情報システム(3):デジタルトランスフォーメーション
経営と情報システムの3回目として、まさに今がまさに旬な話題と言える
DX(デジタルトランスフォーメーション)について取り上げてみます。
DXブーム
Amazonのビジネス・経済カテゴリー内で「DX」とキーワード検索してみると538件(冊)ヒットしました。
30年以上前の「SIS」以上、20年前の「インターネット革命」に近い盛り上がり方かもしれません。
私もいくつか関連する書籍を読んでいますが、国内外の様々な事例集的なものも多く、戦略フレームワークとして「これが決定打」というものが、まだ私には定かではないので、今回は以下のおすすめ本サイトを紹介しておくことに止めておきます。
さて、ネットを主戦場とするGAFAMや中国のBATHなどのメガ・プラットフォーマーの興隆は以前から話題になっていたのに、なぜ、ここ数年で急に「デジタル」が盛り上がってきたのでしょう?
DX事始め
デジタル・トランスフォーメーションの初出はWikipediaや他のWeb記事でも2004年にスウェーデンのウメオ大学教授 エリック・ストルターマン(Erik Stolterman)が"Information Technology and the Good Life" の中で提唱したとされています。(随分、前の話ですね。)
・デジタルトランスフォーメーションにより、情報技術と現実が徐々に融合して結びついていく変化が起こる。
・デジタルオブジェクトが物理的現実の基本的な素材になる。例えば、設計されたオブジェクトが、人間が自分の環境や行動の変化についてネットワークを介して知らせる能力を持つ。
その特徴として、上記が上げられています。「人々の生活(the Good Life)」という意味では多様なセンサーが自分の回りの変化を感知し、
PDA (Personal Digital Assistant)に通知する世界を当時は指していたように思えますが、いまで言うデジタル・ツインのことまで想定したのかもしれません。(iPhone の登場は2007年)
また、もしかすると、当時「Second Life」が立ち上がった頃ですので、アバターの世界やその後のVRやARの登場を予見していたのかもしれません。
デジタル < トランスフォーメーション
その後、時を経てIDC社が2016年に出した定義では、人々の生活が変わるという視点から、企業変革(トランスフォーメーション)の視点へとポイントが変化しています。
企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンス(経験、体験)の変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること
この間に何があったかと言えば、AirBnbがAirbedandbreakfast.comという名前から改称し、個人所有のアパートや別荘を幅広く紹介し始めたのが2009年3月。Uberが本格的に個人の自家用車を使った配車サービスを始めたのが2012年7月です。
つまり、GoogleやFacebookのようなバーチャルな世界のBtoCモデルとは異なる、リアルな世界のCtoCモデルが立ち上がったことが大きかったのではないでしょうか?
AirBnbやUberなど新たなビジネスモデルによる新規参入は旅行・ホテル業界やタクシー業界など既存業界への大きな脅威(破壊的変化)となったのです。
これまでにもAmazonやApple、Spotify、Netflixによって、書籍、音楽、映画などがデジタルメディア配信に急激にシフトしました。また、ECによって小売業も売上減少傾向に歯止めがかからず、今回のコロナ禍でいよいよリアル店舗の存在意義を問い直されることになるでしょう。
また、3Dプリンター等を中心にした設計・製造工程の自動化や個別受注生産のeマーケットプレイス化が始まったことも見逃すことは出来ません。
つまり、ホテルやタクシー業界、また、自動車業界や部品製造業などリアルな事業者にとって、これまで「対岸の火事」だったデジタル化のインパクトが、いよいよ自分たちの業界構造も破壊されるかもしれないと危機感を持ったのが大きな理由だと思います。
その意味で前回お話した2つの戦略的側面のうち、この立ち位置から見れば、DXにおけるIT・情報システムの役割は「ビジネスモデル変革」ということになります。
インダストリー4.0
一方、新たなビジネスモデルを引っ提げて新規参入してきたドットコム系企業との闘いとは別の戦略的側面(バリューチェーン高度化)で、既存産業(主に製造業)に与えるデジタル化の影響にフォーカスしたのが、
インダストリー4.0にあると考えています。
(DXブームの中で少し影を潜めてしまった感がありますね。
Amazonのビジネス・経済カテゴリー内でキーワード検索すると
インダストリー4.0は51件とDXの1/10以下でした)
インダストリー4.0は、ドイツが2011年に提唱した第4次産業革命のことです。
製造業がデジタル化によって大きく成長するために、全バリューチェーンの設計から製造までをシームレスに行うためのプラットフォーム実現が必要だと提唱しました。「スマートファクトリー(考える工場)」というコンセプトも打ち出されました。まさに「バリューチェーン高度化」です。
ほぼ同時期に米国でも「インダストリアル・インターネット・コンソーシアム」が立ち上がりました。遅ればせながら日本でも2017年に「コネクテッド・インダストリーズ」という戦略を打ち出しています。
また、中国も2015年に「中国製造2025」を発表しています。
これらは各国の政府や業界団体が注目し、次なる産業政策の目玉となっている言えるでしょう。情報システムの戦略的側面の一つである「バリューチェーン高度化」がいよいよ個別企業の差別化戦略を超えて、製造業クラスター全体・国の競争力を左右するようになってきたのです。
DXレポート (情報システムとの関わり)
さて、最後に経済産業省が2018年9月に出した「DXレポート」は
「2025年の崖」という衝撃的なキーワードとともに、国内産業界に広く警鐘を鳴らしました。
2025年の崖
多くの経営者が、将来の成長、競争力強化のために、新たなデジタル技術を活用して新たなビジネス・モデルを創出・柔軟に改変するデジタル・トランスフォーメーション(=DX)の必要性について理解しているが・・・
・ 既存システムが、事業部門ごとに構築されて、全社横断的なデータ活用ができなかったり、過剰なカスタマイズがなされているなどにより、複雑化・ブラックボックス化
・ 経営者がDXを望んでも、データ活用のために上記のような既存システムの問題を解決し、そのためには業務自体の見直しも求められる中(=経営改革そのもの)、現場サイドの抵抗も大きく、いかにこれを実行するかが課題となっている
→ この課題を克服できない場合、DXが実現できないのみでなく、2025年以降、最大12兆円/年(現在の約3倍)の経済損失が生じる可能性(2025年の崖)。
上記が発表されたサマリー資料1枚目のヘッドメッセージです。
DXによる「ビジネスモデル変革」やインダストリー4.0による「バリューチェーン高度化」をしようにも、国内企業の多くは既存の情報システムが複雑化・ブラックボックス化(いわゆるレガシー問題)しているため、DXを望んでも、高度なデータ活用をしようにも、足元のレガシー問題を解決しないと日本経済の大きな足枷になる。と述べられています。
日本企業における情報システムのこれまでの位置づけが「投資対効果が見えづらい」「マネジメントしづらい組織」と言われ、SISでも、ERP、そしてeビジネスやプラットフォーム戦略でも、どこか一時的なブームで終わってしまいました。
JEITA(電子情報技術産業協会)による最新の「日米企業のDXに関する調査結果」(2021年1月)でも、日米ともにIT予算が増えているものの
日本企業はいまだ投資対効果が測りやすい「社内の業務改善」に情報システムの役割は止まっているようです。
IT 予算は日米ともに増加傾向がみられるものの、その理由は米国企業が市場や顧客の変化の把握(ビジネスモデル変革やサービス開発強化)などである一方、日本企業は働き方改革や業務効率化などであり、米国企業の多くが外部環境把握に IT 予算を投じているのに対して、日本企業はいまだ IT 予算の大半が社内の業務改善に振り分けられていることが明らかになりました
( )は筆者追記
2020年代に入り、ここで一機に、これまで情報システムに対する継続的な新規投資、基幹系システム更改を含めた本格的な投資をしてこなかったツケが日本企業や行政機関、延いては日本経済全体を襲っているような気がしているのですが、どうでしょうか?
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