遺産分割前の預貯金の払戻しの制度
平成31年相続法改正で、預貯金に関する取り扱いも大きく変わりました。
平成28年12月以前
これまで、預貯金債権、相続開始と同時に各共同相続人の相続分に従って当然に分割され、各共同相続人は、自己に帰属した債権を単独で行使できるとされており、遺産分割協議(調停)においても、共同相続人全員の同意がなければ遺産分割の対象にはなりませんでした。
平成28年12月19日最高裁大法廷決定
ところが、平成28年12月に最高裁が、預貯金債権について、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることなく、遺産分割の対象になると判例変更しました。
この結果、預貯金債権も準共有となり、共同相続人全員の合意がなければ、預貯金の払い戻しができなくなりました(民法264条本文・251条)。
一方、葬儀費用や相続債務の弁済のための原資にしようとしても、他の共同相続人全員の合意がなければ払い戻せず、速やかな弁済ができず支障が生じることにもなりました。
相続法改正による払戻し制度の創設
そこで、今回の相続法改正により、預貯金債権のうち、相続開始時の債権額の3分の1に、払い戻しを求める共同相続人の法定相続分を乗じた額については、単独で権利行使できることになりました(909条の2)。
ただし、一つの金融機関から払戻しができる上限額は150万円とされているので注意が必要です(民法第九百九条の二に規定する法務省令で定める額を定める省令)。
たとえば、法定相続人が子2人、相続財産が預金債権のみ(A銀行1200万円)の場合
預貯金債権額1200万円 × 1/3 × 1/2(法定相続分)=200万円
となりますが、A銀行から150万円しか払い戻せないということになります。
また払い戻しをした預貯金債権については、遺産の一部を取得したものとみなされます。