僕の夢物語4 幸運なる日々5(最終話)
僕は、久しぶりにネクタイを締め、スーツに身を包み、真新しい3階立てのビルの一室にいた。
谷口吾一の会社である。
イヤ 今日からは僕の会社である
谷口との面談から1週間が経ち、何度かの電話とメールのやり取りの後、初めての出勤である。
電話とメールでのやり取りを通じ、僕のポジションや役割はすでに大まか決まっていた。僕にとっては望外の役職で有り、想像していなかった厚遇である。
谷口吾一がどうしてこれほど僕を買ってくれているのか僕は理解できないでいた。大学での先輩にはなるが、直接の面識もない。考えられるのは、僕の後輩の友野を通じて、何かしら、僕にシンパシーを感じたのかもしれないと想像するほかない。
友野は10歳以上年が離れているとはいえ、大学の後輩として彼が入庁して以来、公私ともに面倒を見て来た。彼の仕事や社会人としてのものの考え方には少なからず僕の影響があるようであり、ことあるごとにリスペクトされていると普段の付き合いからも僕は感じていた。
どうやら、谷口の親友である友野の助言を信じての僕の登用であるとみるのが妥当のようである。
「先日はありがとうございました。」
谷口吾一は、慇懃にあいさつすると、同席している5人を見まわし、順次自己紹介を促した。
2人は、僕の秘書役を務めてくれるようで、残りの3人はそれぞれ10人ほどの課員を持つ課長である。
僕の企画戦略室の直属の部下といった5人である。
たまにしか夢野市にいない谷口吾一に代わり、実質、僕がこの夢野市の町づくり部門の企画を推進することになる。
僕自身はそれほど忙しく立ち回る必要はないのであろうが、吾一から全面委任を受けて企画戦略室の運営を担っていくことになるからには、それなりの覚悟は持っている。身の引き締まる思いであることは言うまでもない。
改めて5人の顔を見回した。
5人とも我が子ほどの年齢で、年齢は多少違うものの、若さがあふれ、やる気がその顔からは漲っていた。
僕はこの1週間、これから何をしていくのか考え続けていた。
現役時代から僕が感じている夢野市の課題をまとめ、それについて、どう解決していくか、試案を一つ一つ積み上げてみた。それをまとめ、夢野市理想の町づくり計画として、僕なりのビジョンは出来上がっていた。
市役所時代やりたいと思いながら実現できないことを改めて思い起こしていた。自身の力の無さもあったが、行政の限界という面もあり、どの派閥にも属さないアウトサイダーの僕ではやれることに限界があった。
僕の提案する新しい取り組みについては、賛同してくれる仲間もいたが、市長をはじめトップの理解が得られず、やり残したことがたくさんあった。
それが正しいことなのかどうかはわからないが、夢野市の発展につながるものであると今でも確信している。
今回のポジションは、行政ではなく、民間事業者として物事を推進できる立場にある。
何より、吾一からは、採算を考えず、夢野市の活性化になることは自由に何でもやってくれというお墨付きをもらっている。
虎の威を借る狐の伝を文字通りいくのかもしれないが、それはそれでいいと思っている。吾一の持つ影響力や資産を最大限利用して、僕の思い描く理想の町づくりをしていこうと考えている。
思い描く理想は高く遠いものであるが、これほど素晴らしい環境を与えてもらった幸運を考えれば、やりがいを感じないではいられない。
目の前にいる5人をはじめ、多くの職員の力を借りながら、自分の思い描く夢野市の活性化のための事業を推進してみようと改めて意を強くした。
吾一と5人が去った部屋から僕は一人、南に開かれた窓ガラス越しに広がる夢野市街を見渡していた。
退職してわずか3か月
果たしてまた忙しい仕事の時間が始まろうとしている
夢に現れた女神により僕の毎日は幸運に彩られてきた
この幸運を糧に僕の町夢野市を理想の町にしていこう
「僕の夢物語 幸運なる日々」から「僕の夢物語 理想の町」へ
谷口吾一の名のもとに緒に就いた「僕の夢物語 理想の町」は、吾一とともに、彼の傀儡として、女神により幸運を手にした僕が展開していくのである。
僕の夢物語4 幸運なる日々 脱稿