【短編小説】主任、呼んでますよ!#1
片側3車線の交通量が多い国道を右折して脇道に入ると、鰡と鯉が互い違いに泳ぐ佐瀬川河口付近が見えてくる。
川沿いには佐瀬市総合病院やスワン銀行浜町支店。閉店してしまったが、以前はパチンコ店「グレイテスト」も営業していた。その目の前にある、少し古めの立体駐車場1階テナントが早島有助の新しい職場だ。
運転席の早島有助は手動式のウィンドウを右手で回しながら開けると、入場ゲートで社員専用の無料駐車カードを車内BOXから取り出して、差込口に入れた。
たまに間違えて無料駐車カードを入れ忘れて、一般利用の発券ボタンを押した時が大変だ。発券された駐車券は元に戻せないから、駐車券を取って一度駐車場の外に出る必要がある。
だからと言って、面倒くさがり、そのまま駐車しようものなら、30分につき100円の料金が発生してしまう。
単純計算で、現在の時刻である午前6時から、早島が退勤する午後18時までの滞在時間の計12時間で換算すると、2400円もかかってしまい、勤務後の体力消耗とダブルパンチでメンタルが削られる自信を早島は持っている。
赤と白が交互に塗られたゲートバーが、一回ゴトンと音を立てて少し下がり、その反動なのか勢い良く上に開いた。
徒歩で進むには少々難儀しそうな勾配が続いた入り口から2階までを軽自動車で登ると、早島有助はまだ薄暗い場内を上へ上へと用心しながらアクセルを踏み続ける。
立体駐車場の2階から6階までは、1階で営業している生鮮食品が豊富で、県内14店舗を展開する、地元ではグリーンの三角形のマークでもお馴染みのスーパーマーケット「スーパーやまや」を利用するお客様の専用フロアだ。特売のチラシが入る月曜日は、1日あたりの客数が優に二千人を越えるため、駐車スペースも多めに取られている。
「スーパーやまや」の従業員フロアは最上階近くの7階まで上がる必要があり、立体駐車場を上に上に、数メートルおきに進んでは、左にくるくるハンドルを回すもんだから目が回る。早朝6時でまだまだ早島の眠気も取れてはいない。
7階のエレベーター側近くの軽自動車専用区画の定位置に車をようやく停めると、早島有助は運転席のドアをゆっくりと開けた。白線の右側に車が寄ってしまったので、ドアを勢い良く開けると支柱に当たってしまう。かといって、もう一度停め直すのも面倒だからだ。
少しくらいなら当たっても良いんだけどな、と早島は所々錆び付いた車体を眺めながら、もう十数年近く乗っているのに運転が上手くならないなあ、と痒くもないのに二の腕あたりを掻いて、いつものようにエレベーターの入り口まで早歩きで急いだ。