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10月7日 アルメニアに向かう

もっとのんびりしたいけど、できることなら今日中にアルメニアに入っておきたい。ジョージアを出る前にワインも買わないと。「昨日会ったおばあちゃんのスケッチをとっても見たかった。なんなら一緒にスケッチさせてもらいたかったな、きっとその方が素敵な1日になっただろうな。88歳で日本からこんな遠くまで来たんだもの。できあがった絵をどこにかざるのかな」と、とっても後ろ髪をひかれながらウシュグリ10時発、メスティア11時着。4日かけて来たのに、車ならわずか1時間そこらで着く。

乗り合いバスで、メスティア12時発、ズグディディ15時30分着。ここから乗り合いバスを乗り換えてトビリシに向かう。5時間から6時間でトビリシに着くという。ちょうど目の前に停まっていたトビリシ行きのバスは一杯だということで、次のバスが一杯になるまで待てという。

とりあえずトイレに行く。トイレの薄い扉の前には、おばあちゃんが机を出して座って、1ラリ(50円)だという。手元に1ラリがたくさん入った籠をジャラジャラさせている。しょうがなく1ラリ払ってトイレをする。このおばあちゃんは一日中、便所の音を聞いているのか。具合が悪くなりそう。

バスの発車を待っている間、ロング缶のビールを飲んでしまった。私はビールを飲んだらおしっこがしたくなる。いつ出発するかわからないバスだから飲み終わったらすぐにトイレにいく。
「さっき1ラリ払ったからいいでしょ」
「さっきはさっき今は今」
という素振りをするもんだから、また1ラリ払ってトイレを使う。さっきだしたもんだし、今飲んだのはまだ胃にある頃だから、ちょぼっとしか出ない。1ラリでだし放題なんだからと思って必死にだそうとしても、出てこない。諦めてバスに戻る。それから30分バスは発車しなかったらまたおしっこに行きたくなってきた。
また1ラリはらう。今度は出た。結局おしっこに3ラリも使ってしまった。

16時30分、乗客が15人ほど集まり出発。

18時、見通しのよい道路を走っていると、空間がひん曲がるような衝撃でバスが右へ左へ揺れて止まる。事故。タイヤの焦げ臭いがして、慌てて外へ出る。後ろへ行くと、ミカンやオレンジや割れたワインが散乱していて、荷台に積んでいた私のバックパックは草むらの中に飛ばされてた。突っ込んできた黒のBMWは前はぺちゃんこで、白いエアバックがペロンとハンドルに垂れ下がってた。ワインなのか血なのか、赤い液体が飛び散ってる。だれも死んではいないようで、バスに乗っていたおばあちゃんが頭から血をだしている。近所の人があつまってきて、あっちこっちで喧嘩が起きる。静まったと思ったらまた喧嘩が起きる。バスの運転手はウロウロして電話したりしている。
それからおまわりさんが来たりなんかして、代わりのバスが来たのが2時間後だった。そのバスにみな乗り込んだとき、最後に扉を閉めたのは事故をしたバスの運転手だった。乗客の男たちから大きな声で何かを言われ、その言葉を受け止めると、うれしそうに涙を流し、片方の手で顔を拭い、もう片方の手でさよならをした。あのとき、喧嘩してたのはこの乗客たちだとわかった。運転手を守ってたのだ。

結局トビリシに着いたのは0時。開いていたワインバーに滑り込み、クヴェヴリのアンバーワインを買い、明日アルメニアに向かうことにする。

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