全力ってさ

仲良しの先輩とおつまみをこしらえて宅飲みをした。

仕込んだおつまみがもうすぐ出来上がるというとき、

先輩が、タバコがあと一本しかないというので

じゃんけんで負けた方がコンビニまで買いに行く、という話になった。

正直負けても勝ってもどっちでもよかった。

勝ったら普通にうれしい。

だが先輩は違った。

「俺じゃんけんめっちゃ強いよ」

そう自信満々に言った。

先輩は本気だ。

わたしは意欲が沸いた。

その高い鼻をへし折りたい。。

わたしの眠れる闘志に火が付いた。


ルールは、先に3回勝った方が勝ちに決めた。

先輩曰く、1回勝負のじゃんけんは運ゲーだが、3回勝負のじゃんけんは技術らしい。

ふーん。

こてんぱんにして二度とじゃんけん強いとか言えなくしてやりたい。


いざ!一回目!

最初はグー、じゃんけんポイ!

先輩はパー、わたしはチョキ。

勝った、、!

いい出だしだ。ガッツポーズ。

「あーなるほどね??チョキで勝ったから次はチョキ以外?」

先輩は何やらぶつぶつ言っている。

続いて2回目。

最初はグー、じゃんけんポイ!

先輩はパー、わたしはグー。

負けた、、、!!!!!!!

先輩といえば、

「グーで負けたからもうグーは出さんよね?」

とか何とか早口でしゃべっている。

3回目。

最初はグー、じゃんけんポイ!

先輩はチョキ、わたしはパー。

また負けた、、、!!!!!!!!!!!

先輩はさらによく喋った。

「えーパーパーグーでチョキではまだ勝ってないと。なるほど。」

次負けたら終わりだ、、!!!

最初はグー、じゃんけんポイ!

先輩はパー、わたしはグー。

わたしは膝から崩れ落ちた。

悔しい、、、、、、、、、

先輩の自信の補強をしてしまった。。

不甲斐なし。


対して先輩はめちゃめちゃ喜んでいる。

この人29なのにじゃんけんに全力だ。

純粋な少年さながらだ。

本気で勝ちに行って本気で喜んでいる。

それでいて負けたわたしをいびったりはしなかった。

なんたる聖人君子。

自分の浅ましさに赤面。脱帽。


負けて腹立たしい。

だけどそれ以上に楽しかった。

わたしはずかずかと玄関へ行き、携帯を持ったことを確認してサンダルを履いた。

やっぱり悔しいのでタバコを投げつけてやるのだ。

先輩は余裕の表情で「ご苦労」とでもいうのだろう。

次は絶対負けない。

これまたじゃんけんに全力な大人が増えた瞬間だった。

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