【せ間話】村田青葉×佐々木玲奈【夜の部】
せのび団員の間のお話、略して「せ間話」。
『夏に冬は思い出せない』横浜公演を間近に控えたある晴れた日の夜。村田青葉・佐々木玲奈の二人と、中津川のほとりをお散歩しました。
入団までの経緯
玲奈さんが初めてせのびに参加した作品と、どんな経緯で入団することになったのかを聞かせてください。
佐々木
去年、せんがわ演劇コンクールの時の『リバー』で初めて参加して。
その年の1月~2月に北上市であったアーツライブいわての県南プログラムで青葉さんが演出をされていて、そこに私が出演者の形で出会ったのがきっかけです。
で、元々その1年か2年ぐらい前にせのびが新しい団員を募集してた時に興味はあったけど、今住んでるのが一関市なので。一関から参加はちょっと無理かと思ってやめてました。
村田
あ、そうだったんだ。見てくれて、興味を持っていたんだ。
佐々木
期限を設けずに、扉を開けて――窓を開放しておくみたいな感じで――募集します、というのは見てて。でも、距離もあるし、そうなるとちゃんと参加することもできないから。 そのために引っ越すのも働く場所の関係でちょっと難しいなと思って。
「でも、盛岡住んでないしな……」って思ってた時期があったので。
村田
そうなんだね。
でも実は玲奈さんに出演してもらったアーツライブの1年前に、北上市と西和賀町の方々にお話を聞いて先人たちを語り直すっていう企画に、僕、役者として出てて。それに玲奈さんが演出助手で携わっていたんだよね。
その時から「玲奈さんおもろいな」っていうのは――
佐々木
でも私、何も喋ってないんですよね。普通に緊張してたし。
村田
そうだったんだ(笑)
佐々木
多分なんも喋ってない。
村田
なんかね、お芝居に対する考え方とか、見方の角度がいいというか。
「すごい良かったです」「笑えました」「でもここちょっと声出てないです」とかそういうわかりやすい部分――それももちろん大事ではあるけど――そこの部分じゃなくて、玲奈さんは「今のところ私はこう見えていたので、 こういうふうになると変わるかも」みたいな。提案の仕方がすごい。玲奈さん自身の演劇観を持ってる方なんだなと思って、その時から面白い人だなと思ってた。
佐々木
ダウンジャケットが破けて、絆創膏で必死に止めてたことしか覚えてない。
村田
そんなことあったっけ(笑)
玲奈さんはいつから演劇をやられてるんですか。
佐々木
元々やりたいなと思ってたんですけど、ちゃんとやったのは高校の演劇部の時。千厩高校 の演劇部にいて、高校2年生の時に西和賀で演劇をやってる森陽平さんが来てくださって。
楽しければいいみたいな演劇じゃなく、作品を自分たちで作るとか、ちゃんと考えるとか、 やってる側と見えてるものは違うとか、そういう……真剣にやったのは高校2年生の時からですね。
村田
休み時間にやる楽しいサッカーもいいけど、 ちゃんとチームで練習して、ギリギリの戦いで勝つサッカーの方がおもろくない?っていうのは、 せのびの旗揚げからけっこう言ってて。演劇を「楽しい」だけじゃなく、「ちゃんとやる」っていうのは近いところ目指してるっていうか、演劇に対してこうありたい姿勢みたいなのが近かったのかなって。今聞いてて思った。うんうん。
佐々木
ちゃんとやりたいっていうか、ちゃんとやらないのが嫌なだけというか。
あと、単純に性格が……なんだろう、今は多分高校の時よりはそこまででもなくなったけど結果至上主義みたいな。結果が全て、出たものが全てだから。
高校だと大会が1年に1種類あって、そこで勝ち上がるかどうかで、その1年のスケジュールが変わっていくみたいな。次のステージに進めなかったら、そこまで頑張っても全部無駄になっちゃう。別に「無駄にしたくないから」って頑張るわけではないけど、ただ無駄になるのはちょっと自分のメンタル的にも避けたいなと思って。 やって結果が出るならやるか、みたいな。 何かを成したいとか、何かになりたいってわけじゃなくて――
村田
無駄にしたくない?
佐々木
うん。うーん。でも、演劇っていう行為自体がわりと無駄っちゃ無駄な(笑)
村田
いや、そうだよね(笑)
なぜ「演劇」だったのか?
今日インタビューしたいなと思ってた事項、いくつかあるんですけど「なんで演劇だったの?」っていうのは聞いてみたくて。
表現活動というだけならジャンルも方法いっぱいあるのに、なんで演劇じゃなきゃダメだったんでしょう。
佐々木
小学生の時、元々は少女漫画家になりたくて。自分でお話を考えるとか、絵を描くとか、小説とかもすごい書いてて……ていうのがまず1個。「自分で何かを作ったりするのが好き」っていうのが1つあって。
で、2つ目が、小学校の学習発表会。学芸会の劇で発表するのがすごく好きで、 好きだったし、それは周りから褒められた。ほんとの1番最後にセリフ喋る役になったりとか。それが2つ目。
で、3つ目が多分1番大きくて、中学校2年生の時の芸術鑑賞授業。中高生にお芝居を見せようっていうので、シアター2+1っていうNPO法人の方が、シェイクスピアの『十二夜』を元にした、ロマンチックコメディみたいなのをやって。
なんか、演劇っていうもの自体が割と――劇団四季とか宝塚とかもすごい好きなんですけど――ちっちゃい頃から何かしらの教育を受けてないとできなさそうなハードルっていうのがあって。でも、そのNPO法人の方々は――多分ちゃんと大学とか専門学校とか出てらっしゃるんですけど――存在をすごく身近に感じたというか。こういう選択肢もあるんだって思った。
で、十二夜自体が現代劇ではないから、非日常というか現実とは違う世界なんですけど、舞台のこっち側と舞台に奥とで「いる世界が違うけどコミュニケーションを取ろうとしてる」みたいなのがすごく面白くて。
演劇部自体には、もう小学生の時から「中学校に演劇部あったら入りたい」とは言ってたんですけど、多分その芸術鑑賞授業で見たのが一番大きなきっかけで。で、高校入って演劇部入って、演劇以外に特にやりたいこと――なんか人生を通してやりたいこと、趣味みたいなのが何もないから、 じゃ、とりあえずそれをやるかって思って今に至るみたいな。
だから、もしかしたら中学2年生の時とか、そういう多感な時期に見たのがお笑いだったら、多分「お笑い芸人になりたい」って思ってただろうし、そのまま何もなく漫画を読んでこういう作家さんみたいにこういう話を書きたいって思ったら「漫画家になりたい」って言ってただろうし。多分巡り合わせみたいな感じなんだと思う。
村田
団体名まで、鮮明に覚えてるというか、印象に残ってるわけだもんね。すごいね。
佐々木
なんか「観終わった後の感想を書いてください」みたいな紙にもめっちゃ書いた記憶がある。
村田
なんで演劇なのかって部分だと……なんか、僕も最初は小説を書きたい多感な時期があって。大学入って、「あ、小説じゃなくて戯曲っていう形だったら、人前で見せるっていうのがすごい近くにあるな」と思って、じゃあ演劇サークルで戯曲書こう、がスタートだったと思うんですけど。
そこからなんで今まで自分が続けてるんだろうって考えた時に、僕の根っこ――演劇とかよりももっと根っこ――に「人が楽しんでる場を作るのが好き」っていうのが多分あって。で、 思い返すと小学校の時とかも、休み時間に自分で作ったゲームをみんなで遊んでもらうみたいな。休み時間になるとみんな集まって、「自分参加してなくてもいい」「なんか楽しんでくれたらいい」みたいなのが好きだったんだよね。で、そこから発生して、今、ボードゲームを作ったりやったりするのが好きなのもそうだし。だから、みんなが楽しんでいる空間っていう意味では稽古場を楽しく、いろんな活性する場にしたいっていう、そこが好きってのもあるし。もちろん劇場の空間でお客さんと一緒に楽しい場を作り上げたいってのも多分根っこにある。
だから多分、 ダンスとか、ただ生で誰かとコミュニケーションとって面白い、も好き。あと、街歩きガイドとかも好きなのはそういう理由。
ツアーの添乗とかも好きだし、生でやるっていう意味では お笑いもそれこそそうだし、ダンスとかもよかったとは思うんだけど……多分そこでもう1つの小説を書きたかった自分っていうのがいて。なんか「 楽しむ」と「1本のストーリー軸で自分の作り上げたいものがある」っていう部分で、めっちゃ演劇なんだろうなってのは思います。
佐々木
噛みあった噛みあった。
お互いに聞いてみたかったこと
せっかくなので「こんな機会じゃないと喋らないな」ってことがあれば、相手に振ってみていただいてもいいですか。
なんでも大丈夫です。演劇関係じゃなくてもいいですし。
村田
玲奈さん、ほんとにせのびで大丈夫?
佐々木
(笑)
村田
結構、劇団四季さんとかね、大きな舞台も好きじゃない?でも僕らがやってんのって……。
しかもさ、「 日常と地続きから劇世界に」みたいなところを目指してる中で、玲奈さんは割と先に世界作って――というか、あんまお客さんとコミュニケーションは取らない方が パフォーマンスが良くなるところが多分あるから、無理なことを強いてる時もあったりするのかなと。
佐々木
うーん。劇団四季とかは好きだし、興味はあるけど……でも全然、歌とかダンスとか習ってないので。習ってたとしてもあの人たちに勝てる気はしないから、 見る専というか、見て元気をもらう側で。
せのびは、なんか、……無理することは好きなので、
村田
なるほど。でも、無理はしてるんだね(笑)
佐々木
いや、無理してるというか‥…なんだろう、 私が自分の素のままで舞台に立って、本来の自分を見せてお客さんに好印象を与えられると思ってないから。そういうのはあるのかなと思うけど(笑)
なんか、もっと根底の部分というか。せのびというか青葉さんの、なんか人の記憶を題材として、その人の記憶にこう触れていくみたいな、記憶体験、経験に触れるみたいなところは私もすごい興味があるので。単純にそこの一致で居る。
村田
なるほど。それは嬉しいですね。なんか玲奈さんはせのびの――今いるメンバーの中でもけっこう文脈が違う俳優さんかなとは思ってて。でもそれでもいて、こっちになんか新しい視座をくれるみたいなところはすごく、僕は貴重な存在だなと思ってるので。どんどん言ってほしいですね。
佐々木
なんか今回――今回というか今年から合わせるのをやめてて。去年はちゃんとそっち(せのびのスタイル)に合わせなきゃと思って合わせる努力をしてたけど、なんか「合わせなくて居づらいんだったらもう居なくていいや」と思って。今、合わせてないです(笑)
村田
いや、いいと思います。居づらくはないですか。大丈夫ですか。居づらくなったら言ってください。
いや、ほんとそう。合わせなくていいと思うのよ。だってさ、そんなの結婚とかそういう話にしてもさ、無理じゃないですか。やっぱ自分がそのままで居やすい場所だと1番ベストパフォーマンスだなとは思うから。
佐々木
「記憶を題材にしたい」みたいなのは、いつから思ったんですか?いつの間にかそうなっていた?
村田
いや、もう、自分が多分ずっとそれが好きだった。小さい頃から。それはもう多分根っこの関心の部分で、 小説書きたい理由の1つも、 自分が死んだ時に自分の記録が残らないのが――
佐々木
(即座に)わかる。
村田
はっや(笑)
そうそう、自分の記録が残んないのが……生きてたって痕跡残したいなーって。小説とか書いて出版されたら残るとか思ってたのもあるし。
あとは幼少期の体験で。友達と遊んでる時に、僕が提案したおもろい話とか、僕が見つけた新しい遊びとか集合場所とかが、 2、3日ぐらいしたらグループの権力のある子の提案ってことになってたりする……みたいな記憶の改ざんがあった時に、すごいショック受けたんだよね。
で、そういう風な体験とか、「忘れられるのはすごい嫌」ってのがあって、記憶をテーマにってはして。でもね、やってくうちに、忘れた方がいいこととか、忘れることが優しいことでもあるなとか。 記憶だ記憶だって掘り下げた結果、見えてきてるものではあるから、なんか1個関心があることってのはすごい大事なことだなと思いますね。
――さっきの「わかる」の速度速かったね(笑)
佐々木
前にもその話をしてて、すごいわかるなって思ったので、その速さです。
村田
その速さでした。すごいね。
なんか話そうとしたんだけど忘れちゃったな。……なんか「地続きなところから演技に入る」みたいなところかな。
(それをするのは)素を見せるというか「素のあなたのその反応がおもろい」みたいなところを思ってるからだと思った。
なんていうか、「お芝居やってる時にその人の魅力が出てこないのはどうしてだろう」って考えてる時があって。それは演出家の問題とかもあるんだけど、お芝居ってなった瞬間、やっぱ決まったセリフを言わなきゃいけないというか、枷が増えるじゃないですか。でも「この人、素の方がもっといいのにな」ってのがあって。
ってことは本人にその自覚があった方がいいのかなとか思って、「もっと面白いよ」とか「もっと自分が出ていいよ」っていう風には伝えてはいるものの、でも伝えるじゃなくて、それが「出る」っていう風にするのは演出家なんだよな……って思いながら悩んではいますね。
佐々木
得意だと思ってるものの違いなのかもしれないです。私、高校生の時に人に言ってもらったのが、 なんだろう、「私が見えない」。ちゃんとその役に見える、そのキャラクターに見えるっていうことを褒めてもらったのをすごい覚えてて。
多分、私はなるべく私を消すことができると思ってて、消すことができるのが長所だと思っているから多分、「消さなくていい」っていうのが難しいのかもしれない。
村田
なんかでも、玲奈さんはそう思います。「素が出る方が面白いのにな」っていうのはあくまで多分、なんて言うんだろうね――役をやった時に目減りしちゃってる人というか。
でも、玲奈さんは舞台上で役として存在してる時にちゃんといいパフォーマンスが出てるなと確かに思うから。
でも僕が勝手に……というか、せのびで面白いことやろうって言って声かけてるみなさんは、多分素がおもろくて呼んでる部分が多いのかもなって、今聞きながら思ったけど。
そういう意味でも玲奈さんがいることはいいことだし、それこそ 温斗くんだとか高橋とかも多分「役」をやるんだってなったらやれると思うし、やってる時の輝きもいいとは思うな。
なんか玲奈さんと話しながらも、自分もちゃんと色んな目線でお芝居作ったり、みんなが輝くようにしていくみたいな部分、ちょっと改めて考えないとなと思いました。
佐々木
背負っていらっしゃる(笑)
横浜でやりたいこと
最後に。横浜行ったらやりたいこと、実現可能性問わず聞いてたんですけど、何したいですか?
村田
横浜がけっこう好きなんですよね。港町が好きなのかな。しかもなんか異国情緒あるというか。神戸、長崎、函館、横浜がすごい好きで。行くと海に近づきたくなるんですけど。
……あのね、横浜は散歩に事欠かないなって思う。港の見える丘公園とか、けっこうすごい坂登るだけど、謎にそこ行くこともある。なんか夜行バスで降りてから、歩いて行って、で、降りてきて。
あ、そう、 インク屋さんがあって、万年筆の。
佐々木
へー。
村田
そこにしばらく行けてないから、行きたいかな。
佐々木
横浜は夜――夜の街っていうのはその、繁華街とかいう意味ではなく――なんか、歩きたいです。
村田
中華街とかもあるしね。
藤沢って場所があるんですけど、横浜に。(盛岡の)焼肉冷麺屋さんの大同苑でバイトしてた時に、 仲良くなったフリーターの方が辞めるって言った時に「何するんですか」って聞いたら、「古着が好きで、古着ショップを作る。藤沢に行く」って言ってて。こっそり行きたいんだよね。
佐々木
やはー、いいな!
村田
そう、こっそり会いたいんだけど、でもお店の名前もわからんし、藤沢デカすぎるからな。
玲奈ちゃんは(岩手県一関市の)藤沢町出身ですね。
佐々木
はい。横浜の藤沢から来た人が地名をつけた説があります。
村田
やっぱそうなの?!あ、そうなんだ。
佐々木
藤沢町に大籠っていうとこがあって、 川に大きな籠に乗った人たちが来たから「大籠」っていう由来らしいみたいな。神奈川からこう、籠に乗って来た人が地名つけたんじゃないかみたいな説もあります。
村田
ルーツだ。
佐々木
かも。
村田
一緒に行きますか。じゃあ。
佐々木
あ!行きたい。古着屋さんも好きなんですよ。
横浜公演、楽しんできてください。ありがとうございました!
聞き手・撮影:嵯峨瞳(片目で立体視)
編集協力:山本あかり(劇団ちゃねる)