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グローバル化(7):ヨーロッパの混乱

米国大統領選が終わり、トランプ新政権の閣僚人事発表でまた様々な波乱を呼んでいますね。
前回 note「アメリカ大統領選」に4つの視点からまとめてみましたが、トランプ氏を始めとして彼らは理想よりも実利、そのためには既成概念や制度、既存の体制を叩き壊すことが正義・自分たちの使命と信じているので、当面はどこまで本気で実行に移していくのか、注視するしかないと思います。

さて、最近の記事や書籍を読むと、ヨーロッパでもナショナリズムが勢力をを得て、グローバル化、ポリティカル・コレクティブネスからの揺り戻しが起きているようです。

残酷な世界の本音 ~移民・難民で苦しむ欧州から

私がヨーロッパの動向にも興味を抱いたのは、ドイツを中心にしたヨーロッパの文化・政治に関する著作の多い川口マーン恵美さんと
青山学院大学大学院国際マネジメント研究科教授 福井義高さんの対談共著
「優しい日本人が気づかない残酷な世界の本音」を読んだからです。

序章 日本人はヨーロッパの勢力図を何も知らない 
 ◆ウクライナ戦争のカギを握る東欧
 ◆米のノルドストリーム爆破になぜドイツは怒らないのか 他
第1章 民族「追放」で完成した国民国家
 ◆開戦責任はヒトラーだけではない
 ◆冷戦時代に成功した東欧の国民国家化 他
第2章 ベルリンの壁崩壊とメルケル東独時代の謎
 ◆ベルリンの壁を壊したのはソ連だった?
 ◆「赤い牧師」の父を尊敬していたメルケル
 ◆狙いは理想的な社会主義の完成  他
第3章 封印された中東と欧州の危ない関係 
 ◆サウジ・イラン国交正常化にどうするアメリカ
 ◆トランプ路線ならイスラエルとサウジの合意はできた
 ◆トルコ移民の祖国へのジレンマ  他
第4章 ソ連化するドイツで急接近する「極右」と「極左」
 ◆左傾化したドイツでAfDの台頭は必然
 ◆EU人=グローバルエリートと国民の乖離
 ◆リベラル・デモクラシーはなぜ共産主義に似るのか 他
第5章 ドイツを蝕む巨大環境NGOと国際会議
 ◆欺瞞だらけのエネルギー転換政策を推進する始まりの論文
 ◆ドイツの脱原発のコストは年間一・二兆円
 ◆原発政策はフランを見習え  他
第6章 国家崩壊はイデオロギーよりも「移民・難民」
 ◆人の命を食い物にする「難民ビジネス」も横行
 ◆絶対に難民を入れないという東欧諸国の覚悟
 ◆本音では難民を受け入れたくないEU諸国
 ◆大多数の国民が“損”をする移民政策
 ◆クルド人が起こす事件続出で日本でも難民問題が急浮上 他
終章 日本は嫌われても幸せなスイスとハンガリーを見習え
 ◆LGBTへの反撃
 ◆子供の性転換手術でリベラルと保守が共闘
 ◆国民の幸福度が世界一のスイス
 ◆国民と国民経済を守る政治家の覚悟  他

「優しい日本人が気づかない残酷な世界の本音」目次

本の中には、これまでの歴史観や日本に届いている報道からすると、陰謀論的な感じが少しする話も多いのですが、「歴史は勝者によって作られる」という名言もありますので、過去の歴史や現在の政策には日本人が知らない別の見方もあるという点で非常に参考になる内容でした。

本書の中から一つ例を挙げるとすれば、環境先進国を思われていたドイツですが、実は国際環境NGOとドイツ政府(与党:ミドリの党)、さらにメディアとの癒着があるという話には驚きを覚えました。

「過小評価されるグリーン・ロビーの権力」という長大な論考が独大手紙『ディ・ヴェルト』のオンライン版に載ったのは2021年4月30日でした。
綿密な取材の跡が感じられる素晴らしい論文で、読んだとき、私は久しぶりにジャーナリズムの底力を感じたものです
巨悪に立ち向かう弱小な組織
といったイメージの環境NGO(非政府組織)が、実は世界的ネットワークを持ち、政治の中枢に浸透し、強大な権力と潤沢な資金で政治を動かしている実態、多くの公金がNGOに注ぎ込まれている現状、そして、批判精神を捨て、政府とNGOを力強く後押しするメディアの癒着を暴いているのです。

現代ビジネス 共著記事「日本メディアが報じない「環境NGO」のヤバすぎる実態」より


理想主義(Woke)のドイツ


実利に走る米国とは異なり、環境先進国で移民受入にも寛容で、理念・理想に重きを置くと見られていたドイツにおいて、水面下でこのような疑惑があれば、民衆の怒りが現政権・既存勢力に向かっていくのは当然でしょう。

そんな中で、民衆の支持を増やしているのが反移民欧州連合(EU)からの離脱気候変動対策批判を掲げる極右政党「ドイツのための選択肢(AfD、Alternative für Deutschland)」です。


また、政権内部でも自民党出身の元財務大臣が作成した「リントナー・ペーパー」と呼ばれている文書がリークされ、ドイツ国内の連立政権が事実上、崩壊に向かっているようです。

■景気回復のためには、ばら撒きでなく構造改革。
■各種規制を見直し、以後3年間、企業の負担となる規則(たとえばサプライチェーン法)はなくし、新しい法律や規制も作らない。
■27年を目処に連帯賦課金(東西ドイツの統一の後、旧東独の支援のために作った税金)を全面廃止。法人税の減税、児童手当の増額。
気候保護に関する目標値を見直し、ドイツだけが掲げている極端な目標は撤廃。気候対策に対する補助金は、再エネの買い取りを含め全て廃止。CCS(炭素回収・貯留)の技術の促進。国内のシェールガスの採掘の開始(ドイツは環境に悪いとして、CCSもシェールガスの採掘も禁止している)。
■労働市場を再編するため、働ける人も貰える潤沢な市民金など、労働意欲を減退させる生活保護はやめる

現代ビジネス「解任された財務大臣がショルツ首相に突き付けていた「最後通牒」」より
 

非常に現実的な提言に見えますが、理想主義(ポリティカル・コレクティブネス)を掲げてきた現政権内部ではこの方針転換は受け入れがたいもののようです。詳しくは前著と同じ川口マーン恵美さんが以前に出した新書も参考になるかと思います。


トランプ政権との呼応

さて、こうしたドイツを中心にした右派勢力の躍進は、EUとして連帯を深めてきたヨーロッパ各国でも同様の現象が見られるようです。

下記、記事によると、EU加盟国ながら自国主義を唱えるハンガリーだけでなく、オランダ、オーストリア、フランス、英国、ポーランド、スペインで右派・極右政党が躍進しているようです。
さらにロシアでも親プーチンの極右思想家ドゥーギン氏がトランプ氏のナショナリズムに賛同しているのは不気味に感じます。

トランプ氏のMAGA(米国を再び偉大に)運動欧州のポピュリストには、思想面で強い共通点がある。みな反移民反「ウオーク(woke)=社会正義に目覚めた企業や人」、反グローバリストの立場をとり、ロシアにはほぼ同情的で、イスラエルを強く支持している。

Financial Times ギデオン・ラックマン コラムより

実利主義の米国理想主義のドイツ、どちらの国においてもグローバル経済、ポリティカル・コレクティブネスを掲げるエリート層から置いてきぼりにされた民衆が反移民・反環境問題、そして自国第一主義(ナショナリズム)に走るのは世界的な潮流なのかもしれませんね。

日本はどうなのかという点で、本書「優しい日本人が気づかない残酷な世界の本音」の最後に、
日本はスイスのような勤勉さと狡猾さを備えるべきだという提言とともに、福井氏から「欧米の惨状に比べれば日本はずっとマシ」「日本ののらりくらりが一種の戦略であるかもしれない」というコメントは頷いていいのか、嘆くべきなのか、笑っていいのか、どうなんでしょう。


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