グローバル化(7):ヨーロッパの混乱
米国大統領選が終わり、トランプ新政権の閣僚人事発表でまた様々な波乱を呼んでいますね。
前回 note「アメリカ大統領選」に4つの視点からまとめてみましたが、トランプ氏を始めとして彼らは理想よりも実利、そのためには既成概念や制度、既存の体制を叩き壊すことが正義・自分たちの使命と信じているので、当面はどこまで本気で実行に移していくのか、注視するしかないと思います。
さて、最近の記事や書籍を読むと、ヨーロッパでもナショナリズムが勢力をを得て、グローバル化、ポリティカル・コレクティブネスからの揺り戻しが起きているようです。
残酷な世界の本音 ~移民・難民で苦しむ欧州から
私がヨーロッパの動向にも興味を抱いたのは、ドイツを中心にしたヨーロッパの文化・政治に関する著作の多い川口マーン恵美さんと
青山学院大学大学院国際マネジメント研究科教授 福井義高さんの対談共著
「優しい日本人が気づかない残酷な世界の本音」を読んだからです。
本の中には、これまでの歴史観や日本に届いている報道からすると、陰謀論的な感じが少しする話も多いのですが、「歴史は勝者によって作られる」という名言もありますので、過去の歴史や現在の政策には日本人が知らない別の見方もあるという点で非常に参考になる内容でした。
本書の中から一つ例を挙げるとすれば、環境先進国を思われていたドイツですが、実は国際環境NGOとドイツ政府(与党:ミドリの党)、さらにメディアとの癒着があるという話には驚きを覚えました。
理想主義(Woke)のドイツ
実利に走る米国とは異なり、環境先進国で移民受入にも寛容で、理念・理想に重きを置くと見られていたドイツにおいて、水面下でこのような疑惑があれば、民衆の怒りが現政権・既存勢力に向かっていくのは当然でしょう。
そんな中で、民衆の支持を増やしているのが反移民や欧州連合(EU)からの離脱、気候変動対策批判を掲げる極右政党「ドイツのための選択肢(AfD、Alternative für Deutschland)」です。
また、政権内部でも自民党出身の元財務大臣が作成した「リントナー・ペーパー」と呼ばれている文書がリークされ、ドイツ国内の連立政権が事実上、崩壊に向かっているようです。
非常に現実的な提言に見えますが、理想主義(ポリティカル・コレクティブネス)を掲げてきた現政権内部ではこの方針転換は受け入れがたいもののようです。詳しくは前著と同じ川口マーン恵美さんが以前に出した新書も参考になるかと思います。
トランプ政権との呼応
さて、こうしたドイツを中心にした右派勢力の躍進は、EUとして連帯を深めてきたヨーロッパ各国でも同様の現象が見られるようです。
下記、記事によると、EU加盟国ながら自国主義を唱えるハンガリーだけでなく、オランダ、オーストリア、フランス、英国、ポーランド、スペインで右派・極右政党が躍進しているようです。
さらにロシアでも親プーチンの極右思想家ドゥーギン氏がトランプ氏のナショナリズムに賛同しているのは不気味に感じます。
実利主義の米国、理想主義のドイツ、どちらの国においてもグローバル経済、ポリティカル・コレクティブネスを掲げるエリート層から置いてきぼりにされた民衆が反移民・反環境問題、そして自国第一主義(ナショナリズム)に走るのは世界的な潮流なのかもしれませんね。
日本はどうなのかという点で、本書「優しい日本人が気づかない残酷な世界の本音」の最後に、
日本はスイスのような勤勉さと狡猾さを備えるべきだという提言とともに、福井氏から「欧米の惨状に比べれば日本はずっとマシ」「日本ののらりくらりが一種の戦略であるかもしれない」というコメントは頷いていいのか、嘆くべきなのか、笑っていいのか、どうなんでしょう。