ルイス・クー主演の香港映画「眺望良好」は過酷な住宅事情と市民の不満を描いたブラック・コメディ 《家和萬事驚》"A Home with a View"
Netfilixの新着に、2019年旧正月に香港で公開されたコメディ映画「眺望良好」がリストアップされていたので観賞。《家和萬事驚》"A Home with a View"。
映画を通して、リアルな香港の住宅事情や問題も垣間見ることが出来たので、香港在住者として、ちょっと解説してみよう。
香港の物価は高い。特に住宅価格は恐ろしく高い。それは、居住面積が限られているのに、住民が多いので当たり前のことではあるが。昨今は、中国本土からの移民も増えており、ますます居住環境は悪くなっている。そのことで貧富の差も広がっており、長年社会問題となっている。
(※以下、不動産価格等はあくまで個人の見解です)
この映画のアパートの舞台は、おそらく香港島の東区にある北角(ノースポイント)もしくは鰂魚涌(クオリーベイ)あたりであろう。日本でいう下町エリアかな。
3LDKで、広さは600〜700sq(約55〜65平米)。古いので、築30年は超えていると思う。この一家は5階に住んでいるが、エレベーターはない。
この条件で、いくらなのか?
劇中、妻のアニタ・ユンは、不動産屋を訪れ「海の景色が見れなくなったから、100万ドル下がった」と騒ぐシーンがある。
100万ドル=約1,360万円(2020年8月現在)。そして、外に貼られた広告の金額が680万ドルとなっていたので、約9,260万円である。
あんな、といっては失礼かもしれないが、ボロボロのアパートでも約一億円するのである。
映画が製作されたのは、2018年だが、コロナ禍の現在も、相場は大きく変わってはいない。
35年ローンを組んでも、頭金を入れて生活は苦しいはず。なので家族で節約しあっているのだ。ローンはまだ20年もある。だからチャン・タトミンのおじいちゃんは「わしが死ねば‥」というのである。
音楽やってる息子ン・シウ・ヒンに、お父さんが「文句があるなら3万ドル稼いで出てけ」と言うが、「3万稼ぐには親が裕福じゃないと無理だ」と言い返す。
金持ちの家では、子供もよい大学へ行き、よい就職先もあるので、月収3万ドル(約40万円)もらえるだろう。そのくらいは稼がないと香港では部屋も借りれない。
お父さんの職業は、不動産屋。貧乏な客に劣悪な物件を仲介している。
映画に出てくるのは、本当は倉庫で、そこを改装して人に貸している違法物件だ。なので、トイレも共同で風呂もない。それでもおそらく5千ドル程度(約6万8千円)はすると思う。普通の1DKのアパートを借りると少なくとも1万5千ドル以上(約20万円〜)は必要だ。
香港の若者が、結婚もできない、家も買えないのはこういう事情があるからだ。2019年の抗議活動には、若者たちの不満もあったというのはこういうことも内包しているのである。
違法広告物や、アパートが目の前に建って、景色が悪くなったとかの訴訟も耳にすることがある。香港政府の塩対応も、映画では描かれている。
政府の役人役で、アンソニー・ウォンが出てくる。彼は民主化運動のあおりを受け、今年(2020年)台湾へ移民してしまった。
一階上の、豚のミンチ作りでうるさい住人ラム・シューも、階下のタバコを吸いすぎるおじいちゃんロー・ホイパンも、フランシス・ンも、ルイス・クーもジョニー・トー監督の香港クライム映画の常連。
香港での批評を読むと、「懐かしいテイストの映画」というのがあった。
香港の観客は、2019年正月に、かような現実をからかうコメディを観て過ごしていた。やがてくる暗黒の香港が来ることも知らずに... そういった意味で、香港が良かった時代の香港映画でありました。
てなことで。
Netflixで「眺望良好」を観よう
https://www.netflix.com/title/81029737?s=i&trkid=0
Reference YouTube
(ジョニー・トーの傑作群↓)
最後までお読みいただきまして誠にありがとうございました!