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6、昭和終幕へのプロローグ  ②その時はファンファーレはなく、静かに始まったと記憶する

6、昭和終幕へのプロローグ  ②その時はファンファーレはなく、静かに始まったと記憶する

その時は、突然にやって来た。
ソウル五輪開幕とはぼ同じ。正確な日付を確認しようと、調べにサイトを開くと国営放送、Fテレビ、A新聞社などが上位に上がって来て、その日付に各社でブレがあるのに驚かされた。自分も克明に記録を付けるタイプではない。FBがあれば、きっと間違いなくその記録は付けていたのだが。

一報に、共同通信社のファンファーレはあったのだろうか。記憶は定かではない。が、それが記憶違いでも、無かったと思えるくらい、その事は静かに始まった。

昭和63(1998)年9月17(社の記録によって~19日までのブレがある)日、昭和天皇は大量吐血され、ご闘病生活に入られた。国は一気に自粛ムードが広がり、静まり返った。正確にはご闘病はここで始まったわけではない。前年に既に不調を訴えられ、手術を受けられていた。その後、みるみる痩せて行かれたという記録も残っていた。

産経新聞社社会部は、ご闘病版と当時世間を騒がせていたリクルート事件班にほぼ二分割され、取材班がそれぞれ組まれた。自分はご闘病版に組み込まれた。担当していた新宿署からは引き上げられ、本社、宮内庁記者クラブへのほぼ交互の、いや宮内庁へ出勤する日が増えて行った。その、毎日の両班の記者の配置、紙面構成などを考えるのは、多摩支局時代の自分のボスであったデスクのKだった。まさに激務だった。この事が、のちに大変な事態を引き起こす事にもなった。

ご闘病会見に出席するのは、宮内庁記者クラブメンバー。当然メンバーも増員され、専従が2人から4人になっていた。毎日、陛下の血圧、体温、出血の有無、出血量が吐血○○ml、下血○○ml、その日のご様子などが発表された。朝ドラの『ノンちゃんの夢』をご覧になられているなどと言う話は、ここで出て来たものだと記憶する。

記者クラブの隣がFテレビで、担当の一人K記者には本当に良くしてもらった。それについては後述する。また、大学のゼミの先輩のテレビAのO記者にも、卒業以来初めてここで再会した。
「コーヅいつの間に産経に?」
と、喜んでくれて、色々教えてもらった。
大変嬉しいものだった。

私たち兵隊の仕事は、宮内庁長官室、皇居内の坂下門、乾門などに貼り付いて、天皇家のご親族、長官、侍医などの出入りをチェックして、クラブ常駐メンバーに伝える事だった。張って、人の動きを見れば有事で慌ただしい、何事もなく通常通りなどの動きがわかるためだった。兵隊たちはローテーションが組まれ、グルグル張り付く場所が変わった。

世に言う“天皇の張り番”だった。

今では信じられないような、飯盒炊爨のような大きさの携帯電話を肩から下げ、動きがあるといち早く報告した。
「〇〇時○○分、○○侍医、乾門を出ました」
こんな具合で。至ってシンプル。
飯盒炊爨の重さのほとんどはバ巨大なッテリーが占めた。充電しないとすぐ電池切れを起こし、報告が入れられないという大変な事になる。紐が付いていて、肩から下げるとひどい肩こりになった。

記者クラブ内は本当に狭く、それでなくても各社増員で、人がひしめいていたので、各社、大きなバスを用意して、宮内庁の庁舎前の大きな広場に停車させていた。その中で、張り番たちは交代で、休息しながら、時に仮眠も取った。ご病状によっては、必要に応じて男性社員たちは寝泊まりもした。女性記者が、それを強いられることは、最初はなかった。
そしてひたすら、ドアの前、門の横に小さな椅子をそれぞれ用意して、座って、待ち続けるのが仕事だった。昼、夜はKデスクが手配してくれるお弁当を食べ続けた。おやつに菓子パンが届く事もあった。

更には、張り番の後に、侍医たちが帰り始めると、彼らの自宅まで追いかけて、家の前でその日の様子を、囲み取材した。発表されないところまで何とか聞き出そうと、皆必死だった。当時は侍医長以下5人の侍医が、やはりローテーションで付きっ切りの治療を行っていた。近いところでは、代々木、桜上水、遠くはひばりが丘まで、侍医たちは疲れた身体を休めに帰宅した。私は、良く1番遠くのひばりが丘に良く行かされた。最も若い侍医の担当だった。記者たちが取り囲んでも嫌な顔1つせずに、親切に対応してくれた。

長官室の前の張り番は、庁舎の廊下に新聞、テレビ、通信社と各社いるわけだから、やたら密だった。コロナの今ならあり得ない程の距離感。私は、門に張り付くのが好きだった、お堀の中の美しい自然が、堪能出来た。緑溢れる中、残酷な時の流れを感じていた。やがて、木々は色づき、落葉し始めた―。

<写真キャプション>
とにかく日々是“張り番”だったので、1カ月間、原稿を書かない事もあった。美しい皇居の自然の様子を伝えたくて書いた記事。

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