#16 生命保険営業の闇

生命保険の営業と言えば、おばちゃん達がアメを配りながら、加入者をハイエナのように探して回るようなイメージだった。

しかし説明会を聞いてみると、研修制度はしっかりしているし、幼稚園補助金制度を始め、女性の雇用促進など、社会情勢について本気で取り組んでいる会社のように思えた。

僕が惹かれたのは、ファイナンシャル・プランナーの資格取得補助が得られるところだった。

小学生の頃から、どこに行っても虐められるような僕に、営業職が勤まるとは思えなかったが、金融系の知識は、これからデザイナー以外の職でやっていこうと思った時、有利になるような気がした。

生命保険の営業職は、正社員と違い毎月入社することができた。

正社員というのは、大学で経済学などを学び、普通に就職活動をして入社した人々を指す。
保険商品の開発に携わる人もいれば、各都道府県の支社を転々としながら、営業職のトップを目指す人もいる。
ちらっと聞いた彼らの年収は、普通のサラリーマンとは比べ物にならないほど高かった。

一方営業職は、彼らと区別されて〈職員〉と呼ばれる。
スズメの涙ほどの最低賃金が約束されているが、「いくら契約できたか」によって収入が決まる、フランチャイズの個人版のような仕組みだった。
働き方によっては昇進もあり、普通の営業職から各営業所の所長になったという人から何人も話を聞いた。

自分次第…

僕はなんだかその言葉にワクワクしていた。

今まで家では散々ダメ人間だと言われてきた。

何をやらせてもダメだと。

一方で、社会活動や趣味の活動、単発のバイトでは高い評価を得てきた。

僕を評価できない近しい人間が間違っているだけで、社会的にはきっと価値がある。

それを証明してみせたかった。

僕は12月の入社となった。

同時入社がおばちゃんばかりだったらどうしようと心配していたが、意外なことに5人の内3人が男性で、2人は若い女性だった。

僕らはすぐに意気投合し、この入社に至るまでの苦労を分かち合ったり、共に励まし合ったりしながら、生命保険商品の販売資格を得るための勉強に打ち込んだ。

勉強自体久しぶりだったが、テストの点が良かったことは、中学生時代を思い起こさせて自己肯定感が培われた。

僕を保険業界に誘ったおばちゃんも、事あるごとに差し入れをくれたり顔を見せてくれて、僕の地頭の良さを褒めてくれた。

なんだか中学生のあの頃から、やり直せるような気がした。

今度こそまともな人生を歩けるような気がした。

販売資格テストをほぼ満点で通過して、僕は意気揚々と研修センターへと進んだ。

そこに、思いも寄らない未来が待ち構えているとも知らずに。

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