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『唐揚げ専門店』 #時を縫う奇瓢譚
むかしむかし、江戸の西片辺りに、小さな唐揚げ専門店があった。店の名前は「から金(からきん)」という。店主の金兵衛は無口で、顔が唐揚げみたいに油っぽい。誰もが「この人自身を揚げたほうが美味いんじゃないか?」と思ったが、誰も口にはしなかった。
この店の唐揚げ、ただの唐揚げじゃない。噂では、食べる人の「心の奥底に潜む欲望」を反映した味になるという。甘党の大工には蜂蜜たっぷりの味、塩好きの侍には死ぬほどしょっぱい味。でも、ある常連の浪人だけは違った。
「金兵衛どの、ワシの唐揚げ、毎回味が薄いのだが」
「そりゃ、心の欲望がないんじゃないかね」
浪人はギクリとした顔をして、うつむいた。実は浪人、密かにダイエット中だったのだ。
そんなある日、江戸で評判の美食家が店を訪れた。見た目は大層立派だが、口を開けば毒舌のオンパレード。
「さて、どんな唐揚げかねえ。まさか、ただの鳥肉の塊ってことはないだろうね?」
美食家がひと口食べたその瞬間、店の空気が凍った。
「…これは、ひどい!」
美食家は叫び、箸を叩きつけた。
「なんだこの唐揚げ!味がまるでゴミだ!いや、それ以下だ!」
金兵衛はニヤリと笑いながら答えた。
「お客さん、それ、自分の心の味ですよ。」
常連たちは大笑い。美食家は顔を真っ赤にして店を飛び出した。それ以来、店の看板にはこんな文言が追加された。
『心が貧しい人、味の保証なし』
西片の唐揚げ専門店「から金」は、今日も揚げたての笑いを提供している。
めでたしめでたし。