【やまのぼ エッセイ No.12】常識は時代と共に変化する!?(1263字)
過日、珍しい老婦人に会った。
あの日は、急用で、夜半、郊外に向かう某私鉄に、たまたま乗ることになったのだ。
丁度、通勤客が帰宅する時間だ。座席は期待していなかったのに、珍しく空いてた優先席で、その老婦人に会った。
最近では、優先席に若者がデンと腰かけ、スマホを黙々やっているのが当たり前だというのに、3人が向かい合う残りの5席が空いていたのだ。
『ラッキー!』私は、心の中で万歳しながら、その老婦人の斜め前の席を確保する。
ところが、読みかけの本を取り出し、読みかけた時だ。その老婦人が、小声で独り言のような口調で話しているのに気づいたのだ。
視線を本に落としたまんま、私はその言葉に耳を欹てみる。コリャ~!読書している場合ではないと。
「あの奥さん!あなたも知ってるあの人よ!海外から贈り物が届いてね!娘が泣いて謝るのよね~!あなたどう思う!向かいの紳士に聞いてごらん!白髪交じりのお年寄りだから!天気が悪いのに!おでかけですか?わたし・・・」
私は、聞き間違いでもしているのだろうか?初めはそう思った!
会話のようで?独り言のようで?今にも、支離滅裂な会話を、私に問いかけて来るのでは?と、とても不安な気持ちになった。
かといって、スッと立ち去るのもなんなので、しばらく、読みかけの本を読んでいるフリをしていた。
『そういうことだったんだ!』
一呼吸して、鈍感な私は気づいた!
道理で、結構混んでいるのに、この席付近だけが空いているわけだ!乗客全員が、その老婦人を避けていたのだった。
そうと決まれば、私も早いとこ退散せねば!と思い、スッと立った瞬間!その老婦人は、私の方に向いて「あなたも?逃げ出すのね?」と、ずらした老眼鏡を鼻に乗せ上目づかいで言う!
『助けてくれ~』私は心で叫んだ!正直なところ、恐ろしかったのだ。
対処法が見当たらなかったからだ。
お相手が男性なら、それなりの対応もできるのだろうが、壊れかけた老婦人に、絡まれたときの対処法を、まだ持ち合わせていなかったからだ。
人生100時代とは、こんな老婦人が巷に溢れ出す時代なのかもしれない。
ところで、老婦人を避けて、逃げ込んで来た側の乗客たちのほとんどが、スマホの小さな画面に釘付けで、他人のことなど無関心だ。
壊れかけた老婦人が、般若心経を唱えていようが、わけのわからない繰り言をしゃべっていようが、そして、逃げ込んで来た、後期高齢者の私の怯えなどオカマイなしなのだ。
お一人様が尊ばれる世になった!ともいわれる現代。
ちょっと前まで、だれがこんな風景を予想しただろう?乗客のほとんどが、まるでスマホに魂を取られてしまっているかのようで・・・。
もうすぐ!壊れかけた老婦人が徘徊するのも、当り前の風景になるかも・・・。
「今夜はオデンにしょうかしら?あした!燃えないゴミの日だって?息子が嫁さん泣かすんだね?そんな子に育てた覚えがないって・・・」
私は、遠くの老婦人が繰り出すオコトバを、微かに拝聴しながら、人生100年時代の功罪を考えていた。
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