見出し画像

◆八田亨さん インタビュー【JIBITA初個展に向けて】

いつも大変お世話になっております、JIBITAののぶちかです。

さて今回のnoteは2023年10月に開催する八田亨さんのJIBITA初個展に向けてのインタビュー記事です。

2022年にそれまで約20年間使われてきた穴窯に別れを告げ、新たな穴窯を築窯された八田さん。

JIBITA初個展ではその新たな穴窯による作品が並ぶ訳ですが、今回はその新穴窯の事や周辺についてインタビューしてきましたので、ぜひ御一読頂ければ幸いです。

▽JIBITAオンラインショップ▽

<八田亨さん インタビュー>

この日は偶然、窯焚きの日でした。

のぶちか
新しい窯になってちょうど1年位経ちますが、以前の窯との比較の中で感じられる事や気付きなどがあれば教えて下さい。

八田さん
古い窯を作ったのが2004年で、独立して今年で丸20年なんですよ、6月1日で。その翌年に穴窯を作って。で、その時は昔勤めてた所の先生に設計してもらって作ったんですけど、自分のやりたい仕事自体もその不安というかちゃんと見えてなかったし、でも、伊賀みたいな焼き締めの灰がドロドロかぶったやつを焼きたいという思いがあったんですけど、それも本当にただ単純にそういう焼き物が面白いなと思っただけで、そっからやるに従って今、釉薬もんを穴窯で焼くっていうスタイルができて。で、もともと作った窯で焼き締めじゃなくて釉薬も焼くようになったじゃないですか。で、今の窯っていうのは古い窯を焚きながら、「もっとここ、こうしたいな」とか釉薬もんを焼く為に確立されてきた自分のスタイルがあって、それを焼く為に作った窯やから。で、その為にはこういう風な構造で、自分の作るペースも然り、生活ペースも然り、「こういう形にしたいな」っていうのをすごく20年間思ってきて、それを形にしてあげる。
でもそれって想像上で実際どうなるか分からへんけど、自分でこう実際に形にして焚く。だから仮説を実証していくみたいな感じ。先ずはそこがひとつあるんですよ。僕の焼き物の理解を深める為にどんどん改良したんですけど、とりあえず今はその完成形。こんなん記事にできます笑?

のぶちか
いやぁ、めちゃくちゃ良いじゃないですか!その中で色々と苦難というか「あっ、違ったな」とか「はまったな」とか、焼き終わった段階で色んな事があったと思うんですけど、そのあたりについて…。

八田さん
古い窯はすごい…、何て言うのかな…、ジャジャ馬笑。で、全然温度上がらなくて、でもそれをなんとか上手に工夫して焚こうとしてる中で、自分のスタイルが確立されたんですよ。でも、今回の窯はそこをクリアした状態で作ってるから、すごく性能が良すぎて、それでさっき言った「わざとこじらす(≒温度が上がらない様に焚く等)」とかね。そういう事を言ってるんやけど。そこはまあひとつ苦労してるかな。
すっとすんなり上がった窯はあまり面白くない。本当は赤松使ったらえぇんやけど、ほとんどは広葉樹を使うんですよ。それは火力があんまり高くなくて熾(おき)をたくさん作って芯からで焼きたいという感じ、イメージの話やけど。

のぶちか
赤松はカロリー高いって聞きますもんね。

八田さん
色んな薪を使うんですけど、「木ぃ切ったから取りにおいで」とかよく言われて色んなとこに薪をもらいに行くんですよ。で、赤松ばっかりで焚いた事があって、その時は確かに温度がスッと上がって「良かった良かった」って思ったけど、全然良くなくて、焼き上がったものが。面白くないの。軽い感じがして。表面だけがスッと上がっちゃったみたいで。
だから前までは温度が上がらない窯で1,200℃が釉薬を溶かす上でひとつの目標でもあるんやけど、最後の1,150℃から1,200℃でずっと長い間、焚いてたんですよ笑。それをやってる内になんか面白いもんが上がってきたっていうのが今までの流れなんだけど。

だから今はその温度帯でずっと引っ張っている状態。色んな陶芸のスタイルあるけど、例えば素地作って釉薬で彩色する様なタイプはそもそも釉薬の雰囲気で見せてるから。で、焼き締めの作家の製品ができるかどうかの判断基準っていったら、水が漏れるか漏れないかなんですよ。
つまり土をしっかり焼き締められてるかどうかなんですけど。じゃあ釉薬もんでもしっかり炉圧かけて芯から焼いたらどうなるの?って思って焼いてみたら、釉薬もんでもすごく面白いのができたっていうか、まぁ本当経験則やけど、そういうのがあって。それを新しい窯を作って僕が立てた仮説を証明しているところ。これは感覚の話やからまぁ口で言うレベルやけど、文字に起こして自分でその数式で「そうでしょう」って証明できる話やなくて、自分の仕事で見せていくしかなくて。

1回の窯焚きに5tもの薪を使うとの事。
ちなみにこれ⇧で全部じゃありません汗。

のぶちか
八田さんの頭の中にある理想の焼き上がりだったりとか、そういうイメージがあって、そこに八田さんの中で近い上がりになったかどうかっていうところで、証明していくというか…?

八田さん
さっき、どっちを狙ってるんですか?って、「酸化ですか?還元ですか?」っていう話、あったじゃないですか。それはどっちかっていうと、あの僕も毎月毎年焚いてるとめっちゃしんどいんすよね。
「窯出し、楽しみでしょう?」とか言って、全然楽しみじゃないもん笑。もうその都度、毎回毎回ショック受けるし。で、それをそれでもやっていく為に自分の中の許容を広くして、これもオッケーやし、こういう焼けもオッケー。酸化もオッケーやし還元もオッケー。別に狙ってないんですよ、どっちも。出て来たものを取る。これも面白いし、これも面白いなっていう風に自分の心をこう広く持っとかないと。これだけが欲しいってピンポイントに狙ったらめちゃくちゃなんかそれって…。自然相手やしこんだけ色んな薪使ってて、同じ様に焚いても同じ様に上がらないしね。
「こんな焼きが欲しいんです」って注文もらっても、絶対応えられないし、焼物ってそういうもんじゃないと思う。

のぶちか
僕はさっき頭の中にこういう焼きが理想のっていうのがありつつも、それとは別に「この子もいいじゃないか」っていう…。

八田さん
そうそう、それくらいのゆったりとかした感じで。その中でもありますよ、大きな舵取りはするし、目指したいポイントってのもあるし、好きな雰囲気もあるし。それも日々変わっていくからなぁ…。
「こういうのもだんだん好きになってきたね」っていうのはあるんですよ。それも全部含めて楽しみたいなと。

のぶちか
そのスタンスになったら毎月1回のハードな窯焚きがちょっと楽になったんですね。

八田さん
そうそう。精神的にちょっと楽に…。

のぶちか
そうですよね。1日多い時で 200キロ(の粘土を)ろくろひかれるんですもんね。

八田さん
まぁ1t/日には敵わん(森岡成好さんは1t/日ろくろをひくそうです)けど笑。

<展望>

八田さん
nomaでごはん食べた時にものが運ばれてきて、まず何か分かんない。初めて見る。初めて食べる。「えっ!?これ何!?何の食材!?」って。食べた味も食感を初めての感覚。そこに感動が生まれる訳で。例えばかつ丼が運ばれてきた時、かつ丼の味は想像できるし、食べた時の感動もかつ丼までじゃないですか。できたら僕は自分の意匠を作って、自分自身のものを作って、世界中の誰が見ても僕のもんだっていう風に分かるものを作りたいと思ってる。そこに感動が生まれると思うし。

今ようやく色んな器の形にしろ焼きにしろ釉薬にしろ、こういう意味でやってんだよっていうのを自分でちゃんと言える様になってきたというか。お皿とかの形もちょっと深めに作ったりとか、別に全然何の工夫も無いというか、もうありきたりな形でまあ、深めに作ってるだけはまああるんだけど、でもあの中でもいっぱい「あ、ここはこうしなきゃ。口がこれくらいの厚みで高台はこうしたいな」とかっていう色んなエッセンスがどんどん増えていってる、作る度に。
それが10年前、20年前じゃ僕の中に無かったものが今はきっと100個ぐらいはそのポイントがあるんですよ。それが増えれば増えるほど自分の形になるし、自分の作品に近付くじゃないですか。そば猪口にしても、すごい単純なシンプルな形やけど、自分で使ってて「いや、もっとこうしたいな」とか厚みにしろ口の薄さとか形状、焼きとか全部含めて1個1個僕の中に結構あるんです、成功例が。

例えば、作り始めの頃のろくろだとそば猪口作ろうと思ったら何気なく作ってるでしょう?そうじゃないんですよ。そば猪口ってのは「こういう風にしたい」っていうのは100種類のポイントがあるんですよ。もう全ての工程において笑。土とかろくろ、大きさもしかりやし形、厚み、手取り、焼き方、高台の深さとか、全部があって僕のそば猪口。だからやっと自分の作品が作れる様になってきたっていう感覚がある。何気なく作った窯じゃなくて、今はもうこれを作りたいから作った窯なんで、それはやっぱり僕の強み。自分の仕事に合わせて作れた2基目だから。

のぶちか
理論値の結集ですね。

八田さん
結集。しかも20年使おうと思って 20年間耐え得る構造にしてるし、そしてなんで 20年でやるかというと古い窯を20年使ったから。で、ここから窯って痛むんだなっていうのも分かったから今回の窯はそこに補強しているんです。

理論値を結集させた新穴窯。
補強も万全。

<土の事>


のぶちか
 インスタで「土が無くなったと連絡が入った」っていう衝撃の投稿を拝見しました。

八田さん
いやいや、あんなんずっとですよ。僕らのタイプの仕事っていうのはやっぱり安定した土がどんどん入って来る訳じゃなくて、信楽ってもうちょっと土が取れないんですよね。あの個人の作家さんが私有地から持ってる分とか多いと思うけど、信楽の町の持ち物としての鉱山とかももう無いんですよ。 20年ぐらい前にそういう新聞の記事を見た事がある。ゴルフ場になったかなんかで。元々あった信楽の土に見せる様にあの岐阜とか色んな所からの土をブレンドしてるんですよ。

工房にて。

のぶちか
 じゃあそこまで大きい影響は無いというか、ある意味達観してるというか?

八田さん
常に起こる変化に合わせて自分のやりたい仕事を安定化する為に、今は原土を数種類ブレンドしながらやってる。
土って面白くて、AとBの土をブランドするじゃないですか。例えば50対50でブレンドした場合、半々でそのそれぞれの土の特色を受け継ぐんですよ。
例えば萩の土と備前の土を混ぜるじゃないですか。萩の特色を50%、備前の土の特色 50%出た土が綺麗に出来上がる。まあ当然の事かもしれんけど。焼き締まり方も半々だし、色も半々の。「半分備前っぽいけど、半分萩っぽいよね」っていう土が出来上がる。そんな感じで、できるだけ作為的になんない様にする為にできるだけその天然のもの使うのが理想的。

のぶちか
天然の土という事ですか?

八田さん
天然の土。

のぶちか
原土って意味ですか?

八田さん
原土原土。

のぶちか
原土からじゃあ水簸したりとかして作っていくんですか?

八田さん
うん。

のぶちか
大変ですね!

工房にて自作の土を練る八田さん。

八田さん
ある程度の量を発注かけて、例えば3ミリの篩で振るったものを下さいとか、そんな感じですね。

のぶちか
なるほど。そこから作っていく感じなんですね。

八田さん
そこから作っていく感じだけど、それが限りあるのがすごいドラマチック。まあウィークポイントでもあり、面白さって思える日が来たら良いけどね。全てがやり直しだから、土が変わると。

のぶちか
そうですよね。では土が変わった事には気負いはそこまで大きくある訳じゃなく・・・。

八田さん
もう何回も経験してるから。
「まだ100tぐらいありますよ」とか粘土屋さんが言ってて、まだあると思ってもう3年後に次発注しようと思ったらもう無くなってたとかさ。

のぶちか
じゃあまあ、その都度一旦リセットでまた組み上げていくという…。

八田さん
しかないですね。土は本当に大事なんでね。良い土をやっぱりたくさん探して、実験を繰り返すのはずっとやり続けなきゃいけない。

のぶちか
土が変わる度に原土から土作りをされるんですもんね、大変ですね。

八田さん
数種類の原土をブレンドしてまた理想的な形になる様にするという感じですね。わざとらしくしたくないんですよ。できるだけ自然な雰囲気に近付ける為に…。

のぶちか
この場合のわざとらしさとか作為っていうのは今、土の話なんですけど、土がそういう手作りのものと既成のものだと、焼き上がりに違いを感じているという事で間違いないですか?

八田さん
そうですね、全然違いますよ。
例えば、新しい土がこの鉄粉の出が悪くて、これ混入したんですよ。これ、わざとらしいでしょ笑?


⇧鉄分を意図的に混入した例。

のぶちか
確かに確かに。

八田さん
こういう事。(鉄の出方がわざとらしくて)気持ち悪い笑。

のぶちか
なるほど~、分かりやすい。以前からあった鉄が出ていたタイプは元々原土に含まれていたんですか?

八田さん
そうそう。原土の中に(鉄分が)入ってたら自然じゃないですか。

のぶちか
そういう事ですね。ああなるほど…。


左:鉄分が原土に自然と含まれていたタイプ。
右:鉄分を意図的に混ぜたタイプ。

八田さん
偶然性のもんなんで、まあこん中にこれがあるとすごい活きている訳じゃないですか。それを出したいなぁと思って混入したけど、なんかもうゲロゲロってなっちゃって笑。

のぶちか
すごく分かりやすかったです。ナチュラルだったんですね、これは。

八田さん
そうそう、もちろん。その雰囲気ってのはなかなかその人工というか、ホットケーキ作るみたいにはできない。

<JIBITAでの個展に向けて>

八田さん
今、目の前の自分の課題をしっかりこなしつつ、それまでに少しでも良い仕事をお持ちできる様に。岡山より以南の個展は初めてなので頑張ります。

2023年5月25日 インタビュー

—終ー


◾️「八田亨 陶展」


会期:10月7日(土)〜15日(日)
会場:JIBITA
オンライン個展:個展終了後(詳細未定)

〜八田亨 略歴〜
1977年 金沢に生まれる
2000年 大阪産業大学工学部環境デザイン学科卒業
2003年 独立
2004年 穴窯築窯
2022年 2基目の穴窯築窯

▽JIBITAオンラインショップ▽


いいなと思ったら応援しよう!