寄与分・特別の寄与の制度
「寄与分」とは
被相続人の事業の手伝い等をしたり、身の回りの世話や看護をして、被相続人の財産形成(増加)や維持に貢献をしていた相続人に対し、相続財産から分配をすることを認める制度のことを寄与分といいます(民法904条の2)。
全体の相続財産からまず寄与分を控除し、残りの財産を相続財産として相続分に応じて分割することになります。
よく「寄与分がある」と主張されるケースもありますが、そもそも遺産分割でもめているケースで、相続人間で寄与分を認める合意をすることは難しいです。
当事者間で協議が調わない場合、できない場合には、家庭裁判所が審判で寄与分を定めることになっていますが(民法904条の2第2項)、明確に寄与分として調停あるいは審判で認められるケースは非常に少ないです。
平成31年/令和元年の司法統計をみると、全国の家庭裁判所で終了した遺産分割事件12,785件で、認容あるいは調停成立した事件のうち寄与分の定めがあった件数が135件となっていました。
遺産分割の交渉・調停など話し合いの過程で、明確に「寄与分」とは定めずに、(法定)相続分を超えて相続することを合意することはしばしばあるので、必ずしも「寄与分」がほとんど認められていないということにはならないとは思いますが、争いが深刻になった場合になる場合は「寄与分」としてはなかなか認められづらいということも頭の片隅に置いていてもよいと思います。
もし面倒を見てもらったから多めに引き継がせたいという思いがあるのであれば、遺言を作成するのが得策と考えます。
特別の寄与の制度
「寄与分」はあくまで「相続人」を対象とするもので、相続人以外の人がどれだけ貢献したとしても「寄与分」などを主張して相続財産の中から分配は認められていませんでした。
たとえば、子の配偶者が被相続人の事業に貢献していても、療養看護に努めていたとしても、子の配偶者には遺言でもない限り相続財産から分配を受けることはできませんでした。
特別縁故者の制度(民法958条の3)はありますが、これは「相続人」が不存在の場合に限られます。
そこで、平成30年相続法改正の際に、被相続人に対し、無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族に対し、相続の開始後に、相続人に対し、寄与に応じた額の金銭請求をすることができるようになりました(民法1050条、2019年(令和元年)7月1日に施行されています)。
寄与分と同様に、協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、特別寄与者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求(調停・審判の申立て)をすることができます(民法1050条2項)。
特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6か月又は相続開始の時から1年の間に家庭裁判所に申立てをしなければなりません。遺留分侵害請求権の期間の定めとは異なり、家庭裁判所への申立ての期間の制限ですので注意が必要です。
また、相続人が複数いる場合、一人の相続人のみに対しても請求できますが、1人の相続人に請求できる金額は、特別寄与料の額に当該相続人の相続分を乗じた額が上限で、1人の相続分に特別寄与料の全額を請求することはできません(民法1050条5項)。
こちらも寄与分と同様に、世話をしてくれた人に遺産を渡したいという気持ちがあるのであれば、遺言の作成を検討することをお勧めします。
特別寄与の制度と相続税
相続税法4条2項は、
特別寄与者が支払を受けるべき特別寄与料の額が確定した場合においては、当該特別寄与者が、当該特別寄与料の額に相当する金額を当該特別寄与者による特別の寄与を受けた被相続人から遺贈により取得したものとみなす。
と規定しており、相続税の課税対象になります。
特別寄与者の相続税の計算方法は、遺贈と同じです。また、相続人ではないため、原則として相続税額が 2 割加算されます。
反面、特別寄与者に特別寄与料を支払った相続人については、相続又は遺贈により取得した財産から特別寄与料の額のうちその相続人が負担すべき金額を控除した金額が課税価格となります。
相続税の申告期限が相続開始を知った日の翌日から10か月とされているところ、特別寄与者の家庭裁判所への申立てが相続の開始及び相続人を知った時から6か月又は相続開始の時から1年とされており、その後に特別寄与料の支払いが確定することになり、相続税の申告期限に間に合わないことが想定されます。
そこで、特別寄与料を取得し、新たに相続税の納税義務が生じるた人の申告期限は、特別寄与料の支払額が確定したことを知った日の翌日から10か月以内とされ(相続税法29条1項)、また、申告期限までに特別寄与料以外の財産を遺贈により取得し、申告を済ませている場合も同様に、特別寄与料の支払額が確定したことを知った日の翌日から10か月以内に修正申告をしなければならないとされています(相続税法31条2項)。
また、特別寄与料を支払うことになった相続人については、申告期限までに取得した財産について既に申告を済ませている場合には、特別寄与料の支払額が確定したことを知った日の翌日から 4 か月以内に更正の請求ができ
る規定が設けられました(相続税法32条1項7号)
参考
一問一答新しい相続法 商事法務
令和元年度税制改正の概要