Netflixドキュメンタリー 「2806号室:元IMF専務理事への告発」 #MeToo運動の発端となったセレブの性的暴行事件の真相とは?
僕の住んでいる香港では、コロナの第四波が始まり、2020年12月10日より政府から再度自宅勤務の要請が出た。クラスターになると、当地のような人口密度の高いダイバーシティはキツい。
そんなわけで、自宅でおとなしくしているわけだが、Netflixで見たドキュメンタリーが興味深かったので紹介しよう。
「2806号室:元IMF専務理事への告発」"Room 2806: The Accusation"
これは実際にNYで起きたセレブによる性的暴行事件の検証。約45分の4回シリーズ。
IMF (International Monetary Fund) 国際通貨基金とは、1945年にブレトンウッズ協定によって、国際金融、為替相場の安定と通貨秩序を維持するために設立された国際金融機関。経済危機に陥った国々を支援するため資金供給をする役割を担う。
つまり僕の理解では、世界金融の総本山的なところであり、そのトップ=専務理事になるということは、世界中の政府・金融関係者がひれ伏す存在と言っても過言でないと思っている。
そのIMF専務理事がNYで逮捕された?しかも性的暴行で?はぁ?なんじゃそら?と事件当時はびっくらこいたのを覚えている。だが「そーいえば、逮捕の後どうなったんかのぉ?」と続報を追っかけてなかったのを思い出し、結末を知りたくて見始めたのである。
2011年5月14日 ニューヨーク・ソフィテルホテル。チェックアウトしたと思った客室係の女性がプレジデンシャル・スイートに入ったところ、全裸の男に襲われ、性的な暴行を受けた。
被害を受けた女性の名は、ナフィサトウ・ディアロ。当時32歳。ギニアからの難民で、ブロンクスに住むシングル・マザーだ。
彼女は、ホテルの上司に報告し、すぐさまNYポリスが出動する。チェックアウトした容疑者は、ケネディ空港からフランスへ戻ろうとした機内で逮捕される。
容疑者の名前は、ドミニク・ストロスカーン。フランスの次期大統領候補と目される大人物で、事件当時はIMFの専務理事だ。セレブ中のセレブの性的暴行による逮捕は、フランスをはじめ世界が驚愕した。
ストロスカーンには、ベンジャミン・ブラフマン、ウィリアム・テイラーというセレブ御用達の、優秀で(おそらく超高額な報酬をとる)著名な弁護士がついた。
5月16日 裁判所での保釈請求は認められず、ストロスカーンは、極悪非道な囚人が集められた、恐ろしい場所として知られるライカーズ島の独房へ送られてしまう。
ストロスカーンは、5月18日 IMF専務理事を辞職し、5月20日裁判所での保釈請求が通り、NY市内で自宅軟禁となる。保釈金は計600万ドル。費用は、妻のアンヌ・サンクレールが負担した。
彼女は、フランスTVの人気アンカーマンだった時に、インタビューでストロスカーンと出会い、お互い不倫の末結ばれた。元々裕福な一族だったため、彼のためにお金を使うことを厭わなかった。
被害者のディアロは、事情聴取の際、当初は被害状況を克明に話していた(たった9分間の出来事だった)のだが、その後検察側の調査で、不信な動きも見えてきた。
銀行口座に6万ドルもの預金があり、それは麻薬密売で刑務所に入っている友人の男から、ルイ・ヴィトンの偽造品を売った代金を預かったもの、と話したり、彼との電話のやりとりで「相手は金持ちだからうまくやるわよ」と言ったこと。
ギニアから米国への難民申請時も、ギニアの兵士に毎日レイプされたと涙ながらに訴えたが、それは業者にもらったテープを覚え、そのまま演技していたこと、などがわかってきた。
このドキュメンタリーに登場する捜査担当の一人は、「彼女は嘘つきの詐欺師だ」と断定している。
検察は、移民当時の被害者ディアロの言動などに疑念を抱き、8月23日裁判所へ起訴取り下げを申請する。
勝利した弁護士のブラフマンは「自分の人生の中でも誇れる事案だった」と胸を張る。
これにより、ストロスカーンは自由の身となり、フランスへ帰国する。だが、2012年の大統領選挙には出馬しなかった。
それはこの事件だけではなく、その後に続いた、数々のセックス・スキャンダルがあったからだ。
フランス人女性 トリスタンヌ・バノンは、2003年ストロスカーンからインタビュー中に、性的暴行を受けそうになったと告発した。
密室での出来事で、それまで言えずにいたが、NYの事件を受け、公にしなければと思った。
この事が、たとえどんなに有名なセレブであろうが、被害を受けた女性は、泣き言を言わずに声を出そう!という#MeToo運動の発端になったといわれる所以だ。
起訴を取り下げられたディアロ側は、民事訴訟でストロスカーンに損害賠償を請求した。
だが、その後2012年12月両者の和解が成立する。このドキュメンタリーでは、和解金は150万ドルと推定していた。
ストロスカーンは、2015年フランスで売春あっせんで起訴されたが、無罪となった。だが、彼のそれまでの異常なまでの乱れた性生活が、次々に暴露されてしまった。
この裁判があったため、さすがに夫をかばい続けた妻アンヌも離婚を決意する。
結果、現在までの間にストロスカーンは、一度も裁判で負けていない。彼は前科者になっていないのである。
それに今でも世界中の、特に途上国の政府からアドバイスを求められている。そして若い女性と再婚もした。
フランスでは、不倫に寛容というか、政治家が愛人を持っても「それがどうした?」という文化があったのもあるが、ストロスカーンは自分の性的欲求に正直すぎた。学歴があり、立派な立場があっても、私的な部分で欠落したところがあった。どんな人間も完璧ではない。そのことを思い知らされた。
NYで被害にあったディアロは、「この事件で私の人生は変わってしまった」と泣きながら語る。だが、性的暴行の起訴は取り下げられ、損害賠償は和解し、多額の賠償金を手に入れた。
「結局、金なのか...」僕は見終わってそう思った。虚しい気分になった。
真実は誰にもわからない。黒澤明の「羅生門」のように。誰が良くて、誰が悪かったのか?答えは「藪の中」である。
NYの事件そのものも、当時のフランス大統領だったサルコジが、競争相手のストロスカーンを、失脚させるために仕組んだもの、という陰謀論もあることも申し添えておく。
てなことで。
11-Dec-20 by nobu
(↓この事件に着想を得た映画「ハニートラップ 大統領になり損ねた男」)
最後までお読みいただきまして誠にありがとうございました!