僕の夢物語4 幸福なる日々1
はじめに
禍福は糾える縄の如し
人の世というのはいつも幸運というわけにはいかないようである
しかし、運のいい人と不幸な人がいる
強運を持った人の何とうらやましいことか
これまでの60年間、幸運な時もありはしたが、どれほど身の不幸を嘆いてきたことか
もう少し運が良くても良いんじゃないだろうかと自分の不幸を嘆くことも一度や二度ではなかった
もっともそれが人生というものだろう
人生は糾える縄の如し、悲喜交々なのである
ところがこの物語
幸運にあふれているのである
幸運のはじまり
退職の夜に僕は夢を見た
行きつけのバーで職場の後輩に囲まれて楽しく飲んでいた。
随分酔っていたのだろう、酔った時にしか歌わないカラオケの十八番マイウェーを熱唱していた。
歌い終わってカラオケのモニターを見ると、そこに神々しい女神のいでたちをした美しい女性が現れた。
彼女は、僕に何かを伝えようと語りかけていた。
その唇から発せられている言葉は、店内の喧騒にかき消されて聞き取れなかったけれど、何故だか心の中に刻み込まれ、浸みこんでいくようであった。
翌朝二日酔いの気怠い目覚めではあったが、はっきりと昨夜夢に現れたその女性を想い描くことができた。
夢の続きでも有るかのような脳裏に浮かぶ女性の微笑みに、妙に心は浮き立っているようであった。
見慣れた家の中が、いつもの景色とは少し違って、どこかしら新鮮に感じられた。
冷たい水を一息に飲み干し、熱いコーヒーを入れたカップを片手にソファーに腰を下ろした。
テーブルに置かれた新聞を手に取り読んでいると、スポーツくじの記事が目に飛び込んできた。
何でもキャリーオーバーで1等くじが6億円から12億円になったということのようである。
よく見ているとニュースの記事ではなく、スポーツくじのコマーシャルだった。
これまで宝くじは、年末ジャンボ宝くじを買う程度で、あまり興味はなかった。
ところが今日は何かトキメクものがあり、興味深く更に内容を見ていった。
このスポーツくじというのは、メガビック宝くじといい、予想不要の完全運まかせのくじという代物らしい。
毎週行われているようであり、インターネットを通じホームページからの購入も可能であるとのことだった。
ネットを調べてみると会員登録すると24時間いつでも購入でき、当選すれば、そのまま口座に賞金が振りこまれるというものだった。
早速会員登録し、試しに1口300円のメガビック宝くじを10本購入した。
熱に浮かされるようにして購入したが、購入した後で調べてみると、当選の可能性は1600万分の一ほどで、とても当選するようなものではないらしい。
確かにそんな幸運なことはざらにあるわけはない。
さあ、60年の宮仕えが終わり、今日から自由三昧である。
これまで仕事が忙しく思い通りにできなかったテニスを、思う存分満喫することに決めていた。
さりとて、それだけでは一日の時間を埋めるには不足しているのだろう。
はてさて何をして過ごそうかと漠然と考えながら、幸運の女神を脳裡に映し、朝食を済ませた。
取り敢えず、午前中のテニス練習会に参加する準備をして、テニスコートに向かった。
近くのテニスコートで、午前中に2時間ほど練習しているクラブがある。
これまで仕事の休みの時に何度か参加させてもらっていたが、今日から正式にメンバーとして仲間に加えてもらうことにしていた。
流石にシニア中心のテニス会なので、練習自体は満足のいくレベルではないけれど、楽しくテニスを続けるにはいいクラブかもしれない。
2時間ほどテニスに汗を流し、帰宅後はシャワーを浴びて、簡単な昼食を摂り、テレビを見ながら時間を過ごしていた。
手持ち無沙汰にとりあえず買い物でもと思い、車に乗り込んだ。
最近は、気に留めることもなく通り過ごしていたパチンコ店が目に入ってきた。
20年ほど前までは、毎日のように楽しんでいたパチンコも、禁煙とともに行くこともなくなり、ここ10年ほどは全く行くこともなかった。
久しぶりに入るパチンコ店は、かつてのたばこの煙が立ち込めた白く煙った不浄な店内ではなく、空気も澄みとても衛生的に感じられた。
煌びやかでにぎやかなパチンコ台を見まわし、大きな音量に身を置きながら、久しぶりのパチンコ店の雰囲気に少なからず気分は高揚していた。
パチスロ台のコーナーを歩いていると、女神という台が目に留まった。
台に大きく描かれた女神は、昨日夢見た女神によく似ていた。
僕に微笑みかけてくるようだった。
早速にプレイしてみることにした。
3枚のメダルを入れスロットルを回すといきなりピカピカと光が点滅した。
少々驚いたがこれがこの台の演出なのだろうと左からスロットルを止めるといきなりのリーチ
3個目のスロットルを止めると見事大当たり。
久しぶりの大当たりに思わず笑みが漏れた。
その後も、大当たりを繰り返し、連荘モードは途切れることなく、2時間足らずで10万円ほどのメダルが出ていた。
久しぶりにやったパチスロは楽しく、気持ちが浮き立っていた。
予想外に楽しめたことに気をよくして、退職後の気ままにまた明日も来ようと帰路についた。
次の日も、次の日も、気が付けば1週間毎日パチンコ屋通いが続いていた。
たいてい2時間ほどで帰るが気が向けば半日ほど打ち続けることもあった。
不思議なことに一度も負けることはなかった。
流石に毎日勝ち続けると居心地も悪くなり、翌週は別のパチンコ店に行くことにした。
そこでも、驚くほど勝ち続け、やはり1週間ほどで100万円を超える勝ちになっていた。
流石に僕もこれ程勝つことに気持ち悪さを感じ始めていた。
なぜこれほど運がよくなったのだろう。
よくよくこの2週間を振りかえってみると、テニスをしていても、大事なポイントはネットインをしたり、ぎりぎりにラインに乗っていたり、驚くほどの運の良さで、普段勝てない相手にも勝利を繰り返していた。
退職の記念に旅行でもしてみようと、15年ほど前の研修会で知り合った富山と東京、福岡のテニス友達に連絡を取ったら、いつでも来てくれと連絡が届いた。
福岡の友人とは今でも交流があり、盆暮れの贈り物をかわしていたので、すぐに連絡が来ると思っていたが、15年間全く連絡を取ってもいなかった富山と東京の友人から連絡が来るとは正直思っていなかった。
このほかにも毎日の生活の中で不思議な運の良さが続いていた。
僕の夢物語4 幸運なる日々2 に続く
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