配偶者控除、配偶者特別控除(その2):事例1
「年収の壁」の相談事項のトップ10の中に、配偶者控除と配偶者特別控除に関する質問が多いですね。控除が受けられる要件を見てもなかなか自分事にしづらいのかもしれません。事例を通して理解が深まればと思います。今回は妻の年収120万円、夫の年収800万円の場合について見てみましょう。
控除の要件については、こちらを合わせてご参照ください。
合計所得金額の見積り方法は、こちらを合わせてご参照ください。
事例1
50代ご夫婦の例として
・妻(55歳)、パートをして給与収入を得ている。年収120万円。
・夫(58歳)、会社員で給与収入を得ている。年収800万円。
・夫婦は、一緒に生活している(同居、生計を一にしている)。
・共に給与収入以外に収入はない。
この場合、夫は、妻について配偶者控除が受けられるか。
結論:配偶者控除は受けられないが、配偶者特別控除が受けられます。
1.要件の確認
配偶者控除について確認してみましょう。
(1)民法の規定による配偶者であること:OK
(2)納税者と生計を一にしていること:OK
(3)年間の合計所得金額が48万円以下:NG
合計所得金額を計算してみると、
120万円(給与)ー 55万円(給与所得控除)=65万円 > 48万円
収入の要件で、配偶者控除はうけられないですね。
配偶者特別控除についても確認してみましょう。
(4)年間の合計所得金額が48万円超133万円以下:OK
合計所得金額:65万円は、48万円超133万円以下に当てはまる。
(5)配偶者が、配偶者特別控除を適用していないこと:OK
(6)控除を受ける納税者本人の合計所得金額が1,000万円以下である:OK
以上から、配偶者特別控除の要件は満たします。控除は受けられそうです。次に控除額がいくらになるかみていきましょう。
2.控除金額
(7)納税者の合計所得金額は、
800万円 ー (800万円x10%+110万円)(給与所得控除) = 610万円
配偶者特別控除の控除額の表から、配偶者の合計所得金額65万円、納税者の合計所得金額610万円を満たす控除額は、38万円とわかります。配偶者控除の控除額と同額です。
3.まとめ
給与収入が妻120万円、夫800万円の場合、配偶者控除は受けられないが
配偶者特別控除が受けられる。控除額は38万円。注意したいのは、合計所得金額を求める必要があるということです。
4.考察
ちなみに、配偶者の合計所得金額が95万円まで控除額は同額です。このことから年収を逆算すると、年収150万円までは38万円の控除額が受けられることもわかります。これが、俗にいう「年収の壁」の「150万円の壁」です。年収150万円を超えると配偶者特別控除が満額控除されず、その後年収201万円まで段階的に減っていきます。
また控除が受けられなくなった場合、所得税がどのくらい増えるのかも確認しておきましょう。納税者の合計所得金額が610万円の場合、税率は20%です。およそ38万円x20%=7.6万円と見積もられます。
会社務めの方は、賞与(ボーナス)による振れ幅、残業手当が出る方は残業時間の変動、昇格・昇給といった要因での年収の振れ幅の方が、7.6万円よりも同じかむしろ大きいのではないかと思いますが、いかがでしょうか。あるいは配偶者の年収が7.6万円分かそれ以上に増えた方が、世帯所得としてはプラスになると思います。
要は控除に意識を向けるのもよいが、仕事をして積極的に収入を増やすことに意識を向けてもよいのでは?と個人的には思います。守りに入るよりも、攻めに行く感じでしょうか。
配偶者控除の主旨は、配偶者の協力で稼いだので納税者負担を軽減する
です。昨今は一人ひとりが活き活きと働く時代だと思います。「内助の功」に配慮しつつも、積極的に社会に出てかかわりを持つようにされてはいかがでしょうか。わたくしは、これからも働く女性を応援いたします。