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CHEF
皮を剥いた玉ねぎを輪切りにする。分厚すぎると火の通りが悪くなるが、分厚いほうが美味い。料理には常に選択の苦しみが付きまとう。小麦粉は水でなく冷蔵庫で見つけたビールで溶いた。こうすることでさっくりとした衣になる。隠し味は砕いたスナック菓子(チリ味)だ。これが食感にもおいても、味にもおいても、良いアクセントになるだろう。片手鍋に油のプールを作り、火にかける。プールがジャグジーに変わったら、そこへ衣をたっぷりとつけた玉ねぎを泳がせる。良い音だ。玉ねぎたちが楽しそうにぷかぷかと浮かんで、衣の色が黄色と茶色の中間になったら完成だ。さあ、食べよう。
まさかオニオンフライが食べられるとは。アル中のごろつきにも家庭的な面があったのか、もしくは
「君には料理を作ってくれるような人がいたのか?」
テーブルの向かい側へ投げた質問に答えは返ってこない。
「今日は五か所、回らなければならない。一晩で五か所。長くこの仕事をやっているが、初めてのことだ。だからいつも以上に準備をした」
それでも「冷蔵庫に玉ねぎ」のようなトラブルは起きてしまうのだ。
私の電話が鳴った。
「シェフ」
通話ボタンを押したと同時に不機嫌な声で名前を呼ばれる。いつだって彼女は不機嫌だ。
「アパート。三階。五号室。GPSが全然動いていない。またやったね」
「またとは」
「また、殺した相手のキッチン使って料理ショーでしょ」
「ショーではない」
「じゃあ、お食事中かしら?」
「先ほど食べ終わった」
ため息。彼女のため息はいつだって大きい。
「シェフ。いい加減にしないといつか死ぬよ。いいえ、いつかじゃない。今日よ。今日死ぬ」
「死にたくない。それと、君の指摘にはもう一つ間違いがある」
「なに」
「私は殺していない」
「は?」
「部屋に入った時、彼はもう死んでいた」
目の前の死体の口から涎のように血が落ちた。残念ながらオニオンフライはもうない。
つづく。
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