喋るよ鳥ト少しだけ長く③#インタビュー
今回の公演「踊るよ鳥ト少し短く」に出演する3名に少しだけ長いインタビューをして、公演に関して・創作に関してお話をうかがいました。
今回お話をしているのは、せのびの役者、藤原慶。
音楽について、せのびについて、自身の演劇10周年について。
人を笑わせたり喜ばせたりすることを常に考えている藤原にとって、演劇とはせのびとはどのような場所なのか。
せのびへの愛と、彼が見据えているせのびの未来の姿がわかる、そんなお話です。
それでは、はりきってどうぞ!
―わたしは今回慶さんがせのびで芝居をするところを初めてちゃんと見ていて。なんか楽しそうだなと思って、すごく。
ああー。そう、そうっすね。前は、楽しそうって言われるとちょっとこっぱずかしいというか。「え、そんなことないし。はあ?」みたいな感じになりがちだったんだけど、今は結構、「ああ、そうだねえ」「そうです~」って感じはある。
―それは「演じるのが楽しそうだね」って言われるのが恥ずかしいってことですか?
演じる、とか、演劇をすごく楽しそうにやってるね、とか言われると「はあ?楽しくねえし、大変だし、はああ??」みたいな感じで、純粋に認められない部分があって。負けず嫌いとは違うんだけど、偏屈、卑屈、みたいな。そういう感じのがあったんだけど。そういうのがもうない!ないです!
―楽しいんですねえ
楽しくなりましたね。
―そのきっかけは、10年だから?
ああー、まあ、年々…っていうのはあったけど、頭と体がちょっとずつ合致してきた、みたいな。
―ふーん
頭が先行してた時もあるし、身体が先行してた時もどっちもあるんだけど。まあ、今も全然あるんだけど、それが合致しやすくなりました。脳が「こうやりたい」って言ったものが体の指とか足とかまで来て、「こうでしょ」って言って体もやる、みたいな。それが合致するとやっぱ気持ちいいよね、なんかね。
―美紀依さんが慶さんのレスポンスの速さについて話してました。村田から言われたことを、こうですか?ってやるのが速い、って。
それはやっぱ回数かな。演出の村田と何回も創作してるってのもあるけど、いろんな座組とかで何回か経験させてもらって、それでレスポンスがある程度速くはなったかな。こうかな?ってイメージが膨らみやすくなった。いろんな演出家の方がいらっしゃるから、具体的な例で出す人もいれば、すごく抽象的な、でも的を射ていることを言う方もいて様々だけど。「こんな感じかな?」っていうのはイメージしやすくなったし、村田の場合は音とか音楽とか、そういうもので言ってくれたりするから共通言語があるので。それを持っていると話がしやすいよね。同じ言葉や表現を持っているというの。
―せのびの作品は音楽的、ってことですか?
音楽の要素、は入っていると思うというか。台詞もやっぱり音だしね。結局ね、音楽が、身近にあるんですよ!今回ピアノの生演奏もありますけど、その情報っていうのは切っても切れない関係にあるなって。
―音楽は身近にあるんですね。
身近にあるから。うん。それを取り入れてるっていうか。そう思って台詞の言い方とかをめっちゃ統一してた時期もある。この台詞はこの音がとてもいい音だ!みたいな感じで、楽譜みたいなのを自分で作って頭の中でやってた時があるんだけど。でも、それも今回はそんなに楽譜通りではなくて、もちろん稽古の最初からある程度楽譜は作ってきたけど、その都度手直ししつつ。で、なんなら、通しとかやると即興とかが入ってきたりして、その楽譜通りじゃないこともしつつ。ま、台詞忘れた時とか熱が入りすぎてしまった時は即興をせざるを得ないんだけど。それがノイズじゃないなって思えるようになったかな。
―許容範囲、何が起きても対応できる範囲がちゃんと準備ができてるなっていう印象がある。稽古の最初のあたりから慶さんは安定しているイメージだったので、強いなって。
…そお??
―最初のスタートの位置が高かった気がしましたよ。
全然馴染まなかったけどね。言葉とか。作品によってそれぞれ違うけど、それこそ今回既成脚本で、「こういう言い回しやったことないな」っていうのが多かったから、口馴染みは本当に遅かったというか。今やっと馴染んできたかな、ぐらいの感じではあるんだけど。そうね、まあ、焦んないで、みたいな。とりあえず今までやってきたことをやりつつ、新しいことが必要なんだったらそれをやりつつ、って感じだから。「全然できない、やべえ」って感じのスタートではなかったかな。
―役をやっていて楽しいですか?
役をやってて今回のは楽しいですね。
―すごい慶さんがいきいきしてる役だなと思って。
ほんとうに今までやってきたことが一つひとつハードルを越えるごとに、「あ、これ昔つまずいたハードルだ!」みたいな。で、それをまた記憶から引っ張り出してきて再演してみて。これはやっぱり前もやったやつだ、ってなったり、また新しいハードルだったり。いろいろと今までのが使えたかな。これまでは、使うっていうよりは武器探しっていうか。強い武器を探して毎回毎回手に入ったか入らないかみたいなのを何回も何回も繰り返したけど、それがいっぱい溜まってきたから、今回は一個ずつ取り出しながら「これ使おう」とか「こっちの剣より盾使っとくか」みたいなのを使い分ける。それが、演出のオーダーが来た時に「あ、この剣ですか?」みたいに取り出すスピードの速さにはつながってるかな。
―これは俺の武器をいろいろと出せる作品だ、って気づいたのは脚本読みの段階ですか?稽古をしているうちに気づいた?
脚本を読んだときは、めっちゃむずいよね!ほんとうに、「ああ、これもう一番だわ!」って。もう真っ暗だったから、お先が!どういう感じになるのかっていうのが全くイメージできてなかったから、こりゃやべえな!っていう焦りはやっぱりあったんだけど、やってるうちに「おやおや?」と。「これってもしかして今までのやつ総動員すれば立ち向かえるかも」みたいなのは、やっててジワジワ分かったし、それはけっこう早い段階で村田も示してくれたから。これ使えるんじゃないですか?っていうのを配役の段階で考えてくれてたみたいだから。それは配役の妙だなっていうのは。
―それと10周年っていうのは関係ありますか?10周年だと思ってやっていたのか、稽古していたら「あ、10周年だ」って思ったのか。
笑。10周年だっていうのはネタだよね。そりゃあ10周年だっていうので自分に気合入れようみたいな感じで。最初は一応冗談で言ったけど、一時期忘れてて。でもやっぱりやればやるほど意識せざるを得なかったよね、昔のことをさ。ちょっと前のことを。それで「やっぱり10周年か」っていうのをじわじわ意識していった。やるごとに。最初はネタですよ、自分を奮い立たせるためのね。
―他の出演者についてはどうですか、髙橋とか。
髙橋は、せのびでは『なくなりはしないで』ぶりだね。
―いかがです?
髙橋?そうだね、髙橋も難しいからね。今回のはお互いにハードルが高いって知ってるから、もう同情だよね。大変だよね~俺も~!みたな感じだから。稽古場としてはスタッフ・キャスト・演出含め全員で作ってるから、そういう意味では刺激し合っているし、いい関係が作れているかなっていうのは思う。
―演奏の美紀依さんについては?
美紀依さんについては、やっぱ生演奏がイイんだよね。やっぱりね、盛り上がるのね。音楽は盛り上がる。役者ってやっぱりいろんな環境的なことをキャッチしにいくし、キャッチせざるを得ないんだけど、もう生演奏っていうのはバチバチ情報が入ってくるので、ほんとうに引っ張ってくれてるなっていうのは思いますしね。シンプルに素敵な演奏だなって。
―個人としての目標を持ってやっているのはわかるんですけど、せのびの副主宰として今回の公演はどういう目標を持ってましたか?次を見据えてとか
着実に一歩一歩前に前に行かないと。劇団として成長はしていかないといけないなっていうのは思ってる。今の状態をキープするくらいだったらまあいいんだけど、ステイか前に行くか、みたいなことは思っているので。今回既成の脚本をやったっていうことは一つのターニングポイントかなって思ってて。オリジナルとはまた違った作り方を結局はしなくちゃいけなかったし、みんな答えを持っていない状況で。まあいつも脚本・演出が答えを持っているわけじゃないんだけど、みんなで探すぞ、おー!みたいな感じでやってたから。団結力みたいなのはこの公演を通して上がったと思うし、これをきっかけに今後のせのびがどうしていくのか考えるきっかけになればいいんじゃないかなって。
―やっぱり本がしっかりしてると強度がありますね。
強いよね、シンプルにね。本が引っ張ってくれてる部分もあるから。それをどうやって自分たちの物にしていけるかっていうのは、皆が考えてたことだからそれが結果として表れればいいなって。はえぎわさんの脚本をもとにせのびが作品を作ったっていう風に見えればいいな。トレースじゃなくて。意外と自由な発想でやれてるんじゃないかな。もちろんはえぎわさんを完璧にやるっていうやり方もあると思うんだけど、そうじゃないせのびの色を出した作品を作るっていうのをやれてると思うから。最終的にできあがるものは、せのびの作品ですよって自信を持ってお見せすることができる。それがオリジナルの脚本なのか既成脚本なのかは関係なく。
―最初の稽古で脚本を読んでいるのを見たときは、「全然せのびっぽくない」って思って。脚本の暗さとか、言い回しもだし、大きい声を出したりとか。だけど昨日の通し稽古を見たときに、衣装とか舞台装飾を見て、絵本みたいだなって思って。「あ、やっぱり村田じゃん!」って。
村田じゃん!ってね。
―けど、せのびだけどいつもと違うっていうのを見せられるのかな、っていうのは思いました。
幅は広がるような気はするね。ただのコピーバンドじゃねえぞっていう。
―それが新しいお客さんにつながってくれたら。
そうだね、八時の芝居小屋っていう企画自体の性質もあるけど、ほんとうに新しい人に見てもらいたいなっていうのはあるし。ここから入ってもらって次の作品があったとして、それでがっかりさせることはまずないなっていうのは思ってるから。まあ、はえぎわさんを知ってて、でもいいし、舞台が気になってでも、せのびが気になってでもいいから。なんでもいいのでぜひ今回の劇を目撃していただけたらなとは思います。
―お客さんにむけてひとこと、とお聞きしようと思っていましたが今ので充分ですね。最後に何かありますか?
せのびオリジナル、です!
ではまたここでお会いしましょう!
〈インタビュアー・文・写真 石橋奈那子〉
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