経営戦略総論(13):巨大企業の躓き(中国の事例)
前回の経営戦略総論(11)巨大企業の躓き(日本の事例)、前々回
(12)米国事例に続いて、今回は(中国の事例)です。
なかなか大手企業の実態や情報が入手しづらい中国企業ですが、最近は中国版GAFA「BAT」もしくは「BATH」(Baidu/百度、Alibaba/阿里巴巴、Tencent/騰訊、HUAWEI/華為)を中心に多くの記事や書籍が出ていますので、それらを中心に中国巨大企業の躓きについて、考察してみたいと思います。
アリババの迷走
2020年11月にアリババの金融子会社アント・グループの上場が中国当局の圧力により延期になって以降、アリババの時価総額は急落し、22年1~3月期の最終損益が162億元(約3千億円)の赤字、経営幹部の交代とこれまで高成長路線から一転、その迷走ぶりが伝えられています。
最近も6月20日に、現 張勇会長兼最高経営責任者(CEO)が退任し、蔡崇信氏が会長に、呉泳銘氏がCEOに9月10日付でそれぞれ就任すると発表されましたが、今度の再成長、栄光の復活に期待を持たれつつ、株式市場では懐疑的な見方も多いようです。
私も以前からアリババには注目していて、2010年に発刊された「アリババ帝国」という本(いまは絶版)を読みました。この本にはアリババの成長と創業者馬雲=ジャック・マー氏の約20年間に渡る軌跡が書かれています。
アリババは1999年に馬氏によって杭州市で設立されましたが、当時数十名程度の中国発ベンチャー創業者に孫正義氏は翌年の2000年に会っていて、約20億円の投資を決めたそうです。ソフトバンクグループも最近は苦労しているようですが、孫氏の慧眼には驚くばかりです。
中国的経営
さて、アリババやBATHに象徴される中国の巨大デジタル企業の経営スタイルはどうなっているのか? そして彼らは大企業病に侵されていないのか、それをどう克服しようとしているのか?について、広範囲に渡って鋭く切り込んだ書籍が2023年1月に発刊されました。
この本の著者は、中国デジタル企業の「中国的経営」の本質は「権威主義的マネジメント」と「プラットフォーム志向」にあると分析し、その強さと弱さについて解説しています。さらに、中国におけるネットビジネスの成熟から、次なる一手として「ネットとリアルの融合」中国的経営2.0に向かっているとして、主要各社ごとに詳細な戦略分析を行っています。
そして中国企業が中国的経営2.0に向かう中で、いかに「両利きの経営」に企業変革しようとしているか、ウリケ・シェーデ教授が使った「適合モデル(コングルエンス・モデル)」をベースに分析し、最後に日本企業への提言で締めくくられています。
新聞・雑誌等の書評でも高く評価されていますので、興味のある方はぜひ、ご一読ください。
中国的資本主義
以前、「資本主義だけ残った」という書籍を紹介しました。
この中で、中国はもはや共産主義でも社会主義でもなく「政治的資本主義」と呼ばれる構造になっている話を取り上げました。
そして、「政治的資本主義」の特徴は
1)優秀な官僚に国家運営を任せる (民にすべてを委ねない)
2)法の支配の欠如 (主席や党が法を超えて、権力を揮える)
3)国家の自律性 (国益を最優先し、民間部門を統制する)
にあるとし、それがいまの中国の姿だと書かれています。
アリババのアント・グループ上場延期を始め、中国企業は外国籍企業以上に政府の政策転換や党からの指導に翻弄されます。「共同富裕」もその一つですし、中国政府による「プラットフォーマー規制」も年々、強化され変化しています。この点は「中国的経営」でも章を割いて書かれています。
政府に翻弄された企業家の驚愕すべき話として、香港出身のデズモンド(沈棟)が書いたビジネスパートナー・元妻のホイットニー(段偉紅)との回想録「レッド・ルーレット」が世界中でベストセラーになりました。
彼らは当時「赤い貴族」の頂点に位置する温家宝一族との結び付きに助けられて、中国超資産階級の仲間入りします。平安保険株の上海証券取引所上場で大金をつかみ、その後、北京国際空港の巨大な物流センター建設や北京高級街区ジェネシスの建設に関わり、財を成していきます。
しかし、2012年に温家宝ファミリーによる巨額蓄財が報じられ、習近平体制下の腐敗一掃運動の中、温一族と深い関係を持ち、疑惑の平安保険の株の取引にも関わったホイットニー・デュアンが行方不明になっています。
さいごに
米国企業は経営陣の株価至上主義に翻弄され、日本企業はポートフォリオ経営の失敗に躓き、中国企業は中国政府の政治的資本主義に翻弄されと、グローバルな視点で見ると巨大企業の躓きは国によって違いや傾向があるようです。
企業経営の観点からすれば、どれも外部環境・内部環境の一部になりますが、熾烈な環境変化への対応や過去からのバイアスに惑わされず、それをどう乗り越えていくかが、巨大企業の持続的成長には求められています。
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