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『50年の音色』 #時を縫う奇瓢譚

むかしむかし、ある町に、一曲のラブソングがあった。その歌は、町の広場や通り、ラジオから、どこからともなく流れてきた。町の人々はそのメロディを聞くたび、自然に笑顔になり、心があたたかくなった。歌詞には、初めての出会いや、手をつないで歩く楽しさ、そして愛が込められていた。

ある日の夜、広場でその歌を聞いていた男女が、ふと目を合わせた。彼らは何も言わずにそのまま立ち続け、ただその歌に身を任せていた。そして、歌が終わった瞬間、男が少し照れくさそうに言った。

「また、ここで会おうか。」

女は笑って、答えた。「うん、ここで。いつでも。」

それから、二人は何度もその広場で会い、何度もそのラブソングを一緒に聞いた。歌のたびに、心がどんどん近づいていった。そして、ついに二人は恋人同士になった。

歳月が流れ、町は変わったけれど、二人は変わらずにその広場に通い続けた。ラブソングも、今でも流れ続けていた。そして、50年後。二人は、白髪が増えて、少し歩くのが遅くなったけれど、広場に立って、またその歌を聞いていた。

男が微笑みながら言った。「覚えてる?最初にここで出会ったとき、なんにも言わずにただ立ってたよね。」

女は手を取りながら、にっこりと答えた。「ああ、覚えてるわ。でも、あのとき、すごく大事なことを知ったのよ。」

「なに?」男が尋ねた。

「あなたの笑顔が、ずっと私を幸せにしてくれるってこと。」女は目を閉じ、歌のメロディを感じながら言った。

男はその言葉を聞いて、少し照れながらも、「じゃあ、これからも一緒に聞こうか。ずっと。」

二人は手をしっかりと握りしめ、ラブソングを聴きながら、また歩き出した。町の広場で流れるその歌は、50年経っても、変わらずに二人の心をつなぎ続けているのだった。

Dedicated to the bassist.

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