僕の夢物語3 名人の系譜3 第3話 棋王戦予選トーナメント突破
アマチュア名人位を獲得したことにより、将棋の7大大会の一つである棋王戦の予選トーナメントへの参加資格を得た。
棋王戦は、アマチュア名人や女流棋士、順位戦B2クラス以下の棋士により予選トーナメントが行われ、予選トーナメントを勝ち上がった8名を加えてシード棋士が挑戦者決定トーナメントを行い、棋王への挑戦者を決定していくものである。
これまで、アマチュアで予選トーナメントを勝ち上がったものはなく、アマチュアが活躍できるレベルの場ではないことは言うまでもない。
今期は、148人が予選トーナメントを争う。
8ブロックに分かれたトーナメントを勝ち上がった者が晴れて、挑戦者決定トーナメントに進出することができる。
いよいよ棋王戦予選トーナメントが始まった。
初戦は、女流の里山女流5冠に決まった。
里山女流五冠は、女流棋界では突出しており、一般棋戦でも男性プロ棋士相手に互角以上に勝利するなど、実力は男性棋士に比較しても決して劣ったものではない。加えて、容姿端麗であり、将棋イベントには引っ張りだこの女流棋界随一の人気棋士である。
多くの将棋ファンは、里山女流に女性初のプロ棋士になって欲しいと願っていたし、その実力も兼ね備えていた。
対局は里山女流の先手で開始された。淡いピンクのネイルが施された爪に載せられ歩は流麗に盤上76のマス目に下ろされた。
後手の僕も角道を開け、注目の第3手で里山女流が角道を止め、先手居飛車、後手四間飛車の展開となった。
定石通りの駒組の後、途中難しい局面もあったが、駒がぶつかり終盤に差しかかったところで、受けの好手から僕の優勢な局面になり、そのまま優勢を保ち勝利した。
二局目は、今季四段に昇段したばかりの新進気鋭の剣四段との対局になった。
流石に、勢いのある新四段の指し手は伸び、序盤から押され気味の展開になり、中盤以降も苦しい展開が続いていた。
終盤に差し掛かり、剣四段の鋭い攻めの一手が指された。一気呵成に責め倒そうとする気合の一手であった。モニターを通じて研究している棋士の間でも、剣四段が優位の局面で、僕の受けが難しいとの判断で有った。
僕は、どう受けるべきか苦悶した。
持ち時間四時間のうち、次の一手を指すまで一時間の考慮時間を費やした。
まさに次の一手を指そうとした時、脳裏に蠢く大山十五世の幻影が手を止めさせた。
その刹那、絶妙の受けが閃いた。
そして、その一手こそ、この対局の命運を決める一手になった。
絶妙の受けである。
指されてみると成程と納得させられるが、生中に指せる手ではない。まさに大山十五世の受けを彷彿とさせる絶妙手であった。
この一手により流れは変わり、剣四段優勢から一転僕に勝ち筋が見えてきた。その勝機を見逃さず、最後は剣四段を即詰みに切って落とした。
苦戦したものの、この勝利により、勢いに乗り、準々決勝、準決勝とプロ棋士との対局を勝利して、棋王位予選トーナメントブロック決勝までこぎつけた。
決勝の相手は、谷山十七世名人であった。
一世を風靡した谷山十七世名人も60歳を過ぎ、順位戦はB2クラスに低迷していた。
他棋戦でもこれといった活躍も出来ないままに、久しぶりの棋王戦挑戦者決定トーナメント進出にかける思いは強いものがあった。
還暦を迎えたとはいえ、大山十五世、中原十六世、そして谷山十七世と将棋名人の系譜を受け継いだ大名人の一人である。
棋風は、高速の寄せ 高速流といわれ、誰も考え及ばないような終盤での圧倒的なスピード感覚を持ち、一気に相手玉を寄せ切っていた。
流石に最近は高速流というわけにもいかず、「高速の寄せなくなっちゃった」などと本人も達観した冗談まで繰り出している。
対局は、予想通り、谷山十七世の居飛車に、僕の振り飛車四間飛車の対向型になった。中盤、谷山十五世の見落としがあり、一気に僕の勝勢になり、最後はあっけない幕切れとなった。
かくして、僕は、棋王戦予選トーナメントを突破して、アマチュア初の棋王戦本選トーナメントに進出した。