侠客鬼瓦興業 第18話吉宗くん愛の告白
「めぐみちゃん、僕は君を愛していましゅ…」
彼女に降りかかる悲しい秘密を想像した僕は、心の高まりを抑えることができなくなってしまった。そして三寸の下でひっそりと隠れていめぐみちゃんのことをすっかり忘れ、思わず愛の告白をしてしまったのだ。
その後も僕は、感情の赴くまま、熱い思いを語り続けた…
「めぐみちゃん、君は、人を好きになってはいけない・・・。そう言ったけど、それは間違ってる・・・。例えどんな秘密を心に秘めていても、自分に嘘をついてはいけないんら…」
僕の目からは涙がポロポロ滝のように流れ落ちていた。
「君はやさしいから、自分の心に嘘をついてしまうんだ、でも、人を好きになるってことは理屈じゃない…」
「人を好きになるって、その人のことを思うだけで、幸せな気持ちになれて、そして辛いことも忘れられる、そう言うことだと思うんら…」
「・・・・・・」
めぐみちゃんはそんな僕の話を三寸の下でじっと真剣に聞き入っていた。
「僕はね、僕は昔から辛い事があったときは、楽しいことを考えるんだ、楽しいことを考えると、なんだか心の中がポッと暖かくなって、頑張ろう!そんな力が湧いて来るんだ…」
「めぐみちゃん、今の僕にとって楽しいこと、辛い事を乗り越えるために必要な楽しいこと、それは・・・」
「・・・・・・」
「それは・・・、君の笑顔を思い出すことなんら!」
ガタッ!…
僕の言葉に、下で隠れてるめぐみちゃんが微かに動いた。
僕は空を見上げてずずずーッと鼻をすすり、ぐっと涙をおさえようとしていた。
しかし、無実の罪を背負わされて、人を愛することをあきらめてしまった、めぐみちゃんの悲しい心を思うと、こみ上げてくるものを抑えることはできず、ふたたび大声で泣き出してしまった。
「うぐ、うぐえ…、うぐわあああああああ」
その後も僕は、泣きながら彼女への思いを熱く語り続けた。
「めぐみちゅわん、うぐえ、僕は、僕は君にどんなに悲しい秘密があろうとも、君が好きだー!!」
「君を好きになることで、どんな辛い未来があったてかまうもんか、僕は君が好きだったら、好きなんらー!」
はたから見ればそれは、実にかっこ悪い愛の告白だった。しかし僕にとっては真心のこもった真実の愛の言葉だった。
やがてすべての思いを熱く語りきった僕は、その場に立っていることができず、ついに泣きながら崩れ落ちてしまった。
「うぐえええええん、、うぐええええええーん!!」
通りがかりの人たちは奇妙な顔で僕を見ていたが、そんなことはお構いなしで僕は泣き続けていた。
「うぐえーーーーん、うぐえーーーーーん」
「…よ、吉宗くん…」
小さな声が、僕の耳に聞こえてきた、僕は鼻水と涙でぐしゃぐしゃになった顔を持ち上げた、すると目の前には、潤んだ瞳で僕をじっと見つめている、めぐみちゃんの姿があったのだった。
「あーっ!?」
「ありがとう、吉宗くん…」
めぐみちゃんはそう言いながら、涙を指でぬぐっていた。
「どわっ!? め、めぐみちゃん…!!」
僕はその瞬間、自分が無意識のうちに、彼女に対して愛の告白をしてしまったことに気が付いた。
「あ、あああーーーーーーーー!!」
僕の心臓はバックン、バックンと巨大な音を立ててうなり始めた、そして、そのまま恥ずかしさのあまり呼吸困難に陥ってしまった。
「ぜほー!ぜほー!ぜほー!」
「だ、大丈夫?吉宗くん…」
露店の中で隠れているめぐみちゃんは慌てて出てこようとした、しかし僕は真っ赤な顔で胸を押さえながら彼女のことを静止した。
「だ、だいじょうぶ、だいじょうぶだから…、ぜほー、ぜほー!」
めぐみちゃんはそんな僕を、潤んだ瞳でじっと見つめ
「ありがとう、ありがとう…、吉宗くん…」
嬉しそうに、なんども僕にそうささやいてくれた。
僕は彼女の美しい潤んだ瞳を間近に見つめながら、更に熱く心に誓いを立てた。
(僕は、僕はこの命に代えても、めぐみちゃんを守るんだー!!)
そのとき、鉄の声が聞こえて来た
「兄貴ー!吉宗の兄貴ー、もう大丈夫っすよー、ハゲ虎のやつ、何も知らずに、いなくなりましたよー、」
鉄は嬉しそうに笑いながら、僕の泣き顔を見て
「え?…、何で泣いてるんですか?…兄貴……」
「え!?あ、これはその、何でもない、何でもない」
僕は頭の鉢巻を取ると、あわてて涙を拭き取りチーンと鼻をかんだ。
鉄は首をかしげていたが、すぐに大きな声で笑い出した。
「しかし、さすがは兄貴っすね、軽く閻魔の旦那をあしらっちまうんだから!ははは」
鉄が笑っている間に僕は、めぐみちゃんの前に積んだダンボールやビニールをどかしながら真っ赤な顔で彼女に声をかけた。
「めぐみちゃん、もう、大丈夫だって…」
「あ、うん…」
めぐみちゃんは恥ずかしそうに頬を染めながら、露店の下から出てくると
「あ!」
長い間しゃがんでいた影響で足がしびれ、バランスを崩し僕の方に倒れてきた。
「あぶない!!」
僕はあわててめぐみちゃんを胸で抱きとめた。
「!?」
バランスを崩した拍子に、僕の胸に顔をおしつける形になってしまっためぐみちゃんは、恥ずかしそうに頬を染めていた。それは僕にとって最高のハプニングだった。
「ご、ごめんね吉宗君…」
「だ、だいじょうぶ?」
「足がしびれちゃって、あっ…」
めぐみちゃんは僕から離れようとしたが、足のしびれがひどく再び僕の胸に顔をうずめてしがみついてきた。
「じっとしてた方がいいよ…」
僕はそう言いながら真っ赤な顔で彼女を見つめた。
「ごめんね…」
めぐみちゃんは、頬を紅くそめながら、静かにうつむいていた。
そして彼女からは、美しい花の香りを漂っていた。僕は幸せだった、最高に幸せだった…。
「す…、すげえ…、兄貴…、もう、めぐみさんと出来ちまうなんて…」
鉄が恐れおののいた顔で、僕たちにつぶやいた。
「ば、馬鹿何言ってんだよ鉄、ははっは」
鉄の言葉に反論しながらも、僕はにんまり笑っていた。
「そ、そうよ鉄君、これは足がしびれて…」
めぐみちゃんも頬を染めながら鉄に微笑んだ。
「ふいー、あついあつい…」
鉄はそう言いながら、あいかわらずの不気味顔をほころばせていたが、やがて自分の持ち場にもどっていった。
邪魔者はいなくなり、二人きりにもどると、めぐみちゃんは僕の事をそっと見上げ、うれしそうに
「吉宗くん…」
「え?」
「私ね、吉宗くんと初めて出会ったあの面接の日、不思議な体験をしたの」
「不思議な体験?」
「うん、なんて言うんだろう、吉宗くんを見た瞬間、ふっと風が動くのを感じたの…」
「風が?」
「うん、ビルの中で、窓も開いていなかったのに、不思議な風を感じたんだ」
「不思議な風?」
僕はめぐみちゃんの言葉を、じっと聞き入っていた。
「私ね、その後、ずっと考えていたの、もしかしたら、あの人が私の未来を変えてくれる人なんじゃないかって・・・」
「めぐみちゃんの未来を?」
「うん、やっぱりその予感は当たってたんだね…」
めぐみちゃんはそっとうつむいて、嬉しそうに微笑んだ。
「めぐみちゃん…」
僕は顔を真っ赤にして久々にお公家様のような笑顔でにやけていた。
やがて足の痺れがとれたのか、めぐみちゃんは軽く屈伸運動をすると、晴れ晴れした笑顔で
「吉宗くん!!私、さっきの言葉とりけします。」
「言葉?」
「うん、人を好きになっちゃいけないって言う、あの言葉、取り消します。」
頬を染めながら大きな声でそう言うと、澄み切った空のような明るい笑顔で僕に微笑んだ。それは、すべてのもやもやから開放された、本当の彼女の笑顔だった。
(春だーーーー!本当に春が来たんだーーーー!)
僕の心は再び小さな天使達と共にパタパタと空を羽ばたいていた。
しかし僕は空を飛びながら、大切なことを思い出してピタッと羽を止めた。そう、それはめぐみちゃんが無実の罪で指名手配中だということだった。
僕は更なる熱い思いを決意した。
「よし!!」
そう叫ぶと、めぐみちゃんに、思いきって声をかけた。
「めぐみちゃん!」
「?」
「たとえ警察や世界中の人々が、めぐみちゃんの事を犯人にしたてようとも、僕は、僕だけは君の無実を信じているからね…」
「え?…」
彼女はきょとんとした顔で、首をかしげていた。
「無実?」
「いや、いいんだ、いいんだ、僕の独り言だから…」
僕は今はまだ彼女の深い傷口に触れてはいけないと、話を途中でにごらせた。
「何がいいんだ?」
突然背後から、聞き覚えのある声が響いてきて背筋にぞーっと寒気が走った。僕は顔を動かさずに目だけでめぐみちゃんを見た。すると彼女も、凍りつくような青ざめた顔で僕の背後を見つめていた。
僕は額から冷や汗を流しながら、そーっと振り返った。
「ぐわっ!?」
そこには、まさに閻魔大王のような表情で僕達を睨んでいる、ボーリング玉男、閻魔のハゲ虎が立っていたのだった。
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