僕の夢物語4 幸運なる日々3
九州から帰って、毎週木曜日にやっている定例のテニス練習会に参加した。
今日初めて参加する人があると聞いていたが、その人の顔を見て驚いた。なんと、夢に現れた女神なのである。女神といってもよく似ているだけで、人間に他ならない。
雑談をしながら、僕は女神との遭遇に少なからず興奮していた。
テニスの技術はそれほどではないが、素直で好感の持てるテニススタイルだった。
彼女は、証券会社に勤務しているようで、この春の異動で夢野市に転勤してきたとのことだった。
株の売買に関する仕事をしているようであるが、僕には全く未知の世界であった。
これも何かの巡り合わせである。
思いがけず手に入れた大金を女神に預けてみようと即座に決めた。
株の購入の相談をしたいと話をすると、彼女も快く応じてくれ、翌日早速に会社で詳しい話をする段取りになった。
夢野市の駅前にある3階建てのビルディングの一階に新高知証券会社夢野支店の店舗がある。真新しい店舗の窓にはたくさんのポスターが張られている。
玄関を入ると女神こと中村さんが出迎えてくれた。30分ほどの説明の後、僕は取り敢えず1億で株の購入を頼むことにした。
彼女は予想外の大きな金額に始めは驚いていたが、粛々と準備を整え、口座の開設や1億の株の購入を進めていった。
翌日には昨日作った口座に新たに5億円を振り込んだ。
昨日の話では、今絶対買いの銘柄があるということだったので、その株を5億円分買ってもらうことにした。
全くの素人の僕があれこれ考えることはせず、彼女の言う通り、おすすめの株を買うことに決めた。
早速に彼女から電話があり、依頼通りの銘柄を5億円買ったとのことだった。
昨日買った株も好調に値上がりをしているということだった。
リーマンショックから立ち直り、日本経済は好調であるので、株価は鰻登りに高騰している。株など全く関心のなかった僕でさえも、毎日流されるニュースを見ながら、基本的に今は株の買い時なのだろうと漠然と感じていた。多少のリスクは有りながら、タイミング的には、株を買うことで資産が増えていく流れのようだ。
宝くじで手に入れた12億のうち10億円まで株を買おうと決めて、次の日には新たに4億円で株を購入してもらうことにした。
この4億円は、リスクがあっても良いので、中村さんが勝負してみたいと思う株を自由に買い遊んでもらうよう注文した。
生活できるだけの貯蓄はできているので、株が上がろうが下がろうが、大した問題ではないし、金儲けをする気持ちはなくなっていた。
都合10億円を中村さんの証券会社に運用を任せ、僕は、テニスや家庭菜園など退職後の自由な時間を遊び暮らすことにした。
これまでテニスをしたくても、仕事が忙しく思うに任せなかったのが、天気さえよければいつでもできる。テニスの練習環境も整っているし、テニス仲間もいる。
贅沢この上ないことである。
気持ちの余裕が生活を豊かにしてくれることを実感しながら、テニスを中心に毎日を楽しく過ごしていた。
縛られることのない自由な毎日は有難いのであるが、次第に、どことなく物足りなさを感じるようになっていた。
自由な時間や豊かな資産だけでは埋められないものが僕の心のどこかにあるらしい。
何かしら生きるための目標を持てずにいるもどかしさがあるのだろうか。
そんな折、夢野市役所の後輩からぜひ会ってほしい人がいると連絡があった。
その人物は、最近、夢野市に進出してきた会社を経営している谷口吾一という人物であった。