
【短編小説】君に話すよ2人の物語を
1.
君は覚えていないだろうけど遥か昔の大昔の話なんだけど元々は2人は1つの藻くずだったんだ。
海の中で生まれて海の中に消えてしまった1つの藻くずだったんだ。
荒波に揉まれてバラバラになったんだ。
散り散りバラバラに分裂するものもあったけど君と僕はぱっかりと2つに砕けてしまったんだよ。
追いかけても間に合わなかった。
2.
それから沢山の時間が流れてある日やっと再会したんだ。
小さな魚の口の中で。
君だとすぐ気がついたよ。
でも魚の中に取り込まれて2人とも魚になったね。
3.
何度も何度もさらに大きな生き物に食べられては吸収されてどんどん大きな生き物に変わっていったんだ。
そこに人間が現れてせっかく大きくなったぼくたちを食べてしまった時に、別々に引き裂かれて食べられちゃったから、また離れ離れになったんだ。
4.
君は人間の女の子になって、僕は人間の男の子になった。その時僕は君が僕から離れたもう1人の僕だと分かったから、どうにかして君とまた一緒になろうとした。
でも、大勢でマンモスを捕まえている時に大きな牙にかかって僕の命は消えてしまった。
また一からやり直しだ。君を見つけるのだって一苦労だと言うのに。
5.
それから長い年月が過ぎた。
次に見つけたのは僕ではなく君の方だったよ。
魚を捕まえようと川に入った時に流されて麓の村に打ち上げられた僕を君が見つけたんだ。
でもせっかく介抱してくれたのに僕は君の腕の中ですぐに天に召されてしまった。
君は何かを感じたような瞳で僕を見ていたよ。
6.
あっと思った時にすぐに引き離されてしまうのは何故なんだろうと思ったよ。
何度も何度も繰り返される。次に僕が生を受けてこの世で精一杯生きていた時、君は隣の村に生まれ落ちていた。
偶然の導きで君と顔見知りになって話が出来るくらいの間柄になった。
なのに、流行病で僕は君より先に命を落とした。短命なんだ。いつも。
なんでいつもこうなんだろうって運命が憎らしくなった。
7.
僕は君を見つけると何故か分かるんだ。
それは何故なのか自分でも分からないけれど
君だと思うし。君だと思う前にまず最初に鏡を見ているような錯覚を起こすんだよ。
姿形は全く違うのに。
君が呪術を執り行う家に生まれて雲の上の人になっていたっていつだって引き寄せられて、出会ってしまうんだ。
でも今度は君が狙われて僕より先に天に召された。
なんでいつもいつも。
8.
僕は少しばかり人より話が上手いから沢山の物語を作っているうちに人気者になり、それが世間を騒がせた。そりゃあ何度も何度も生きてきたからね。
なぜが沢山の記憶が消えないんだ。それでそれらを織り交ぜて物語を作ると、それが上演されてやんややんやの大歓声。大入満員の芝居小屋。
でも、沢山の生きてきた記憶が残ってるなんてそれは誰にも言わない。君以外の人には。
君はいつだって覚えていないみたいだけど、僕が覚えているから君を見つけるよ。
君は苦労して生きてきたよね。そりゃあ僕の片割れだから分かるよ。
家の為に辛い所で働いていたから僕が君を助けて今度こそ幸せに暮らそうと思ったよ。
でも君は苦労の連続で過労がたたって短い命だった。
でもこの時が今までの長い道のりの中で1番幸せだと思ったよ。
9.
僕はね君に会えない命も沢山生きてきたんだよ。
色んな場所に生まれ落ちて色んな生き方をした。
今から500年以上前に君にあった時はもう既に2人とも今までの中で1番歳をとっていた。
僕は手が器用だったから細々と髪飾りなんかを作ったりして暮らしていた。
君は商家で働いていた。偶然が偶然を生んで大きな川のほとりで並んで腰掛けて話をした。
君も苦労をしてきたんだな。横顔でわかった。
シワのある目尻から懐かしい瞳が優しく語りかけてくる。他愛無い話を一つ二つした。
ホッと心が熱くなった。2人で夕焼けをじっと見つめていた。
大きな柳の木がザワザワと揺れた。
10.
君が僕に気がついたのはこの時会えた時が初めてだったんだろう。僕は青年だったけど色んな物を背負って生きていた。
世の中が大きく変わろうとしていた中で君だけがやたら古風に感じた。
君の目はそれを物語っていたし、僕もそれに気がついていつになく誰にも話さなかった事まで話してしまった。
けれど困った事にタイミングが最悪だった。
僕には時間がなかった。
君はなぜか独り言のように「私ね。そんなに長生きしたくないんだ。」とつぶやいた。
聞いてはいけないことを聞いた気がしたから聞こえないふりをした。
僕はまたもや命が終わった。
いつも君を1人で置いていってごめんね。
11.
今は感染症が何度も流行って人々は家に閉じ籠ってばかりだ。
不要不急の用事以外は家にいるように言い渡された。一体いつまでこんな状態が続くんだろう。
みんな困っているのにそれを言えない。みんな辛いのだからと我慢ばかり強いられている。
仕事も旅行もライブもリモートで行われてそれでも人に会いたい気持ちがその状態を抜け出そうともがいていた。
インターネットがどんどん進化して沢山のSNSが賑わっている。
誰もがはじめてのネット生活で様々な問題が起きて特別な有名人を除いて誰もが匿名で色んな物を書いたり発表したりした。
個人情報を守らないと怖い世の中になったからだ。
親しい者同士はお互いを判別しながらコミュニティを作った。
これまであった新しい出会いも新しいコミュニティも現実社会では生まれにくくなっていて古い物が細々と残っている状態で燻っていた。
今はネットの世界に新しい複雑で多様な世界が生まれてきて現実世界と同時進行のパラレルワールドのようだ。
そんな中で君は何度も僕を見つける。
どうやって見つけるのか分からないけれど。
今まで何度も何度も生まれ変わりながら君とは語り合ったりケンカしたりしてきたからかな。いや、それにしても、なんで見つけるんだよ。
進化しすぎてネットに書いていない事も聞こえてきてしまうんだよ。君の声。
どうなってしまったんだよ。
分かるんだよ君の考えてる事が。
君も聴こえているんだろう?僕のこの話が。
