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MGMミュージカルの名作映画『恋の手ほどき』(1958) 実は高級売春婦育成プログラムの話だった【懐かし洋画劇場】

MGMミュージカル映画『恋の手ほどき』"Gigi"。
現代の日本ではあまり知名度がないが、アメリカでは第31回アカデミー賞(1959)に於いて作品賞を受賞し、国立フィルム登録簿に永久保存されるなど評価が高い映画である。

『恋の手ほどき』オリジナル・ポスター

『恋の手ほどき』の原題 "Gigi"(ジジ)は、女の子の名前だ。物語の舞台はパリ。19世紀の終わり頃、大金持ちの独身男ガストン(ルイ・ジョールダン)は、ハイソな生活も愛人と遊ぶことにも飽き飽きしていた。プレイボーイで未だ独身の叔父さん(モーリス・ショバリエ)の昔なじみのマミータ(ハーミオン・ジーゴールド)の家に時折行き、16歳の孫娘ジジ(レスリー・キャロン)と遊ぶのが息抜きだ。ジジは毎週叔母さん(イザベル・ジーンズ)のところで"花嫁修業"としてテーブル・マナーやら葉巻の良し悪しを学んでいる。ある日ガストンは、今まで自分が子供だとばかり思っていたジジが成長し”オトナの女”へと変わっていることに気づく。そして貧しい暮らしのジジに家やお金を与えるとマミータに申し出る。曲折はあるがジジはそのことを受け入れる。だが二人で行ったレストラン、マキシムでガストンは心変わりし、ジジを家に連れて帰りプロポーズするのだった。

原作を書いたシドニー=ガブリエル・コレット女史は、ある売春婦の姉妹から、子供を淑女のように教育して金持ちの愛人にしようとしているという話を聞き、これを小説にした。映画では少しカモフラージュされているが、この"花嫁修業"は明らかに「高級売春婦育成プログラム」である。

ルイ・ジョールダン、レスリー・キャロン、モーリス・ショバリエ

MGMミュージカルの黄金時代を築いたプロデューサー、アーサー・フリードは自分が"発掘"したレスリー・キャロンが、MGMで『リリー』”Lili”などという低予算ミュージカルに出演していることを不憫に思い「一緒に映画を撮ろう」と持ち掛ける。キャロンはその時「『Gigi』のミュージカルをやりたい」と答える。

1951年にブロードウェイで上演された『Gigi』はオードリー・ヘプバーン主演でヒットし、ロンドンのウエスト・エンド版では、レスリー・キャロンが主役を務めていた。これはストレート・プレイだったので、キャロンはそのミュージカル化のアイデアをフリードに出したのである。

フリードは乗り気で、脚色・作詞をアラン・ジェイ・ライナー、作曲をフレデリック・ロウという当時ブロードウェイで大ヒットしていたミュージカル『マイ・フェア・レディ』のコンビに依頼し、監督には『巴里のアメリカ人』のビンセント・ミネリを起用する。

原作がパリの男性が愛人契約をする話なので、アメリカの検閲と衝突するが、オブラートに包むような話にすることで解決し、パリのロケ中心に撮影は進められた。
やがて映画は公開され、1958年度のアカデミー賞では作品賞を含む9部門を受賞したのである。

アメリカ公開時の新聞広告

映画の歴史の中で見ると、この映画は栄華を誇った絢爛豪華なMGMミュージカルの最後の徒花(あだばな)。フリード・ユニットの、あたかも線香花火の最後のような、一瞬の輝きに見える。
時代が「夢の世界」であるミュージカルを求めなくなった。それは、世の中が平和で豊かになったからだとぼくは考えている。
浮世の暗い世相を忘れたいがためにアメリカ人は夕食の後、映画館へ足を運んだ。第二次大戦中、銃後の国民、特に主人を戦地に出した奥さんと子供たちはつらい思いを忘れるために<エスケープ・ムービー>と呼ばれる、このようなミュージカル映画に「夢の世界」を求めたのだ。


この作品が製作されたのは1958年。50年代に入ると、人々の生活も豊かになり娯楽の中心もテレビに移って行った。人々は夕食後、映画館へわざわざ出向かなくてもよくなった。
そんな時代に、愛だの恋だの浮世離れしたミュージカルはもう時代にそぐわなくなったのだろう。
1957年にはエルヴィス・プレスリー主演の『監獄ロック』、1961年には、ミュージカル・ドラマの傑作『ウエスト・サイド物語』が登場し、MGMミュージカルは過去のものとなってしまう。人々はミュージカルの中に暗い世相を入れても受け入れたのだ。それは平和になったから、人々の心に余裕ができたからだ、とぼくは考えている。


この作品は、MGMミュージカルなのに、歌だけでダンスのシーンがない。いかにゴージャスな衣装やセット、パリの雰囲気にこだわっても、これはMGMミュージカルなんだから、踊ってくれよ!と高校の頃はじめてTV「月曜ロードショー」で観たぼくは思ったものだ。
歳を重ね、音も映像もキレイにレストアされたDVDで本作を観直してみてもその印象は変わらない。だが楽曲はとてもいいと思う。年をとるとモーリス・ショバリエの歌う、「もう若くなくて幸せだ」"I'm Glad I'm Not Young Anymore"の気持ちもわかるよな。


この映画のショバリエは本当にいいね。粋なおじいさんで。観ている側はそんな良い印象を持つが、レスリー・キャロンは「気難しいじーさんやった」とDVDの特典映像で話してて、意外にキャロン、ガチなんやなと思わされた(笑)
まるっきりフランス語訛りの英語劇。単調なプロット。この程度の作品でアカデミー作品賞か?とも思うが、それは当時まだアメリカ人の心の中にあった「ヨーロッパ・コンプレックス」が根底にあり、こういうムウドに弱かったからだろうと、ぼくは考えているのである。

"Thank heaven for little girl ♪"

てなことで。

2008年11月21日 踊る大香港「恋の手ほどき」DVD Gigi 2-Disc Special Edition MGMミュージカル を加筆訂正しました。

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nobu.hk / 踊る大香港
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