ステイホームの今『ホームレス ニューヨークと寝た男』を観て考えたこと ”Homme Less”
たまたまNetflixで見つけたドキュメンタリー『ホームレス ニューヨークと寝た男』”Homme Less”を見た。
日本公開は2017年1月、製作年は2014年の作品だが、香港では未公開のためぼくはその存在を知らなかった。
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ニューヨークの花火。それをルーフトップから眺めてる白髪のナイスミドル。絵になるニューヨークの景色にかぶさる粋なテナーサックスの音色。
彼の名はマーク・レイ。当時52歳。仕事は、ファッション・フォトグラファー、アクター、モデル。一見きらびやかに映るこの男、実は帰る家を持たない。友人のアパートの屋上で勝手にビニールシートにくるまって寝ているホームレスなのだ。
朝目覚めると、公園で顔を洗い、公衆トイレで髪を撫で、高級スーツに着替えて街へ出る。カメラマンとしての仕事をしたかと思えば、『メン・イン・ブラック3』のエキストラとしても出演する。
「無上の喜びを追求せよ」彼はこの言葉に突き動かされて生きてきた。だが、やがて現実を知る。だからその後に「ただし悪夢を生きる覚悟で」と付け加えた。
大学も出て、ヨーロッパでヴェルサーチのモデルとしても活躍した時期もあった。だがNYへ戻ってみると、めしも食えない。「モデルなんて知性がこれっぽっちもいらない職業だから」なんて言い、せっせと写真を撮り雑誌に拾ってもらう。
ニュージャージーにいる年老いた母親の事は気になるが、今はどうにもできない。毎年クリスマスにやっている貧しい人々のためのパーティで、サンタクロースになる。彼はとてもやさしい男なんである。
だから友達も多い。彼の誕生日にはみんなで集まって楽しく飲む。だけど、彼はホームレス。
自分の私物は全てYMCAのロッカーの中。シャワーの後洗濯し、そこでアイロンもかける。カミソリもそこでもらってきて、公衆トイレで髭を剃る。
「どこで間違えた?」彼は時々考える。そうすると寝れなくなる。だから「笑い飛ばすんだ」と言う。
友人のトーマス・ビルランゾーンが3年に渡って自分を題材にドキュメンタリーを撮ってくれた。タイトルは“HOMME Less“ (←Homeとかけていて粋だ)。出来た映画は、クリント・イーストウッドの息子で才能あふれるカイル・イーストウッドが素晴らしいジャズの音楽をつけてくれた。
映画の出来は悪くない。日本でも公開された。これで俺もブレイクできるかも?
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2020年春、世界は新型コロナ肺炎でパンデミックになった。5月22日現在ニューヨーク市は、19.6万人が感染し、15,789名が亡くなった。
こんな時にホームレスの人たちはどうしてるのだろう?そしてこのマーク・レイは大丈夫なのか?
自分なりに調べてみたが、彼はこの映画が公開されたことにより、(当たり前だが)友人のアパートの屋上に住めなくなり、友人宅を転々とし、現在はニュージャージーの実家に戻っているようだ。Instagramにも投稿していたので元気なんだろう。(→ マーク・レイ・インスタ)
全く知らない人だが、このドキュメンタリーを見たら、何故かその後が気になってしまった。
結論から言うと、彼はブレイクしていない。映画でいい役をもらったと言う話も聞かない。写真家としてどこかの専属になったとも聞こえてこない。もちろん積極的にアピールはしたが、結局あの頃と変わらない生活を送っているらしい。
だけど、何も残さなかったより、自分が主演したドキュメンタリーが世に出ただけでよかったんじゃないかと思う。
“I Love You” と言ったことがない人間が、唯一好きなのは自分自身なのだろう。人それぞれ生き方は違う。自分が好きな事を貫くのなら、何かを捨てなければならない。だから彼は「悪夢を生きる」のだ。その覚悟たるや、よしと思う。同じ世代としてエールを送りたい気分になる。だが、自分はああは出来ないなと思ったのも事実である(苦笑)
てなことで。