ドニー・イェンのイップ・マン・シリーズ感動のフィナーレを見逃すな!『イップ・マン 完結』(原題 『葉問4:完結篇』“Ip Man 4: The Finale”)
2019年12月20日(金)は、ぼくら香港在住の映画ファンにとっては忘れられない日となった。香港映画過去12年の最高傑作クンフー映画『葉問/イップ・マン』シリーズの最終章『葉問4:完結篇』”Ip Man 4”(邦題『イップ・マン 完結』)と、42年間かけて製作された『スター・ウォーズ』サーガの最終作 EP9「スカイウォーカーの夜明け」が同じ日に公開となったのだ。
この『葉問4:完結篇』のラストは、シリーズ全作品を香港の劇場で観続けてきたぼくにとって、涙涙のエンディングだった。はっきり言おう、大傑作である!
(以下、第一作『葉問/イップ・マン』(08年)を香港公開後すぐに劇場で観て、おそらく世界最速で日本語レビューを書いた(と思う)おっさんの解説である。)
関連:『葉問 イップ・マン』ぼくのレビュー 2008年12月29日付
あらすじ
1964年、妻の亡き後 葉問/イップ・マン(ドニー・イェン/甄子丹)はタバコのため咽頭癌になっていると医師から告げられる。そんな折、息子のイップ・チン(ジム・リュー)が学校での荒れた態度により、校長から退学しアメリカへの転校を勧められる。イップ・マンは学校を捜すため、弟子のブルース・リー/李小龍(チャン・クォックワン/陳國坤)が道場を開き一度訪ねてきてくれと言われていたサンスランシスコへ飛ぶ。現地のチャイナタウンの重鎮たちに紹介されたイップ・マンは、そこで彼らから弟子のブルース・リーの不遜な態度をたしなめるよう注意される。チャイニーズ・クンフーは中国人だけのもので、英語で本を書き西洋人に教えるとはけしからんというのだ。息子の入学のためには地元の中華総会の会長ワン(ウー・ユエ/呉越)の推薦状が必要だが、イップ・マンは弟子のためにワンと争ってしまう。だがその後、チャイナタウンへアメリカ兵士たちが殴り込みをかけ、彼らとイップ・マンたちが戦いを強いられていく。
香港版予告編 Reference YouTube
解説とみどころ
ブルース・リー/李小龍がいたからこそ出来た『葉問/イップ・マン』という映画だが、ブルース・リーの映画群を遥かに凌駕する傑作クンフー・シリーズとなった。その一番の理由は主演のドニー・イェン(「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」「カンフー・ジャングル」)の素晴らしさにある。詠春拳のクンフー・シーンは何度見ても惚れ惚れする。彼はかつて香港誌のインタビューで「シルベスター・スタローンには『ロッキー』がある。私には『葉問/イップ・マン』がある」と答えた。自他共に認めるこれこそ彼の代表作である。
今回のイップ・マンは冒頭でガンを告げられ年齢も重ねているため過去のシリーズとは違い少し弱々しい。
だがそれでもこのシリーズ中で常に描かれている、自分のためではなく愛する人や同胞のために戦うというところに胸打たれる。ボロボロになっても闘う姿に感動するのだ。
今回は理不尽なアメリカ兵たちとの戦いなので、ほぼサンフランシスコでの展開となる。相手の兵士バートン(スコット・アドキンス)が強いこと強いこと。過去のシリーズでイップ・マンが最も苦戦する相手かもしれない。
前作『葉問3』(イップ・マン 継承)で愛妻を亡くし、息子のために弱った身体をおしてアメリカへ旅立つ父。その想いを受け止められない息子。やがて「外国の月は特別丸いわけじゃない(外國的月亮其實也沒特別圓)」とわかり合える(←映画を観ればわかる)場面もいい。(だが、もしここの字幕が「草は勝手に伸びる」みたいなものだったら英語訳から訳しているので意味が違います。念のため)
シリーズのファイナルにやっと本格的に登場する弟子ブルース・リーのカッコよさ。アクション監督ユエン・ウーピン(「マトリックス」「キル・ビル」「グリーン・ディスティニー」)、音楽 川井憲次(「GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊」)の見事さ。ウィルソン・イップ/葉偉信 監督とドニー・イェンの生んだクンフー映画史上最高傑作シリーズの最終章。見逃すべからず。
(香港・銅鑼灣にあった巨大広告 2020年2月撮影)
ブルース・リー/李小龍 登場!
弟子のブルースに会うため、イップ・マンはサンフランシスコに行き、そこでアメリカ人に武術を披露するブルースを目を細めながら見物する。
ブルース・リー/李小龍を演じるのは香港ではブルース役で有名なチャン・クォックワン/陳國坤(英名 ダニー・チャン)。
彼は香港のテレビで2008年に放送された全50回の連続ドラマ「ブルース・リー伝説」(The Legend of Bruce Lee/李小龍傳奇)の主役である。日本ではチャウ・シンチー/周星馳『小林サッカー』(01年)のキーパー役と言った方がわかってもらえるかもしれない。ともかく香港でブルース・リー役と言えば彼なんである。同じく(ブルース・リー大好きを自認する)チャウ・シンチーの『カンフーハッスル』(04年)にもチャン・クォックワンは登場するが、豚小屋砦の大家のおばはん役ユン・チウ/元秋が、彼に向かって鼻を親指でこするパロディ・シーンが笑える。
「イップ・マン」シリーズでも、『葉問3』(イップ・マン 継承)(15年)に出演している。『葉問3』では、ブルースは師父イップ・マンのためにダンスを教える。これはブルース・リーがクンフー映画出演以前は、青春映画でダンスを踊っていたのもあるが、彼が1958年“チャチャ”の香港チャンピオンだったからである。
本作品で見れるサンフランシスコでのブルース・リーのシーンはもうファンには感涙もの。『ドラゴン怒りの鉄拳』(72年)『燃えよドラゴン』(73年)を彷彿とさせる決闘シーンがあり、このシーンだけで、この映画の入場料を払った価値がある。鳥肌が立って鼻血が出るで。
かえすがえすも「映画秘宝」があったらなぁ、と思う。2020年3月号を持って休刊になってしまったが、もしあれば大特集を組んでくれたのは間違いないと思う。残念。(注・1)
2019年は、クェンティン・タランティーノ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(5月21日公開)でも、ブルース・リー(マイク・モー)が登場。その描かれ方が物議をかもしたが、本作ではその鬱憤を十分に晴らしてくれる。いずれにせよ一年の内に2本もブルース・リーが登場する映画を観れたのは幸せだった。
シリーズ全作品の解説
『葉問』”Ip Man”(イップ・マン 序章)2008年12月19日香港公開。
日本軍に統治された30年代の広東省。葉問/イップ・マン(ドニー・イェン)は日本軍の隊長・三浦(池内博之)から、空手の試合を挑戦される。祖国のプライドのため“詠春拳”のイップ・マンは闘いに挑む。
クンフー映画史上に残る大傑作で、2009年の香港電影金像奨最優秀作品賞受賞作品。だが、日本での公開は、当時の色々な事象を考慮し慎重に進められた。まず『葉問2』を公開し、評判をみて(5000人以上動員できれば)本作を公開する事にした。そのため本作品の邦題は『イップ・マン 序章』となっている。日本公開2011年2月19日。
関連:『葉問 イップ・マン』ぼくのレビュー
公開順については、祝『イップ・マン』日本公開! 参照
『葉問2』”Ip Man 2”(イップ・マン 葉問) 2010年4月29日香港公開。
1950年、イップ・マンは香港で道場を開く。色々な弟子が問題を起こす中、香港を統治した英国人軍人たちの傍若無人の振る舞いに怒りを覚えたイップ・マンは、英国人ボクサーとの異種格闘技戦に挑む。
ブルース・リー主演の『燃えよドラゴン』にも出演していたサモ・ハン・キンポーとドニー・イェンが闘うというだけでワクワクする作品。子供時代のブルース・リーが登場する。
日本では、この作品の邦題が前述の理由で『イップ・マン 葉問』となった。日本公開2011年1月22日。
『葉問3』”Ip Man 3”(イップ・マン 継承)2015年12月16日香港公開。
1959年香港、イップ・マンの詠春拳の道場も徐々に軌道に乗ってきた。同門のチョン・ティンチ/張天志(マックス・チャン/張晋)は、道場を開くため闇試合で稼いでいた。その黒幕フランク(マイク・タイソン)から危害を受けたイップ・マンはまた危険な試合に挑む。
本作は、愛妻の病気というファクターが加わり、より情緒的なドラマになっている。タイソンとの闘いは元ヘビー級チャンプの本物の迫力がある。青年時代のブルース・リーが登場。日本公開2017年4月22日。
スピンオフ作品 『葉問外傳 張天志』“Master Z: Ip Man Legacy” (イップ・マン外伝 マスターZ)2018年12月20日香港公開。
『葉問3』(イップ・マン 継承)で、イップ・マンと「詠春拳」の表札をかけた闘いに破れたチョン・ティンチ/張天志は、愛する子供と貧しいながらも仲良く暮らしていた。ある日麻薬売買に関係したマフィア一味に関係したホステスを助けたことからトラブルに巻き込まれてしまう。
主演のマックス・チャンを売り出すために作られたような映画だが、ユエン・ウーピン監督の演出は小気味よく、面白い作品に仕上がっている。日本公開2019年3月9日。
『葉問4:完結篇』”Ip Man 4 : The Finale” (イップ・マン 完結)2019年12月20日香港公開。
日本版予告編 Reference YouTube
日本公開は、2020年5月8日。楽しんでくだされ!
(【追記】新型コロナ肺炎の影響で、公開日は7月3日に変更になりました。)
嬉しいことに、シリーズのベスト盤サントラも発売!
てなことで。
Image Credit
葉問4 Poster
https://assets.wmoov.com/movie/photo/201912/IPMAN4_MAIN_V2_S_1576064815.jpg
【追記】
(注・1)「映画秘宝」は、2020年4月21日発売の6月号より復刊することが決まった(同年3月25日発表)。