
「徹子の部屋」クラシック2023に行った
2023年7/5(水) 17:00開場 18:00開演
サントリーホール
司会:黒柳徹子
ゲスト
川井郁子〈ヴァイオリン〉
角野隼斗〈ピアノ〉
高木綾子〈フルート〉
宮田大〈チェロ〉
進行:坪井直樹(テレビ朝日アナウンサー)
角野隼斗さんが初出演した徹子の部屋で今回の演奏会のお知らせを知り、電話予約をした。
角野さんの演奏は元より、宮田大さんの演奏を聞けることにも胸を躍らせていた。
(少し脱線しますが、我が街のホールに招致する音楽家にはずっと宮田大さんを推している。実現なるか…)
当日は各演奏者が3曲を演奏の後、舞台上手側に設置された徹子さん席に奏者が着席し、さながら〈公開 徹子の部屋〉でたっぷりとトークが行われる。進行上これ以上時間を押せなくなってくると下手側から坪井アナがヴァイオリンを演奏しての(!)タイムキーパー役を担っており、選曲もウィットに富んでいてとても楽しめた。
プログラムは以下の通り

二人ずつ演奏され、休憩20分を挟む二部構成だった。
会場に到着するまで二階席正面だと思っていたが、チケットをよく確認するとエリアを間違えていた。今回の座席は二階席Rフロアで視点はほぼピアノ奏者の正面。屋根で表情すら拝めるかどうかといった座席だった。

会場は、ほぼほぼ女性で年齢層が高く、やや咳をされている方が多かったので、様々な事情を考慮しても少し残念な場面はあった。


開演のベルが鳴り、舞台も客席も全暗転され、明転するとステージには徹子さんと坪井アナのお姿が!徹子さんがお召しになっている衣装の紹介もあったが、私の座席からは残念ながら徹子さんの頭後方しか見えず、たまらず後半のお色直しの際には少々立ち上がらせて頂きようやく後半は真っ白いお衣装を確認できました。
ゲスト一人目にフルート奏者の高木綾子さんが登場。坪井アナから「3人のお子さんがいらっしゃり、大学でも教えていらっしゃる‥」といった紹介をされる。後に分かる話だが我が家と子供の学年、間隔がまったく一緒であった!一気に親近感が湧く。
目にも鮮やかな真っ赤なドレスで登場し、私の勝手な想像より小柄であった。
1曲目に「精霊の踊り」。まずはフルートの音色はこういう音ですよ、というように丁寧に聞かせてくれる演奏。2曲目には大曲「カルメン幻想曲」。こちらの楽曲は細かいパッセージもあり技巧的でソリスティック。特にハバネラには高らかに響いた高音に拍手喝采を送りたい気持ちをようやく堪えた。ピアニストの坂野伊都子さんの間奏の盛り上げ方もとても良かった。
3曲目には村松崇継の「EARTH」。こちらは初めて聞かせて頂いた曲。旋律のメッセージ性の強さ、美しさ。ドラマ性があり、感動的だった。そして驚くのが(この曲だったかは🙏)終始音の長さ!まだ伸びる、まだ伸びる…この楽曲は村松崇継さんが高木綾子さんのために書いた曲なのだそうだ。
演奏が終わり、高木さんは息も絶え絶えのままトークコーナーへ。ご家族で楽器を演奏されるお話や、中でも循環呼吸のデモンストレーションには驚かずにはおれなかった。鼻で息を吸いながら口で吐く。言うが易しだが…「アルルの女」のメヌエット、4小節のフレーズが終わってもまだまだ吸ってい(るよう見え)ない。8小節以上は吹いていたんじゃないだろうか…圧巻の奏法であった。
ゲスト二人目には、チェリストの宮田大さんが登場。ピアノは宮田さんと幼馴染でもある西尾真実さん。高音の音色が硬質で煌びやかな音はチェロのふくよかさに輝きを添えるようで相性の良さを感じた。
そして選曲の良さ…!みなさんポピュラーな曲を用意してくださった印象だったが特に宮田さんの3曲は私得か?と思ってしまうほど思い入れのある楽曲だった。
特に特に特に、(大事なので3回言う)楽しみにしていたのは「火祭りの踊り」でこちらはYouTubeに宮田さんの演奏があるので皆さん是非見て欲しい。
ダークでリズミックなものが大好物な私には垂涎ものであり、最高にノれる曲である。
弦楽器は人間の声に近いと言われることがあるが、宮田さんの演奏はコンクールを総なめにする高い技術力と大胆だがやり過ぎず、音の陰影が見事で、情感豊かで…もう宮田さんの演奏が聞けただけで帰ってもいいぐらい…(待て待て
演奏が終わり、置いてある椅子に慎重にチェロを立てかける宮田さん。チェロは1698年製A.ストラディヴァリウス。現存するストラディヴァリウスのチェロは50挺程度しかないらしく大変貴重な楽器を演奏会などの移動の際に持ち歩かねばならないことに苦労されている話や、手の柔らかさを保つために爪切りを使い、すぐに固くなる手の皮の処理をされていることなどのお話を伺えた。徹子さんはチェロを弾いていたことがあったらしく、しきりに大きくて重たくて大変だったお話をされ、それに対し宮田さんがその度に違うレスポンスをされていたことが印象的でした。お話上手で聞き上手な一面も見ることができた。
そしてこの日7月5日は宮田さんの37歳のお誕生日当日で、会場の皆さんとハッピーバースデーをなんと、宮田さんのチェロに合わせて(!)大合唱。「この日に生まれて良かったです!」とのサービストークもあり大盛り上がりで前半の幕が閉じる。
休憩は20分間とのことだったが、30分近くあったように思う。ご高齢の観客が多いことなどに配慮されていたのだろうか。おかげで宮田さんの演奏に興奮冷めやらぬ私はビールを片手に友人と談笑し、さらにお手洗いにも行けるという、いつもの20分休憩だったら考えられないゆっくりとした幕間を過ごせたのが個人的には嬉しかった。特にどうしても女性のお手洗いは混雑するので、会場の状況を確認して欲しいと思う場面はよくあるのだ。

さて、ほろ酔いになったところでお待ちかねの角野隼斗さんの登場である。
まずはショパン国際コンクールでも演奏した「ワルツ第1番 華麗なる大円舞曲」。快活で高雅なワルツ1番は角野さんの煌びやかな音色で聴くと、踊るのも忘れてしまいそうな優雅さと高貴さがある。最近この演奏会の前に角野さんのワルツ1番を聞く機会があり(6月30日バルトーク3@大宮ソニックEnc)、その時にも感じたのだが調号が変二長調に変わる場面のワルツの旋律の出し方に新解釈を感じる。

一部抜粋
ここのワルツのテーマは3回繰り返されるのだが、上記の楽譜の二段目、一度目は右手のGes-F-Es-Desを、二度目は内声のB-As-Ges-Fを、そして三度目には左手のDes-As-C-Desを際立たせて演奏されており、ショパンコンクールでも、昨年2022年の全国ツアー時にも感じなかった意図を感じた。
2曲目のカプースチン「トッカティーナ」。ショパンとは雰囲気を変え、だが同音連打の曲が続く印象。指さばきと旋律の複雑さ、そしてジャンルを横断するこの楽曲を挟むのは3曲しかない選曲の中で必須だろう。
瞑想を挟み、3曲目ドビュッシー「喜びの島」。実は会場でプログラムされたドビュッシーを私が聴くのは初めてだった。ドビュッシーの楽曲としては語り継がれる逸話の多い曲で、2番目の妻になるエンマとのジャージー島への旅行を知った最初の妻リリーは絶望してピストル自殺(未遂)を図ってしまう。
しかし楽曲に当時の背景を反映しすぎるのもナンセンスなので、恋人との旅行に我を忘れてはしゃぎまくっているドビュッシーの様子を浮かべながら拝聴。教会旋法が使われるこの曲は増音程や全音音階が使われ、素直なまでに歓喜している様子が付点の旋律で表されており、この日の角野さんの左手の分散和音にも良く表されていた。全体的には楽しみすぎてディズニーランドのアトラクションまで全速力でダッシュ!といった速度感だった。若い。若いな。ラストに向けての豊かな和音は大音響で素晴らしかったです。
トークの場面は何故か角野さんのものはよく聞こえなくて😅キーワードはお水、ぎこちない間、徹子さんも住んだことのあるニューヨークでの住所を伴う際どい話、だったでしょうか。徹子さんのお姿が見えないのでイマイチ会話の空気感を感じれずにいました。当日、会場には角野さんの長年の恩師、金子勝子先生のお姿もあり、先生の話題も上りました。坪井アナが終了を知らせるメロディーがショパンのノクターンOp9-2でそれでもお話がなかなか終わらずに続いていました。そう言えばお水は前半の演奏者には用意がなかったように記憶していましたが角野さんからはありました。(笑)
さて最後のゲストはヴァイオリニストの川井郁子さん。ボリュームのあるドレスで登場され、1曲目に演奏された「リベルタンゴ」はヒールを用いてステージに響くリズムを取っていらっしゃったのが印象的でした。そしてウクライナで作られたと言うドレスの紹介をされた後に、2曲目に繊細で情感溢れる「ロンドンデリーの歌(ダニー・ボーイ)」を演奏。抒情的だがウクライナの戦場を思うと痛切に感じる思いもあり、祈りを持って拝聴する。
フルートの高木さんの時にも感じたのだが、特に川井さんは全方位に向けて演奏をしてくださり、上手方面を向いて演奏してくださっている時は楽器もボーイングも良く見えて感激してしまった。
3曲目に演奏された「チャルダッシュ」は円熟味がありもうずいぶんと酔っているようなアルコールの匂いのする演奏。ビンテージワインといったところか🍷ピアニストのフェビアン・レザ・パネさんもそれに合わせて和音をアレンジしていた。
トークではドレスの話や、普段は洋服に無頓着なこと、ピラティスの話などをされていたと思います。
トーク終盤で、ステージ上にはピアノ椅子の交換や譜面台の設置が同時に行われ、「おお!!最後に全員でやるのかな!?」と気持ちがそちらへ行ってしまっていました。
そしてアンコールとして徹子の部屋の主題歌を4人で演奏するスペシャルステージ。角野さんの即興的な出だしから始まり、各演奏者が旋律をバトン形式で繋いでいき、角野さんにしてはシンプルな、楽譜に準拠した伴奏の部分を意外に感じつつも(まぁ演奏者たくさんいましたからね)、大団円で終演しました。
想像よりも満足感でいっぱいの演奏会で、公開収録といった雰囲気の演奏会も特別感があって良かった。カメラは多数設置されていたのできっとテレビの前で拝めることを期待して待つことにしよう。
また角野さんがゲストとして呼ばれることも楽しみに…