見出し画像

僕の夢物語 理想の町6                          ~僕と吾一~

 僕はといえば、吾一の活躍を横目に、生涯学習を担う文教センター所長として、イベントを企画して楽しんでいた。
 市民講座をはじめ生涯学習イベントを実施するたびに、吾一の企業が来てから明らかに住民の意識も変わってきたことを感じていた。
 事実、僕達の企画する事業にも驚くほどの参加者が押し寄せ、定員のある企画はあっという間にいっぱいになり、断るのに往生するという状況が続いていた。
 生涯学習の分野に長年携わっている僕にとっては、誠に嬉しい状況である。これまで企画自体は決して悪くないと思っていたものも募集を開始してみるとほとんど申し込みがなく落胆することの繰り返しであった。
その状況が大きく変わってきたのは、生活の豊かさの現れなのかもしれない。経済的に安定し、余裕ができ、様々な体験をしてみたいという欲求が確かに感じ取れた。
 これまであまり注目されることもなかった自然体験の教室にも参加者があふれ、夢野の豊かな自然を再認識する契機となっていった。
 この現象は生涯学習の分野だけではなく、夢野市で行われる様々な事業でも明らかに変容が見て取れた。
 僕は、疲弊していくこの街を活性化させ、魅力にあふれ、住んでいる誰もがこの町を誇りに思い、好きだと言える理想の町にしたいと考えていた。
 まさにその夢が実現されつつあった。
 その実現に大きな力となっている吾一に対して、友人として以上に、敬意を払い、尊敬もしている。僕ではとても実現できないことをいとも簡単に現実のものとしてしまう吾一の行動力には舌を巻いている。
 
 吾一とは、彼が夢野市にやってきた当時から毎日のように夜遅くまで酒を飲みながら夢を語りあっていた。
 酒が進むにつれ、僕は途方もない夢物語の世界を吾一に語り、興奮していた。
 今でも月に2回ほどは飲みに行っているが、最近では、吾一は夢野市一のビップとして、どこに行っても下にも置かない歓待ぶりで、僕としては少し気おくれして居心地の悪さを感じることもある。
 そのたびに、吾一は、あからさまに僕を引き立てるような気遣いを見せ、その大仰な様に、僕は苦笑を禁じ得ないような場面も再々にある。
 それでも、吾一と二人になれば、やはり大学時代からの悪友として、他所では決して見せられない気の置けない友としてふざけあいながら、酒を飲み交わしている。
  僕としては、吾一の夢野市での成功は酒を飲みながら語り合った僕の夢のような街づくりのアイディアが根底にあると思っている。
 友人としてだけでなく、地元の人間として、時には、行政の一員として、地域の活性化につながる吾一の活動に積極的に協力し、アドバイスしながら共に汗もかいてきた。
 吾一が夢野市に来たての頃はどうしても余所者として警戒されることもあったが、地元の僕がともに行動することで、スムーズにいくことが多かった。
 僕のこのような行動に対して、行政の枠を踏み越えているとの批判が随分あったが、大いなる夢の実現に向け、多少の逸脱行為は腹に飲み込んで前に歩を進めてきた。

僕の夢物語 理想の町7 ~移住促進、工業団地参入~ に続く


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?