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勝手にスポーツ大臣」12 小林信也 「草スポーツ」こそスポーツ文化の土台

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人生でいちばん楽しかった、塀を相手のボール投げ
僕のスポーツ人生を振り返って「いちばん楽しかった」のは小学生時代、家のブロック塀にボールを投げて遊んだ、あの時だったかもしれない。7、8㍍向うの塀が相手。ブロックの枠それぞれをストライク、ボール、内野ゴロなどと決め、たった一人の野球ゲームを毎日展開した。フライが欲しい時はショートバウンドで塀に当てる。自宅の塀はところどころ穴があるデザインで、間違ってその穴を通すと、「ガチャン!」と悲惨な音がする。縁側のガラス窓が割れちゃった音。そんな悲劇は幾度となく起きたが、いま思えば父も母もほとんど怒らなかった。夢中になってボール投げに興じる僕の思いを大切にしてくれていたのだろう。その時は、気づかなかった。
毎朝、起きてすぐ新聞の運動面を読み終わると外に出て、試合を始めた。そこは僕の「甲子園球場」だった。僕はいずれ入るはずの長岡高校のエースで4番の設定。対戦相手のメンバー表を小さなノートにいくつも書いて、実戦さながらに野球ゲームを楽しんだ。僕のお気に入りの対戦相手は、「小高」という名の強打者だった。
 
孤独な雪国の少年。夢を見ながら遊んだ楽しい日々
僕は雪国・長岡の生まれ育ち。冬になると雪に囲まれ、塀を相手のボール投げはシーズンオフになる。それでも家の近くで拾った50㌢四方くらいのコンクリート片を裏庭に斜めに設え、それを相手にキャッチボールをしたこともあった。うまく角度を調整すると、跳ね返って投げた自分に戻ってくる。幼い頃、積雪1㍍以上は当たり前だったから、雪を踏みしめてマウンドを作り、雪のグラウンドを転げまわる楽しみもあった。
吹雪の日は、家の中で相撲。相手はマットレスに浴衣の紐を巻き付けた仮想力士。たいていはマットレスを投げ倒して勝つが、時にはマットレスに投げられたりもした。そんな風に、僕は空想と実践のひとり遊びを重ねた。それが、スポーツ好きの土台となった。
高校生になり、硬式野球のマウンドに上がるようになっても、身体の中ではあの時のインナーゲームが展開されていた。打者と対峙した時、どこにどんな球を投げれば打ち取れる、きっと打たれる、といった予測が浮かぶ。ほとんどその読みは間違わなかった。時々、僕の予測を超える強打者がいて、思い通り投げたのに痛打される。それがまた楽しかった。
 
テニスの壁打ちの名所が消えた、それが大きな問題にされない現実
一時、テニスの壁打ちが話題になった。神宮外苑など、都内の人気スポットは大勢のファンで賑わい、聖地、名所と言われるところは待ち時間も長かった。いちばん有名なのは東京都体育館の裏側、アーチ状になったスペースで、たぶんこれは壁打ちを想定して設計されたスペースだと思う。ところが、東京2020に向けた準備の過程で、2018年ころ壁打ち使用が中止になった。インターネットで調べると、五輪後は駐車場に転用され、壁打ちは復活することなく消滅したらしい。
「勝手にスポーツ大臣」はこういう草の根無視のスポーツ行政には激しい憤りを感じる。
『神宮外苑再開発問題』で、緑の伐採や銀杏並木の撤去ばかり話題になるが、絵画館前の軟式野球場とバッティングセンターがなくなることはあまり問題にされない。東京2020の時もこの場所が陸上競技のサブトラックにされ、草野球ファンはずっと使えなかった。これも問題視されなかった。本当は、競技スポーツのために草の根スポーツが踏みにじられるなんて、あっていいはずがない。けれど、長いものに巻かれる大手メディアはほとんどこうした事実を発信しない。
 
街角の草スポーツシーンは人々に無意識の活気をもたらすだろう
立派な球場や競技場も大切だが、それ以上に重要なのは、草の根スポーツ環境の整備だと「勝手にスポーツ大臣」は強く思っている。だから、全国津々浦々、できるだけ徒歩か自転車ですぐ行ける範囲に、テニスの打ちっぱなしやスポーツ遊びができる場所を作ろう。
すべて国で作る必要はない。勝手にスポーツ大臣は草の根スポーツの大切さを発信し、地方自治体や民間企業が遊休地を遊びのスポーツに活用する取り組みを助成し支援する。そこで遊ぶ人たちだけでなく、老若男女が気持ちよく汗を流し、それぞれのインナーゲームを楽しむ光景は町全体に活気をもたらすに違いない。そしてそれが、スポーツ全体の普及と活性化の基盤になるだろう。
 
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