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「ドラえもん のび太の宇宙開拓史」ドラえもんまつり2025 プロローグ
気持ちがはやるとは、この事か。
待ち合わせに遅れがちな私が、余裕を持ってたどり着いたのは、神保町。カレーと古本屋と喫茶店の街。待ちに待った「ドラえもんまつり 2025」が開催されるという事で、人生の中で「1度も」ドラえもんを観たことが無いという、中学高校の同級生でもある友人Mちゃんを誘って神保町シアターへと行く事にした。
私はお茶の水駅を降りたち、スキップするかのようにどんどんあゆみをすすめては、通りすがりにおしゃれな人を見つけると、カメラのシャッターをきった。
神保町シアターの横には、上映開始時刻が1時間前であったのにも関わらず、長蛇の列が出来ていた。自分とドラえもんのぬいぐるみを撮っている若者も居る。掲示板に貼ってある今日の上映についてのお知らせを見ると「完売」の文字が。
列の最後尾に並んでいた男性に
「これはドラえもんの列ですか?」
と、聞くとしばらく私を凝視したその男性は
「この列の最後尾は、道の向こう側みたいですね」
と、教えてくれた。
そちら側を見ると、こちらよりも更に長い列が続くのが見えた。
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そちらに並ぶと、またたく間にひとびとが連なっていった。しばらくして別ルートから来るMちゃんから「着いたよ!」と連絡が来たのと同時にひらひらとした長いスカートが視界を横切った。
「こっち、こっち!」
と、手招きをする私。
「わあ!すごいね!」
と、列を眺めて言うMちゃん。
「やっぱりドラえもんってすごいね!こんなに並ぶんだね!」
2人で大興奮で話し始める。前方の男性が少しピクリとしたのが見えた。
「ドラえもんって男性ファンが多いのかな?夢がある話だから、老若男女問わないんだと思ったんだけど」
周りに並んでいる人たちが、私たちの会話を全身で耳を澄ませて聞いているような雰囲気を感じる。
しばらくすると、腕まくりをした体育会系の女性が
「はい、もうすこしつめて並んでくださいね!」
と、強めに促しにきた。よし、もうそろそろだ。
「どうしよう、大山のぶ代さんの声聞いたら泣いちゃうかもしれない」
「そうだよね、好きならよけいだよね」
前後の列の人々が私たちを凝視する。
しばらくして、何となく違和感を感じた私は携帯電話の時計を見る。「10時59分」上映は11時からだ。
行列は全く動きがない。
「大変!えっ受付で聞いてくる!」
超ダッシュで、劇場に駆け込む。
「あああのっ、外の列はドラえもんの列では無いんですか?」
「外の列?違いますね、ラーメン屋さんの列ではないでしょうか。チケットは持っていらっしゃいますか?」
「は、はい、持っています!ちょちょちょっと友だちをよよよ呼んで来ます!」
劇場のスタッフさんがあわてて飛び出した私に付いて外にきてくれた。それからは、まるで花道のようにスタッフさんが並んで地下のスクリーンまでいざなってくれた。
通り過ぎる度に
「お手洗いは大丈夫でしょうか」
「すぐ本編に入りますね」
「ごゆっくりお楽しみください」
と、優しい言葉につつまれ最前列の席で首の角度180度で観たのは言うまでもない。
それと、1分というのは、案外長い。いろいろ行動できるということを身をもって体験し、人間の持っている可能性を感じた。だって間に合ったんだから。良かった。本当に良かった。
また感想は別の機会に。
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