|1030-1101|向き合うとき#日誌#06
毎週月・金曜日の20時更新 演劇ユニットせのびの稽古場の様子をお届けする日誌。
【10月31日(土)】
満月の夜、どこか地に足の着かない一同。
今日の稽古はなんだかザワザワしています。ザワザワ…ザワザワ…
美紀依さんのピアノの演奏に合わせてコンテンポラリーダンスをする3人。
思い思いの動きをしながら、くるくる回ってみたり、寝転んでみたり。ただ立っているだけでもダンスです。おもしろい。
音を聴いて動いているのか、「何かしなきゃいけない!」と思っていながら動いているのか、違いがよく見えます。
ゆかいなダンスとは一転して、シリアスなシーンの稽古に入ります。
お話も山場にさしかかり、役者の顔からも笑顔が消えました。
ラストにつながる部分であるため、うーんうーん、と考えながら稽古をする演出と役者たち。
「髙橋の言葉からは情景が浮かんでこない、言葉しか浮かんでこない。」
台詞を話す時に役者で完結してしまうのではなく、役者が放った言葉からお客さんにきちんと想像させてほしい。と村田。
説明するパートだからといって、ただ分節で切ったり話すスピードをゆっくりにしたりするんじゃなく、「この言葉はスルっと出てくる言葉かな?それとも口にしづらいのでモゴモゴしてしまう言葉かな?」ということを考えるとうまくいくようです。
自分の中から言葉が出てくるときのタイミングをつかむ。
そばで聞いていても、理解が難しいことを話しているなあという印象です。
今回出てきた「話し方」については、理論で理解して、感覚でやってみるしかないよう。いろいろと試しながらやってみてコツをつかんでいく。
「次第にリズムにのってくるから、それを楽しむんだよ。」と言っていました。
探りながらやっているうちはモヤモヤしてしまいますが、できるようになったらきっと楽しい。それが舞台上でもできるようになったら、もっともっと演劇が楽しくなりますね。
稽古場はとても頭を使います。
方法を探りながら、「これ面白いかも!」というのを見つけていく作業です。
うーん、が増えている稽古場ではありますが、どんな面白いものが出来上がるのか、見ている側としてはワクワクしています。
【11月1日(日)】
皆さんお疲れの様子。お休みの藤原に代わって工藤 玄暉(くどう げんき)くんが稽古に参加します。
日誌初登場と思われる、高校生の工藤くん。
今回は制作として公演に関わっていますが、本人は役者に興味がある様子。
柔らかな物腰と、その中でキラキラしている自由な心が魅力的です。
カメラを向けるといつもにこにことしてくれます。
『踊るよ鳥ト少し短く』、稽古がどんどん進んでいましたが、日に日に髙橋の表情が曇ってきていました。演じている時も、正解を探しているうちに演技に制限がかかってしまっている様子。
舞台上で「何かをしなければいけない」となってしまっていて、昨日のダンスも答えを求めて動いているようでした。村田が見たいのは「何もしなくても舞台に立てる」こと。
正解を求めようとしたり、失敗を恐れたりするのは髙橋に限った話ではありません。自分もそういうところがあるなあ、と話を聞きながら思っていました。
もっと演技をよくしていくために自分の内面と向き合わなければいけない。
表現者としては、観ている人にどうしたら喜んでもらえるのかを考えるのはもちろんのなのですが、お客さんの望む答えを与えているだけではなく、自分の表現したいことを観てもらってもよい、のです。
ひとしきり二人で話をしたあとに村田がぽつりと「でも、髙橋は僕が生み出したモンスターかもしれないからね」と言いました。
劇団かっぱ在籍時からの先輩後輩で、髙橋が演劇を始めた当初から村田がその演技の指導をしていました。演出をつける中で役者に「正解を求める」ことをしていたし、今もしているかもしれないね、と。
役者としての髙橋も、演出家としても村田も毎回毎回が勉強です。そしてその度に何か新しいものを得ていっている二人。
それぞれが成長しながら一緒に創作活動を続けている髙橋と村田。
12月に風のスタジオで行われる「INDEPENDENT in 盛岡」にもこの二人で出場します。
今回の稽古で得たことが12月にどうつながっていくのか、楽しみです。
バタバタとしがちな今だからこそ、一度足を止めて、自分自身や創作との向き合い方について考える時間が必要なのだと思います。
さて、こちらは、髙橋・玄暉くんが稽古をしている隣で必死に何かを話し合っている演出の村田と舞台監督の早織さん。二人の顔は真剣そのもの。
何やら ものすごく大きなもの と 長ーいもの を買おうとしている様子。
一体何を、どんな目的で買うつもりなんでしょうか?
舞台の様子が写真の中にチラリと写っていたりしますが、どんなものが舞台上に設置されているのかは公演を観に来ていただいた時に明らかになります!気になります。
【作り手紹介#3】
稽古場日誌と並行して作り手の紹介を行うこの企画。
第3回目は、「演奏」を担当する千葉美紀依さんです。
千葉 美紀依(ちば みきえ)
1995年生まれ。名古屋市出身。てんびん座。
岩手に来たのは2018年12月。
4歳から小学校6年生までピアノを習う。今回久々にピアノを触ったそう。
普段はギターを使って作曲をしており、作曲活動は高校時代から。
SoundCloud(@thesabayomi)に楽曲を投稿している。
古着屋さんで購入したという黄色いモコモコのテディベアみたいな、素敵なお洋服を持っている。
やわらかな雰囲気と話し方に美紀依さんの人柄が表れています。
演劇は初めて、ということでいつも稽古の様子をじっと見つめていらっしゃいますが、演出についての考えや見ていての感想を話すときにはとてもハキハキとしていて、ものづくりへの気持ちの強さを感じます。
ピアノの音色を聴いていると、音の一つひとつの色が鮮やかだなという印象を受けます。今回演奏するものは全てオリジナルですので、登場するのは美紀依さんの中から出てきたメロディーたちばかりです。
彼女の音楽が作品の中でどのような役割を担うのか、その音色の心地よさもふくめ、ぜひ劇場でご体感ください。
髙橋と村田が演劇について話をした後に、早織さんが「響子さんの優しさ、演劇のときは抑えて大丈夫ですよ。人と接する時には素敵な部分ですけどね。」とフォローを入れていました。人の心へのアンテナが敏感な人が多い。そんな、せのびの稽古場です。
次回の投稿は 11月6日(金) です。
ではまたここでお会いしましょう!
〈写真 千葉潔考(kuromame)、文・写真 石橋奈那子、写真 工藤早織〉
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