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「勝手にスポーツ大臣」8 小林信也  スポーツ選手が「依存症になっている」対策を急げ!

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選手が付けるブレスレットやネックレスは〈依存症〉の表れ
現代のスポーツ選手は大半が「依存症」になっている。
五輪や世界選手権など、上位の大会で優勝を争うレベルになればなるほど、依存症の傾向が強くなる。
そう指摘されて、すぐピンと来る人はどれだけいるだろう?
僕も最初、それを指摘されてすぐ理解できなかった。
これは僕が2000年ころから師事していた武術家の宇城憲治師範に指摘されたこと。
「スポーツ選手がネックレスやブレスレットを付けて大会に出る、あれは依存症だ」と宇城師は言った。
本来は、スポーツを通して、そういう不安や怖さを乗り越えるたくましさを身につけるはずなのに、逆に物に頼って不安を解消している、という指摘だった。言われてみれば、その通りだと理解できた。
 
金メダリストも依存症を隠さない、ファンもメディアも話題にして喜ぶ
お正月の箱根駅伝で、ある大学の選手が磁気テープを身体に貼って走り、それが話題になった。もうずいぶん前のこと。以来、磁気テープは競技者だけでなく、一般のランナーにも普及した。
昨夏のパリ五輪では、柔道で金メダルを獲った女子選手がこめかみに貼っていて、せっかくのクール・ビューティーが台無しだと僕は思ったが、本人にすれば必死だったのだろう。負けたくない、不安を抱いたまま畳に上がりたくない、という選択。けれど、武術的な観点から見れば、「私は不安です」と顔に書いて真剣勝負の場に出るなど考えられない。使うのはいいが、使う場所をわきまえる感覚が失われている。また、不安解消を物に頼っても、意味はないし、気休めにしかならない。勝負に臨む意味自体から目を背け、自己の成長や気づきから脱線するようなもの。勝つか負けるかばかりにこだわって、本来のスポーツに取り組む意味を無にするような行為とも言えるだろう。けれど、いまそんな冷静な指摘をする人もメディアもほとんどない。
むしろそれを持ち上げる。なぜなら、視覚的に面白くて話題性がある。その企業がスポンサーになってくれるし、経済効果がある。結局、いまのスポーツ界はそういう価値基準で動いている。それによって、スポーツ選手が深刻な依存症に陥っていることも見過ごされている。
 
現実に、磁気テープを貼って金メダルを獲って〈人気者〉になった
パワハラやイジメが半ば常態化し、深刻な体質をなかなか変革できないスポーツ界だが、それも当然といえば当然だ。〈依存症〉を依存症とも気づかない、その深刻さを共有できないスポーツ界の意識の低さ、見識の甘さを根本的に改善し、高めないと解決はできないだろう。依存症の温床になっているのは、〈勝利至上主義〉であり、〈商業主義〉だ。勝ちたい、勝てばすべてが手に入る。だから負けたくない。負けたくないから磁気テープを貼る。そして、パリ五輪の大舞台に、こめかみに磁気テープを貼って登場するという、ちょっと冷静に考えたら「みっともない」とも思える選択をして優勝した選手が、実際に人気タレントとして引っ張りだこになっている。もはや誰も彼女の選択を否定しない。
でもね、「勝手にスポーツ大臣」は「それでいいのかなあ」とつぶやく。
スポーツは、一部のヒーロー、ヒロインがそうやって人気者・お金持ちになるためにあるのでなく、誰もが身体と心を磨き、たくましく生きる糧を育むたにあると考える。だから、スポーツ選手が依存症になってしまうような現状を変え、それって依存症だよ、と気づかせる対策を急ぎたい。

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