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どんな事務所(声優プロダクション)なんですか?

答:小さい事務所です。他の声優プロダクションに比べて、所属声優の人数は少ないです。付属養成所もありません。スタジオは持っていますが稽古場はなく、受付とかデスクと呼ばれる人も雇っていません。"コトリボイス"なんて名前からして、いかにも小じんまりとしていそうでしょう。

所属している声優の年齢層は高く、それぞれのペースで活動しています。仕事のオファーがある人や、何かやりたいことのある人とはよく会って話をします。人間関係はそれなりに良好ですが、それほど和気あいあいとしているわけでもありません。みんなで遊びに行こうぜ、という空気は生まれないです。コロナ禍の前は、忘年会や新人歓迎会くらいやっていました。料理が美味しい近所のお店を貸し切ります。お酒が好きな人とそうでない人の割合は半々くらいです。適度な距離感で、それを気に入った人たちが集まっている事務所です。

そんな所属の声優たちが、所属事務所であるコトリボイスとどのように関わっているのか、先ずは簡単にお話したいと思います。

株式会社コトリボイス-カレンダー-2021年-3月-7日の週

普段のコミュニケーションには、Googleのサービスを使っています。最初はカレンダー。各声優やスタッフ毎に色分けされています。それぞれ都合の悪い時間帯があれば、ここに記入しておきます。スタッフは所属声優に出演の問い合わせがあれば、その都合の悪い時間帯を外して直ちにスケジュールを抑えます。お客さんをお待たせして、本人に確認を取ったりしません。

自分でプリントアウト出来る短い台本や資料は、このカレンダーを通じてスタッフから所属声優に共有されます。練習時に録音した音源はドライブに共有されます。スプレッドシートでは、各人が終えた仕事への振り込み額や源泉徴収額が記録され、支払明細として利用することが出来ます。

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ここが事務所です。八~九畳くらい。スタジオは右手奥の階段から通じる地下にあります。スタッフはフレックスタイムで勤務しているので、誰もいなかったり三人以上もいたりします(さすがに狭い)。所属の声優たちも度々ここを訪れます。

所属声優が頻繁に事務所を訪れる機会は、"テープオーディション"です。オーディションといえば候補者が会場に集まって実技や面接の審査を受けるのですが、テープオーディションは候補者がそれぞれ自分で課題のセリフを録音して、送られたデータ(昔はカセット”テープ”だったんですね)が審査されます。この課題のセリフを、会社の地下にあるスタジオで録音します。近頃はスマホで録れたり、近頃は自宅に簡単な録音設備を用意している方も多くいらっしゃいます。それでも会社の収録ブースに緊張感を持って入り、スタッフとディスカッションしながら録るのは、きっと一味違うのですよ。

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テープオーディション以外にも、ボイスサンプルを作ったり、個人的な練習で使うことも推奨しています。新人ベテランを問わず、三十分スタジオを使う度に事務所の掃除をして貰っています。お陰で事務所はいつも清潔です。

仕事で使う台本を引き取りに訪れることもあります。ナレーションの仕事など、ページ数が少なければ各自の自宅でプリントアウト出来ますが、ゲームやオーディオブックはページ数が多いため、事務所のレーザープリンタで印刷して渡します。アニメや吹き替えは冊子になっているので、制作会社から受け取ったものを渡します。

また、事務所の上階にあるボイストレーニング教室に通っている者たちが帰りに顔を出してくれたり、佐東充は手作りの梅酒をよく持参してくれます。上田こうすけが持ち込んだ羊毛フェルトの作品も、事務所のあちこちでご覧いただけるでしょう。例え用が無くとも、寄ってくれてよいのです。

当事務所一番の自慢は、こちらの木札。

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業務提携と所属声優、一人一人の名前を掲げています。ご近所にお住いの書家である小原啓楓先生による作品です。訪れた方には「道場のようですね」と言われますが、その通り。コトリボイスという声優プロダクションを、私は道場やボクシングジムのような場所にしたかった。ここで鍛え、その力で役を得て、世に問いかける。プロダクションという形で、強くなる為の環境を用意したかったのです。

私はこの世界に入って日が浅く、他の事務所様がどういうところなのかよく知りません。伝え聞くところによると、年功序列の上下関係がはっきりしていて、特に若い人には厳しく指導されるところが多いようです。この世界が長い方からは「コトリボイスは"ぬるい"よね」というご指摘もよく頂きます。

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『MAJOR』より(作/満田拓也 出版/小学館)

私は高校時代より『MAJOR』という野球漫画(TVアニメには笹島かほるも出演)を愛読してきました。主人公の茂野吾郎は推薦を蹴り、敢えて一般向けのセレクションから強豪校の野球部へ入ります。最初に吾郎たちセレクション組が送られたのは、"夢島"と呼ばれるキャンプ地。隔絶された過酷な環境下での壮絶な"シゴキ"により、多くの脱落者を出します。それでも吾郎は仲間たちと共に試練を乗り越え、次のステージに進みました。ついに合流した推薦組の環境に、吾郎たちは驚かされます。部屋にはエアコンが完備され、練習も各自の裁量に任されています。シゴキはもちろん、練習でも何一つ強制されることはありません。そこは厳しかった夢島よりも、ずっとドライで冷徹な、競争の世界でした。

”厳しい”という言葉には色々な解釈があってよいと思います。叱られたり、説教をされるのも厳しさの一つ。けれども、所属の声優は独立した個人事業主です。たとえ新人でも、マネジメント契約をしている所属事務所とは対等な関係のはず。事務所に叱られたり、強制されるのはおかしいと私は思います。そもそも、何かに耐え忍んだり服従するだけで成功出来るような甘い世界でないことは、明白なのですから。

さて。コトリボイスはこのような事務所です。事務所のカラーは私が決められることではなく、集まってくれた人たちの間から自然に生まれます。私の主張は、その人たちが集まってくれるきっかけに過ぎません。そんなに悪いものではなかったとは思います。設立から五年、これまで去っていった者は一人もいないので。どうもありがとう。これからも、同じ志を持つ仲間を大切にしてゆきたいと思います。

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