あの時の一言

小さい頃から何かと縁のある友人がいた。

彼女は頭も良くて人気者で、話もとても面白かった。中学では部活も帰り道も同じで交換ノートとかもしていて散々話したのにまだ話し足りないか!というくらい家の前でも盛り上がるという中学生女子あるある。ていうか、これは年齢は関係なく女あるあるか。

彼女はガリ勉タイプではなく元々の地頭が良いタイプの勉強が出来る人(付き合いもよく皆の前で勉強しているところを見たことがなかった。)だったが、絵を描く系(音楽も?)がとても苦手だったので、「好きな事は絵を描く」しかなかった自分が彼女のノートを借りる代わりに写生大会で彼女の分まで描いたり、家庭科の出来上がりのメニューとか描く欄に自分のは適当に終わらせて彼女の分はめちゃくちゃ写実的な力作を描く、という謎のことしていた。

高校になって彼女が社会人の彼氏と付き合うようになってからは距離できて昔ほどの仲ではなくなった。彼氏はおろか色恋ゼロの自分はいつまでも子供っぽすぎて話しも予定も合わなくなっていたけれど細々と関係は続いてはいた。

彼女は卒業後も地元の銀行に就職して(当時高校の就職クラスで銀行に決まるのはハイスペックな一握りの人だけだった)からもたまに遊んだり旅行へ行ったり、結婚式に呼ばれたりやはり何かと親交は続いていた。

自分が仕事を辞めてこれからどうしようかな、と思っていた時に自分が働いている職場(薬局)を紹介してくれたのも彼女だった。
丁度、求職中の自分とタイミングが合って彼女が上司に猛プッシュしてくれて即採用が決まり嬉しいような申し訳ないような気持ちだった。

一緒に働けるのかと思っていたが、そうではなく
彼女は諸事情で本店へ行くために代わりになる人材を探していた。
「とにかく急いで本店に行きたくて代わりの者を探していたから助かった」的な事を面と向かってサラッと言われた。自分だから猛プッシュしてくれたと勘違いしていた自分が恥ずかしかった。

あの時、あの職場を紹介してくれたお陰で少なからず調剤の知識と経験が身につき、強みになり働き口がみつかりやすくなった。
職場は変わったが今だにその仕事(医療系)にしていて薬局の仕事に巡り合わせてくれた彼女には感謝しかない。

思い返せばそれまでもふとした時、彼女に対して思う瞬間が何度かあった。

気に障ることがあると目を合わせてくれなくなるというのは学生時代から大人になっても変わらずで、そうさせてしまったこちらが悪いんだろうけど、怒らせてしまった理由が分からず最後まで教えてくれないのが怖かった。
何が彼女の逆鱗に触れるか、ということがわからないままだった。
どうして理由を教えてくれなかったのか、そして何故、自分は聞けなかったのか。

大人になって何かの話の時に「昔から絵と字の上手さだけは〇〇(私)には敵わない。」と言われたことがあった。その時、自分は能天気に絵と字を褒められたことに歓びを覚えた。
けど、あれ?それ以外は全部、、、、
というか、ずうっと自分は下にみられていたのか、そしてそれを本人にサラッと言うんか、、、、。
ショックだった。

彼女に深い意味はなかったのかもしれないし褒め言葉のつもりで言ったのかもしれないし自分はもっと多くの人に自覚なく多くの酷いことを言ったりしてきたんだろうと反省するきっかけにもなった。

けど、彼女が常々思っていた本音を聞いた気がした。昔からなんで自分と仲良くしてくれるんだろうと不思議だったのがその時に理解できたような気がした。

ほどなくして、彼女は仕事を辞め新生活を送るために県外に引っ越した。
友人数人で結婚祝いと引っ越し祝いを送って、お返しの品が届いてからは音信不通になった。

心も物理的にも遠くなって、これから先は関わる事がなくなったことにほっとしている自分がいる。