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医師と僧侶のカケコミ相談室 第36回 明日死ぬと思って生きるのが難しいわけ

脳神経外科医の道下将太郎と、京都「両足院」副住職の伊藤東凌が、みなさんからのお悩み・質問・疑問へ回答する「医師と僧侶のカケコミ相談室」。
カケコミをはじめた経緯、無料公開のQ&Aはこちらです!

2月、やはり寒いですね。各地から寒波、大雪のニュースが聞こえてきます。暦の上では2月13日に立春の末候「魚上氷(うおこおりをいずる)」を迎え、春の兆しを感じて魚たちが動き始めるころとされていますが、冬眠した魚が動き出すのはもう少し先でしょうか。

温帯に生息する鯉などの淡水魚は冬眠するそうです。知りませんでした!冬眠とは、寒さを乗り切るために体を「省エネモード」きりかえて代謝を低下させること。環境に適応して生き延びるための知恵が体に備わっているというのは、生物の神秘ですね。

そして、冬眠中の鯉がかかる「眠り病」という病気があるそうです。池の底で眠ったように横転してしまい、刺激を与えると反応して動き出しますが、またすぐ横たわってしまう。はっきりした原因は不明で、急激な環境変化、疲労などが誘因になるとされています。環境の変化に耐えらえず心身の調子を崩すというのは人間もよくあることで、どんな動物も大きな変化に直面するときは無理は禁物ということですね。

今週のアプリInTripでは、「主体的あきらめ」というテーマで記事をお届けしています。動物や魚が厳しい冬にあらがうことなく冬眠するのは、主体的あきらめとも考えられます。寒さに抵抗しても四季を変えることはできませんので。私たち人間も変えられないこと、どうにもできないことがあり、それらをあきらめた上で、主体的な選択をしようというお話です。

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今週のQ&Aは、生と死をどう考えるか、「死生観」についてです。
以前もお伝えしましたが、カケコミ相談室は3月からリニューアルを予定しています。寄せられたお悩み、質問に向き合う中でみえてきたのが、「人生には必ず終わりがくるという実感が持てず、死を見据えて今を生きるのが難しい」状況が現代にはあるとういことでした。

そこで3月からは、目を逸らしがちな死と向き合い、生を解放して豊かにしていくための、医師と僧侶ならではの知恵、経験、最新情報をお届けしていきます。これまでのQ&A形式ではなくなるので(お2人に質問、コミュニケーションする場は作っていきます)、まずは今月残り2回の配信でリニューアルした記事をお届けします。そのうえで、3月以降の購読について判断頂けると嬉しいです。

具体的には、アートや自然との関わりを通して死生観を深める、死の現場で見えてきた生のはなし、健康情報のアップデートなど。今週のQ&Aも死生観を深める内容になっていますので、こちらも参考にしてください。今週は内容がかなりボリューミーなので、3つのQ&Aでお届けします。


Q1 「明日死ぬと思って全力で生きろ」とよく言いますが、30代前半の自分にはまだまだ時間はあると感じて死の実感がもてません。周りの目を気にせず後悔なく今を過ごすために、死を身近に感じる方法はあるのでしょうか。

Q2 生きがい、やりがいを求めて仕事に取り組んできました。自己啓発のセミナーにも100万円以上投資しています。成果もあげていますが、いつも「なにか違った」「もっとほかにやるべきことがある」と感じて終わりがありません。この探求がいつまで続くのか、自分はなにを求めているのかが分からなくなっています。

Q3 先日私の祖父がなくなり、5歳の息子に「死んだらどこにいくの?死ぬのはこわいこと?」と聞かれて言葉につまりました。子どもに死をなんと伝えたらいいでしょう。私自身、死とは何なのかと聞かれたら明確な答えがありません。


Q1
「明日死ぬと思って全力で生きろ」とよく言いますが、30代前半の自分にはまだまだ時間はあると感じて死の実感がもてません。周りの目を気にせず後悔なく今を過ごすために、死を身近に感じる方法はあるのでしょうか。

A1 
アートを通して、生への幻想から抜け出しましょう東凌

相談者さんは30代前半、健康で思い通り動く体、なめらかな肌、寝不足でも無理が効く体力があり、それらはまだまだ続くと感じているのでしょう。けれど、生と縁がきれるとそんな状態は一瞬で消え去ります。体は動かなくなり、生気にあふれていた肌は腐って溶けていきます。

多くの人は、「私」という清らかな美しい肉体、変わらない存在が続いていくものだと思い込んでいます。そんなことはない、自分を美しい存在とは思っていないと感じるかもしれませんが、次のような例で考えると分かりやすいでしょう。
つばを吐いて服についたら「汚い」と思うけれど、つばが口の中にあり自分と一体化している時点では、汚いと思いません。便を排便して体外に出すと汚いものになりますが、お腹の中にあるときに「汚い!」とは思いません。それは、「私という存在はきれいなもの」というイメージを持っているからですね。

そんな、「きれいな私」「健康な体」「若さ、美しさ」などが続くというのは、美しいイメージの世界に溺れている状態です。そのイメージが強すぎるため、死んで朽ち果てていく自分を実感できないのです。それは相談者さんだけではなく、多くの人が同じような状態にあります。

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