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扶養控除ってどういうこと?(事例付)

 納税者が扶養する家族の経済的負担を軽減する目的で、扶養控除制度が導入されました。今日、さまざまな扶養控除があるので、事例を交えて整理してみましょう。ポイントは、以下の3点。
 ・主体が納税者
 ・扶養する家族の年齢と合計所得金額で、該当するか否かが決まる。
 ・配偶者は別扱い(別に、配偶者控除がある)。

1.扶養控除の対象となる人

 どういう人が扶養控除の対象者となるのか、把握しておきましょう。

1.1扶養親族であること

  その年12月31日の現況で、4つの要件すべてに当てはまる人です。(国税No.1180)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1180.htm
  1)配偶者以外の親族(6親等内の血族および3親等内の姻族)
       または、都道府県知事から養育を委託された児童(里子)
       や市町村長から養護を委託された老人
  2)納税者と生計を一にしていること。(同居ではない)
  3)年間の合計所得金額が48万円以下(年収ではない)
  4)青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないことまたは白色申告者の事業専従者でないこと。

 1.2扶養親族のうち、その年12月31日現在の年齢が16歳以上の人。

非居住者の扶養親族についての取り扱いがありますが、ここでは省略します。非居住者とは、居住者以外の個人。居住者とは、国内に「住所」を有し、または、現在まで引き続き1年以上「居所」を有する個人をいいます。(国税No.2875)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2875.htm

2.扶養控除の区分と控除額

扶養親族の年齢別に以下のようになります。控除金額は表をご参照ください。(国税No.1180)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1180.htm
その年12月31日現在の年齢が16歳以上19歳未満:一般の控除対象扶養親族
その年12月31日現在の年齢が19歳以上23歳未満特定扶養親族
その年12月31日現在の年齢が24歳以上70歳未満:一般の控除対象扶養親族
その年12月31日現在の年齢が70歳以上老人扶養親族

扶養控除の金額

3.事例

 いくつかの具体的な事例で控除額を見ていきましょう。

1.19歳の息子がアルバイトをして、年収が70万円です。

 この場合、給与所得控除額55万円を差し引くと15万円になります。
  70万円(年収) - 55万円(給与所得控除) = 15万円(給与所得金額)
これは、給与所得金額です。アルバイト以外に所得がない場合は、合計所得金額は15万円になり、合計所得金額48万円以下なので、特定扶養親族としての要件を満たします。
  15万円(給与所得金額) - 48万円(基礎控除)= 0円
よって納税者は、扶養控除額63万円を課税所得金額から差し引くことができます。わかりやすく言うと、特定扶養親族の控除を受けられます。
また、息子さん自身の所得税もゼロ円です。

2.20歳の娘がアルバイトをして、年収が130万円です。

 この場合、給与所得控除額55万円を差し引くと75万円になります。
  130万円(年収) - 55万円(給与所得控除) = 75万円(給与所得金額)
これは、給与所得金額です。アルバイト以外に所得がない場合は、合計所得金額は75万円になり、合計所得金額48万円を超えるので、特定扶養親族としての要件を満たしません。
   75万円(給与所得金額)>合計所得金額48万円
よって納税者は、扶養控除額63万円を課税所得金額から差し引くことができません。特定扶養親族の控除を受けられません。もし娘さんが昨年の年収が70万円で今年130万円だったとしたら、今年は特定扶養親族の控除分が課税所得金額が増えて、所得税は変わるでしょう。娘さんがバイトするようになって俺の税金が増えたと怒るのも大人げないのでは?むしろ「立派に稼げるようになったな。ほどほどにしときな。社会にでて嫌というほど働くことになるから」と諭すぐらいになりたいですね。
 また娘さんは、勤労学生としての要件を満たせば、基礎控除に加えて勤労学生控除(控除額27万円)が受けられます(国税庁No.1175)。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1175.htm
よって課税所得金額を見積もると、
  75万円(給与所得金額) - (48万円(基礎控除)+ 27万円(勤労学生控除))=0円
課税所得金額はゼロ円のため、娘さんの収入に対して所得税はかかりません。

3.同居している68歳になる母は年金をもらっています。年金額は86万円です。

 この場合、雑所得金額は、以下の表よりゼロ円です。
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/03_1.htm

公的年金等に係る雑所得の速算表

  年金以外に所得がない場合は、合計所得金額はゼロ万円になり、合計所得金額48万円以下なので、一般の控除対象扶養親族の要件を満たします。
よって納税者は、扶養控除額38万円を課税所得金額から差し引くことができます。わかりやすく言うと、一般の控除対象扶養親族の控除を受けられます。老人扶養親族は70歳以上なので注意が必要ですね。

4.同居している73歳になる父はさまざまな年金をもらっています。年金の合計額は350万円です。

 この場合、「公的年金等に係る雑所得の速算表」を使って所得金額を見積もると
  350万円 x 0.75 - 27.5万円 = 235万円(所得金額)
年金以外に所得がない場合は、合計所得金額は235万円になり、合計所得金額48万円を超えるので、老人扶養親族としての要件を満たしません。よって同居の老人扶養親族の控除を受けられません。これぐらい年金をもらっていると「息子の世話にはならないよ」とでも言いましょうか。素晴らしいですね。

4.まとめ

 扶養控除という制度の主旨が、扶養家族を持つ納税者の経済的負担を軽減するためにあるので、ある程度年収に制限を設けている点は意識しておきたいですね。ただし、これに縛られてしまうのもいかがなものかと思います。昔と違ってさまざまな働き方や稼ぎ方ができる今日です。自分に合った働き方を見つけて欲しいです。
 税制は、法律なので適用するための要件を定義しています。要件に事象を当てはめて結論を得る、という思考過程でご説明しましたがいかがだったでしょうか。要件をキチンと理解できれば、それほど難しいことはないと思います。また要件が理解できると、逆に要件を満たすように事象に検討を加える、という考察もできるようになると思います。「年収の壁」に対して逃げるのではなく、税制を理解し「年収の壁」を攻めていきましょう。

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