んだという石原慎太郎氏が推薦文を書いてくれた。原稿を取りに事務所に伺った時の石原慎太郎氏との短い会話も印象的で忘れることができない。
「スポーツは、死ぬから面白いんだ。ヨットにしてもバイク・レースにしても。死なないスポーツなんて、つまらない」

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