
こうして勇者は闇堕ちする 全編
第一部
仕事帰り。
今日もしっかり残業して会社から満員電車に乗って夜風に当たりながら俺,只野蒼佑(39)は家に帰ろうとしていた。
仕事が忙しくなる一方、課長どまりの俺のモチベーションは徐々に低下する。ただ日々を淡々と過ごす毎日。そこにやりがいや楽しさはない。そんなものはとっくの昔に捨てていた。
39歳。もう39歳っすよ。独身です。「かっこいい」とちやほやされていたのはもう10年20年も前の話で最近は社内で結婚の話になると異物混入の扱いあるいは腫物のように扱われる毎日です。
なんで生きてるんだろうね。俺は。もうわかんないや。考えることを諦めた。考えても仕方ないから。
退屈だ。うん。すごく退屈だよ。誰か俺を何処か知らない所へ連れて行ってくれないかな?そしたらすこしは楽になれるかもしれない。
そんなことを考えながら帰宅していた俺は帰り道の道中、不意に女性の悲鳴を耳にする。
「助けて!誰か!」
その声を聞きつけた俺は声のする方に足を急がせた。
すると眼にしたのは女子大生を車に連れ込もうとしているチンピラ2人の姿。
ゲーム好きの俺の頭の中には2つの選択肢が浮かんでいた。
助ける◀
助けない
めんどくさい。怖い。けど…答えは決まっている。
「勿論、助ける!」
俺は女性の上半身を抱え込んでいた1人のチンピラの男を不意打ちで殴る。
どさっ。
チンピラが倒れ、女性が落ちる。
続いて足を持っていた男の顔面にストレートをお見舞いする。
ジムのシャドーボクシングの成果がまさかこんな形ででるとは夢にも思わなかった。
「おい何だよ!てめぇ!ざけんな!」
男が立ち上がる。俺は女性を起こしてチンピラたちと女性の間に入る。
「早く!今のうちに逃げて!…早く!」
「あ、ありがとうございます!警察呼んできます!」
そういって女性は駆けだす。
「おい兄ちゃん。お前何したかわかってんのか?」
後で突き飛ばされたチンピラが言う。
「いや、わかってないです」
「ざけてんじゃねぇぞ!ヒーロー気どりしやがってよ!」
最初に突き飛ばされたチンピラがもう一人のチンピラに言う。
「兄貴、やべえっすよ。警察呼ぶって…」
「るせぇ!んなこたわかってんだよ!ああ!イライラすんな!…おい」
そういって兄貴と呼ばれるチンピラはスーツの内ポケットからピストルを取り出した。
カチャ
「これ。何かわかるよな。わかったら金出せ。それで許してやる」
「え?拳銃?ホンモノ?」
「さっきからふざけてんじゃねぇぞ!撃つぞ!」
「うん。どうぞどうぞ。撃てるものなら撃ってみ―」
バァン!
銃弾は俺の頭を貫通した。
血しぶきが上がる。
「ア…兄貴?」
「悪い…つ…つい…撃っちまった…」
サイレンの音が聞こえる。
「まずい!ずらかるぞ!乗れ!」
後には俺独りが残される。
え…?
俺死ぬの?
こんなんで?
いや、確かにおふざけ癖が出ちゃったけどさ。
それはやっぱ会社では真面目モードでずっといなきゃいけないから外ならいいよな、ちょっとくらいはめ外してもっていう気の緩みがあってしたことでさ…まさかホンモノだとは思わなくて。
え?
厭だ。
死にたくない。
まだ俺何も…何も…してないのに…
納得できない…!
厭だ…
「いや....だ…」
意識が遠のく。サイレンの音が次第に聞こえなくなる。
暗闇。
何も見えない。
静けさが漂う空間。
遠くから誰かが歩いてくる。
足音もなくゆっくりと近づいてくる。
あれ?
俺は気づく。
あれは昔の…おれだ…
高校生3年生か、大学生くらいだな…
「やぁ」
「…なんだ?なんで…俺がいる?なんだここは?」
目の前で昔の俺が立ち止まる。
「お前は誰だ?」
「う〜ん。名前は特にないんだけど…君の世界でいう人間って本当に名前好きだよね。星に名前をつけるくらいだもんね。まぁいいや。ソウルと名乗っておこう。僕はここで魂の采配をしている」
「なんで俺の、俺の昔の姿をしている?」
「采配者は中立でいなくてはならない。これは上からのいいつけなんだけど。僕がここに送られてくる人たちの昔の姿で現れることで、みんなの緊張が和らぐかなぁって」
「....ん?うん。なるほど」
「あとね、僕の年齢は君が人生の中で最も輝かしいと思っている年齢なんだよ。多分18歳くらいじゃないのかな」
「....!そうだな。あの頃が…一番良かったかもな...若いし…なんでもできるし…」
「さっ、無駄話はこの辺にして本題に入ろう。君以外にもまぁまぁたくさんの人が送られてくるからね」
「そりゃまぁ、ご苦労なこった。毎日人は死ぬわけだし人以外の魂も扱ってるんだろ?」
「まぁね。でも君は特別中の特別だよ。向こうでの記憶を保持したままディピアに向かうんだから」
「え?」
「君は選ばれたんだ。まぁ選ばれたのは本当に偶然だけどね。そして君は選ぶことができる」
「何の話をしているんだ?誰に選ばれたんだ?」
「君みたいな人間に時間を割くのはもったいないから詳しいことは省くけど」
「何か口悪いな」
「ものすごく分かりやすく言うと君は君の世界で言う神様に選ばれてディピアという世界に行くか行かないかを選ぶ権利を得た」
「ディピア?」
「そう。この無数の空間に存在する地球とはまた異なる世界。その1つがディピア。この世界の説明は聞くより見た方が早いからちょっとだけ意識を借りるね」
「え?おい、何する…」
ソウルが俺の魂に触れると、俺の意識にディピアの世界の情景が流れ込んだ。
「…」
「どうだった?面白いでしょ。この世界も。まぁ行くか行かないかは君次第だけどね」
「ディピアに行かなかったらどうなる?」
「地球の生物の何かになることになるかな。また人間になれるかもしれないし牛かもしれないし雑草かもしれない。そしてそれは僕にもわからない」
「ディピアに行った場合も同じなのか?つまり、ディピアでいう人間に生まれることは無いかもしれない…」
「いや、君は人間として生まれるね。それは確定している。さっき見たでしょ?あそこでみた人間は君たち地球で見た人間と構造上はそんなに変わらないよ。君は選ばれたんだ。ディピアに行くなら君は人間として生まれる。ディピアに行かないなら君は地球を輪廻する。さぁ、どうする?」
行く◀
行かない
「…俺はずっと退屈だったんだ。自分の人生面白くないなってずっと思ってた…こんなチャンス逃すわけにはいかない。ディピアに行くよ」
「ふふっ。やっぱ人間は面白いね。自分さえよければそれでいいんだから」
「…え?」
「いいね!よし決定だ。それじゃあ夢の旅へ!いってらっしゃーい」
突如風が吹き、俺の魂が引っ張られる。
「え、おいちょっと待てよ…!うわあああああああ」
引っ張られる中でどこからか声が聞こえた。
「そういえば、向こうに着いたら新しい名前を考えるといいよ。君は新しく生まれ変わるんだ」
意識が遠のいてゆく…
[能力『二者択一』を獲得した!]
二者択一:今後の命運にかかわる場面で脳内に提示される二つの行動から必ずどちらかを選ばなくてはならない。この際選ばないという選択はできない。
[二者択一:リュース・キェルケゴール]
『おい、こいつは――』
『――――けど間違いない。こいつは――――ん?』
『おい、もうすぐ日が昇るぞ、早く向かわ――――』
『殺す―?』
『そ―――き―る―――は―――ない』
『そうだな――』
「…ん?」
俺は眼を覚ます。
朝だ。
気付けば草原で寝ていた。
「えっ!俺全裸じゃん!」
すぐに気付く。
「....あれ?声が....若い?」
雨が降ったのか近くに水たまりがある。
水面を覗くとそこにはさっき見たソウルと名乗る青年の姿、つまり18歳の自分が映っていた。
「え?やった....若返ってる!」
傍に何か置いてある。
2つの布袋。
服....それと…金貨か?これは?
誰かがここに来たということになる。裸で寝ている青年に慈悲の心でも湧いたのだろうか。
「…」
まぁ考えても仕方ないか。
ここはありがたく受け取っておこう。
俺は服を着た。
うん。サイズもまくれば大体OKだ。
それにしても…
「すげ~。ゲームみたいな世界だ。ソウルってやつに見せてはもらったがやっぱここは異世界なんだよな…ってかこっちの世界にも太陽はあるんだな…言語とか大丈夫なのかな…?」
少し遠くに街が見える。
「この世界を知るためにもとりあえず向かってみるか」
俺は街に向かって歩いた。
門の前に守衛が2人。
....入れてもらえるだろうか?
それなりに人の出入りが見られるが、入国検査を受けているのは馬車に乗っている人だけで、そうでない者は検査を受けていない。よし、堂々と門を通ろう。
「おい」
一人の守衛に呼ばれる。確実に今「おい」と言われた。(いや、厳密には「おい」と言われていないのだけど)ひとまず言葉の問題は無さそうだ。
まさか自分のことでは無いだろうと思い、しぶしぶ守衛の顔を見ると果たして守衛はこちらを見ていた。
「見ない顔だな。名前は?」
「え、ええと…」
ソウルの言葉を思い出す。
『そういえば、向こうに着いたら新しい名前を考えるといいよーー』
新しい名前か…やっぱ異世界の住人っぽい名前がいいよな…本名出して変に怪しまれても困るしな…
蒼佑→ソース→リソース→リュース
ラストネームは最近読んだ本の著者の名を借りよう。
うん。これで多分大丈夫だろう。
「リュ、リュース・キェルケゴールです」
「ふん…ここに来た目的は?」
いけた。
後は無難に…
「その…冒険の為の準備をしたくて…見ての通り装備を敵に取られてしまい…」
「…ぷっ」
守衛が吹き出した。反対側の守衛に話しかける。
「…はーはっは!おい聞いたか?こいつ敵地に武器を置いてきちまったって!こんなやつ会ったことねぇ、見たこともねぇよ…いいぜ、入りな。ここには武器もたくさん売ってる。まぁ盗まれるようじゃ武器を買っても仕方ないだろうがなww」
守衛はまた大笑いする。
そのすきに俺は街の中に入った。
笑いものにはされたが、街に入れたことを思えばなんてことはない。
…でもやっぱなんか悔しいかも。
門をくぐるとそこには、ファンタジーな異世界が広がっていた。
まるでヨーロッパの城下町を彷彿とさせるかのような景色。
「すげえ....」
気づけば声に出して感嘆していた。
すると突然どこからか声が聞こえた。
「誰か~!そのいねぬこつかまえて~!」
「いねぬこ…?はっ…!」
声のする方に目を向けるとこちらに何かが向かって来るのが見えた。
「あれは…犬?いや…猫?どっち?( ,,`・ω・´)ンンン」
と、とにかく捕まえなくては。
「任せとけ!こういうのには自信がなくもないから…」
両手で猫みたいな犬を捕まえようとするとそいつは軽々とジャンプしてよけた。が、その先には俺の顔。
「ばみゃあ!」
顔に当たられ少しひるんだが俺はそれでも屈さず、
「そりゃあ!」
ついに犬みたいな猫を両手に収めることに成功した。
「痛って....なんか顔がヒリヒリするよぉ....!」
そのヒリヒリしている気がする顔を猫みたいな犬が舐めてくれる。
「あははっ!くすぐったいって!」
捕まえた後、赤髪のショートカットの女の子がこちらに向かってきた。
「あの、ありがとうございます…!」
え。やば可愛い。
「あぁ…いえいえ。お~よしよし。さぁどうぞ」
俺は犬みたいな猫をなでた後に彼女に渡した。
渡した後で考える。
まずいまずい、女子と話すの久しぶりだぁ!え?どんな会話をしたらいいんだろう?この世界の最近の若者には何が流行っているんだろう?(;^ω^)てゆうか目の前の子かわいい~。
「えっと…あなたは…何者なんでしょうか?」
あ。まずい。つい口が滑ってなんか変なことを言ってしまった!何者とか人聞き悪かったか…⁉
「え…ええと、私はエレア所属のセナ・アルベールと言います」
「セナ…いい名前…あっすいません…つい…ええと、自分の名前はリュース、リュース・キェルケゴールと言います」
「リュースさん。いねぬこを捕まえてくれてありがとうございました」
今更だけど「いねぬこ」っていうのかこいつ…いや何それ。
「…?」
「あぁ!いえいえ。ジムにも通っていましたので運動には自信があるんですよ」
「ジム?」
「あぁ!こっちの話です」
「冒険者さんですか?」
「あ、ええと…いやまだ一度も冒険したことなくて…これからどうしたものかと…実はこの世界についてまだよく知らなくて…」
「…」
「ああ!いや、変ですよね。すいません…それじゃあまたどこかで…!」
そういって俺は立ち去ろうとした。喋れば喋るほど怪しまれる気がする…
「あの!」
後ろから呼び止められる。
そんな可愛い子に呼び止められる人生なんてこの後あと何回あるんだろうと一瞬思って振り返る。
「あの、良かったらうちのチームに入りませんか?その…クエストを助けていただいたお礼をしたいし…それにまだ冒険したことがないならまずはうちのチームで学ぶのもありかなって....それに私なら魔法や剣術も多少は教えられるので」
行く◀
行かない
勿論即答。
「行きます」
かくして俺はエレアというチームに参入することとなった。
さっきは久方ぶりの女子との会話に戸惑ってしまい重要なことを聞くのを忘れてしまったが、セナに聞いたところチームとは共にダンジョンを攻略したり素材集めをしたりする仲間たちを指すのだという。
俺はゲームではいつもソロで探索をしていたが、まさかこうして現実の世界で、しかも可愛いヒロイン系女子と一緒に探索できる日が来るとは夢にも思わなかった。
そんなヒロイン系女子セナを隣にチームの拠点であるという酒場に向かう。
道中尋ねる。
「エレアだったよね?チームには何人くらいいるの?」
敢えて、敬語を省いて質問してみる。
「え?ああ…うん。大体30から40人くらいかな?今は」
うん、多分あんま気にしてない。敬語で聞いたら敬語で返すタイプの言語なのかな?
というかそもそも考えてみれば敬語という考え方自体がこの世界に無いのかもしれないと思い、面倒なので俺は今後敬語を使わないようにしようという謎の誓いを今立てた。
全ては女子とため口で話すという人生で二度とは訪れない機会を逃さないために。
「あぁ、そんなにいるんだ…四、五人とかのイメージだったわ」
「あぁ…それはチームじゃなくてパーティーだね。うちにもあるよ。最近はチームの中でパーティーをつくって活動するのが主流なんだよ。その方が何かとリスクは下がるからね。基本はそのパーティーで活動するんだよ」
「なるほど…勉強になります…テストに出ますかね?これ?」
「テスト?…適性試験のこと?」
「え?何それ?聞いたの就活以来なんですが…」
「まぁまた後で話すね。丁度着いたよここがうち、エレアが拠点とする酒場だよ。入って入って」
「あ!あの…その前に!」
「…?」
「セナって呼んでも…いいですか?」
俺がそう聞くと目の前の赤髪の少女は微笑んだ。
「いいですよ」
やはり敬語には敬語で返すシステムなのだろうか…
酒場に入るとたくさんの人と…獣みたいな人で賑わっていた。
「リュース、こっち来て。団長に挨拶しないと」
「ああ…うん」
そういってセナは一つのテーブルに向かった。
「団長!」
「団長」と呼ばれる人物は見た目は完全に狼のような獣の姿だったがまるで人間のようにジョッキで酒を飲んでいた。
「んあ…?おお、セナか。どうした?今日は特になにも…?誰だそいつ?」
団長のテーブルにいる全員がこちらを見る。
「この人はね。私のクエストの手伝いをしてくれた人なんだけど冒険も戦い方も知らないって言うからここで教えてあげようと思って。私のパーティーに入れて私が教えるから!いいよね?」
「あぁ…?なんだそれは…」
「おい、またセナのお世話さんが出たぞ!」
団長の向かい側に座っていたこれまた狼の姿をした人が言う。
団長は考えてているのか眠たいのかよくわからないようすで少しの間沈黙していたが
「まぁお前のことだ。きっとそいつがいるとうまくいくんだろう。許可してもいい」
「やった!」
「ただし」
団長は付け加える。
「他のメンバーには迷惑をかけるなよ。迷惑をかけていいのはセナとお前らのパーティーメンバーだけだ。わかったな。お前もだ。ええと…おい、こいつの名前は?」
俺はすぐに答える。
「リュース」
「リュース。わかったな?」
俺は頷く。
「やった!よかったね!じゃあ私のパーティーメンバーを紹介するから来て」
そう言われて俺はまた違うテーブルに行った。そこには既に3人が座っていた。
「みんな!」
セナはそう言って3人の注目を集めた。
「今日から入る新しいメンバー、リュースだよ。はい拍手~」
「…」
「…」
「👏」
…!ひとり拍手してくれてるぅ!ありがとぉぉ!
「おい、セナ!なんで勝手に入ることになってるんだよ?」
手で握った感じのおにぎりみたいな顔をしている坊主頭の人が言う。
「だからこうしてみんなに紹介をしているんだよ」
「…ココココギトの言う通りですよ。ななな仲間が増えるのはいいかもしれませんが…しっっっ死んだらどうするんですか!っかっかっ悲しいじゃないですか!」
なんかすごい不吉な想像してくれるじゃん。俺そんな弱そう?弱いけど。
「私は歓迎するぞ。囮が一人増えるのだからな」
拍手した動機それ⁉え?ひどすぎないこの人?俺が囮役になること前提で話進めてる?
「とにかく!ちゃんとあたしが面倒見るから多分大丈夫!」
多分…?
「この子の名前はリュース」
この子…?
「リュースです。よろしく…」
「じゃあ改めて、リュースにうちのメンバーを紹介するね。このおにぎりみたいな頭の子がコギト」
手前に座って酒を飲んでいた人から紹介された。
というかセナさんもそう思ってたんスか…これは話のネタにとっておこう。
「まぁ、セナが連れてきたってことは何か狙いがあるんだろうけどよ…はぁ。まぁいい。とりあえずよろしくな。リュース。コギトだ。この辺じゃ俺はおにぎり頭のコギトとして名をはせているんだぜ」
あ、おにぎり頭ってこの世界では褒め言葉なんだ…いや何それ。
「それでその奥に座る女の子がファルシナ」
「よろしく。囮としての活躍に期待していますわ」
うわ。無意識にとげを蒔いていくスタイル。
「それで最後のこの子がイリウス」
向かいにすわっている一人を指してセナは言った。
「よよよ…よろしく…おねがいいいします…」
「よろしく」
「この子いつもこんな感じだから。気にしないでね。それじゃあ席に座って…改めて、新メンバー、リュースの加入を祝して、乾杯~!」
うわ。セナって元気だね。飲み会で音頭をとるタイプの人?幹事まで務めちゃうタイプの人?
かくして俺はあっけなくエレアに参入し、セナのパーティーに入れてもらうことになった。
その日から俺はセナやコギトに稽古を付けてもらうことにした。
稽古をつけてもらう場所はエレア専用の訓練場。とはいってものどかな風景が広がっているだけで、公園と言えば公園にも見えるそんな場所だ。
少し遠くでは子供たちが木刀で剣術の練習をしている。すげぇ。
俺は最初の稽古でセナに尋ねた。
「セナ。まず、この世界について教えてほしいんだが…あの…ま…魔法とかって…使えたりするんスかね?」
「使えるよ」
「まじすか」
「うん。大抵の人は魔法属性って言って生まれた瞬間から得意な魔法のタイプが決まっているの。種類は大きく分けて6つ。火・水・風・土・光・闇ね。今では氷や雷を得意とする人もいるけどそれは水の派生や光の派生なの。因みに私は光と水魔法が得意だよ」
「なるほど。二つとか複数の場合もあるのか。ところで、あの~俺にはどの魔法が向いているかっていうのは…?」
「そのために適性診断をするのよ」
「あ、この前セナが言ってたやつか」
「いや、この前言ったのは適性試験。王の騎士やチームの団長、リーダーになる時に大抵必要となる王国が執り行う試験の事。勿論、何になるかによって試験の難易度は大幅に異なるけど」
「ああそうなのか。で、適性診断っていうのはどういう…」
セナの手が俺の額に当てられる。
え…やばい…温もりを感じる…いやキモいのはわかってる。わかってるけど…もう、死んでも悔いはありません。
「私なら、こうして手を当てるだけでわかるの…」
「…」
「…あれ?おかしいな…う~ん…」
「ど…どうしたの?」
「うん。ちょっと言いづらいんだけど…」
「はい」
「リュースは属性が無いみたい…」
「( ゚Д゚)」
「いや、そのまさかとは思ったけど…いやもしかしたら間違いかもしれないし…」
「セナ」
「?」
「大丈夫。問題ない(´•̥ ω •̥` )b」
「(絶対大丈夫じゃないよね。何か眼から水流れてきてるし…)」
「て、てことはさ。俺、魔法が使えないってこと?」
「いや、そんなことは無いよ。初級魔法くらいなら練習すれば属性関係なしに誰でも使えるようになるから。ただ…」
「ただ…?」
「なぜかは分からないけど、リュースはマナの総量が極端に少ないから…ここまでにマナを使った覚えはある?」
俺は首を振る。
「じゃあ、魔法を使って戦うのは不向きかもしれない…」
「( ゚Д゚)」
「で…でも!安心して。魔法が苦手な人は大体剣術の方が得意な人が多いし、魔法だって練習すればマナの総量が増えることもある(幼少期の場合)。だから…多分大丈夫!」
「…」
「…」
「…そっか~。(´▽`*)多分大丈夫なのか~。それなら、今日から稽古お願いしますっ!」
こうして俺とセナの魔法稽古が始まった。
最初の1週間はセナとコギトの交代制でそれぞれセナには魔法、コギトには剣術をみっちり教えてもらう。自分が稽古している間、他の三人は「簡単なクエスト」をこなしているらしい。
クエストにはランクがあってSランクからEランクまである。彼らの言う「簡単なクエスト」とはBランクのことでどうやら自分はかなりレベルの高いパーティーに入ってしまったようだ。明日はコギトに剣術を教わる。
……怖い。
「何だ⁉そのへっぴり腰は!?」
「やっぱ怖いって!」
迎えた今日。いきなり最初からコギトとの一対一。木刀での立ち合い。当然俺はボコボコにやられる。
倒れこんだ俺に向かってコギトが言う。
「この前はセナがいたし、酔ってたからあんま言わなかったけどよぉ…俺はお前がパーティーに入ること認めてねぇからな!」
「…なんで?」
「決まってるだろ⁉今のままだと足手まといになるからだよ!」
「ぉおん…(否定できない)」
「お前、魔法もろくに使えねぇらしいじゃねぇか。お前、今まで何してたんだ?」
「…多分、言っても信じてもらえないと思う…」
「あぁ?」
「なぁコギト…」
「気休く名前で呼ぶな!」
「じゃあなんて呼んだらいい?」
「ふっ…おにぎり頭のコギトさんと呼べ」
「ごめん、無理」
「あぁ!?」
「…属性をもって生まれない人はこの世界にどのくらいいるんだ?」
「魔法属性のことか?…まぁまずありえねぇけどな…俺もそんな奴見た事がない…お前を除いての話だがな」
「そうか…それが何よりの証拠だ。俺はこの世界とは違う世界から来た。それも昨日かそれより前の日に」
「何?」
俺はコギトにこの世界に来てから今に至るまでの経緯を話した。
「…よくわかんねぇけど。とにかくお前はそのちきゅうってところで死んで、そうるって奴と会ってそれでこの世界に来たわけなんだな?」
「うん」
「そうか…そりゃまぁ…不安だよな…こんな何も知らない場所で…一人でよ…」
「え?信じてくれるのか…?」
え?何?コギトくん気難しい人だと思ってたけど実は優しい系男子なのでは?
「いや、そりゃあ全部はとても信じきれないけどよ…お前が嘘をついているようには見えねぇからよ…それにそれなら属性が無いってのも納得がいく」
理解力あるぅ~。
「この話を誰かにしたことは?」
「いや、コギトがはじめて」
「あまりむやみに人に話さない方がいい。セナにも言っておいたが、お前が魔法属性を持っていないことも。最低パーティーのメンバーで留めておけ。珍しいのは必ずしも良いことではないからな」
「…」
「休憩は終わりだ。立て。今日は夜までお前に剣の基礎を叩き込んでやる」
…え?
「おらぁおらぁ!また腰が引いてるぞ!」
前言撤回。彼は優しい系男子ではありません。
「昨日はお疲れ様」
「しぇナ様~(´▽`*)」
「様?てゆうか顔大丈夫?すごいたんこぶで来てるけど」
「いや~コギトのやつひどいんですよ~倒れても『おい!立て!』っていって木刀で殴ってくるんですよ~全然優しくなくて…」
「とりあえず回復魔法かけるよ」
セナの手が俺の顔の前にかざされる。
「ヒーリング」
「おぉ…しゅげぇ…」
たんこぶが収まり痛みが引いていく。
「やっぱ魔法って便利だな~」
その後セナの魔法稽古を受けているうちに気になったことがあったので聞いてみた。
「何でセナは俺のその…過去のことを聞かないんだ?」
「え?…う~ん。人の過去にあまり興味がないし…それに…」
「それに?」
「私は過ぎてしまった過去よりこれからの未来を大切にしたい」
「…かっけぇ」
「いやいや…そんなことないよ」
その謙遜も素敵です。
「うん。これで闇魔法の初級魔法は全部。あとは今まで教えた魔法を練習して自分にあった魔法を見つけて」
「わかった。色々とありがとう…パーティーで足を引っ張らないよう自主練頑張るよ」
「無理はしないでね…別に戦力のカバーならいくらでもできるから」
「いや、いいんだ。ずっと頑張る理由がほしかったから」
「…?」
「けど、さっき聞いた時に思ったんだけど…なんでセナは俺にここまでしてくれるんだ?」
「え…?」
「いや、確かにクエストのための一助となったとはいえ、ここまで恩を返していただけると何か不思議だなと思っただけで…」
「…」
「…」
「ごめん。今はまだ言えない…」
「…?あ、ごめん何か聞いちゃいけないことを聞いちゃったかな?」
「いや、大丈夫大丈夫。自主練頑張って」
そう言ってセナが走り去る。
「セナ!」
聞いてはいけないことだったのだろうか?いや、別に質問自体はそこまでおかしくはないはず。自主練頑張ってとも言われたし、気を取り直して自主練に励むとしよう。
当たり前のように手から火とか水がでるこの世界はいったいどうなっているのだろう?今の俺は地球にいた時の18歳の姿ではあるもののそれは見た目だけで、きっと細胞だとかその辺の身体の構造はこちらの世界に準じたものになっているのだろう。そうでなければこの現象はあり得ない。
マナという体内エネルギーとはまた別のエネルギーストックを使用することにより魔法を使用できる。
マナは時間経過で回復する。
「バブル」
特にこの水魔法はすばらしい。どんなときでも水分を取ることができる。でも、この水はきれいなのだろうか…?
「まぁとりあえずはこの攻撃力のある火魔法ファイアと他よりもマナ効率が少し高かった闇魔法シャドを練習しますか」
ファイアは火の玉を放つ魔法。
シャドは闇の玉を放ち相手を数秒盲目にする魔法。
セナにはいろいろと教えてもらったがひとまずこの2つの魔法を使いこなせるようになろう。他の魔法はまた後で使いこなせるようになればいい。
魔法の練習が終わった後、俺は剣の練習も欠かさずにする。
身体を動かすことは向こうの世界で死ぬまでも好きだったことだし、こう見えて運動もできる方だ。学生のころはバスケで常にレギュラーを獲得していた。
それに。
努力するのは嫌いではない。勿論、努力したからといって結果が出る訳ではない。そんなことは言われずとも分かっている。でもそれでもよかった。バスケしている時もそうだったけど俺は結果じゃなくて、練習の過程が大好きだったんだよなぁ....
剣の素振りをしているうちに色々なことを思い出していた。
そんな簡単なことを長年忘れていた。社会人になってからというもの学生のバスケの醍醐味のことなど考える機会もなかった。
大丈夫。俺の試合はまだ終わっていない。何も諦めてません。
この世界でまた俺は新たな試合を始めるんだ。
翌日
「何だ⁉そのへっぴり腰は!?」
「やっぱ怖いって!」
今日はコギトだけでなく、セナも見に来ていた。昨日の事について一応
「大丈夫?」
と声をかけると
「うん。大丈夫だよ」
と笑顔で返されたので少しほっとする。
「お前、前より動きが良くなってるな」
木刀をうちながら答える。
「まぁ、早くみんなに…追いつかなくちゃ…いけないからな!」
「でもまだまだだ。身体の芯がぶれている」
腹に剣を当てられふっとばされる。
「ごふっ…あぁ!」
コギトは強い。聞けば戦闘では剣ではなく斧か金棒を使うのだという。なのにこの強さ。
「もう一回…」
再び何度も打ち合う。
何度もぼこぼこにされる。
セナが来る。優しいセナだから慰めの言葉をいただけるのだろうか?
「ヒーリング」
傷と疲れが取れていく。
「…ありがとう」
「今日は私がいるから何度でも戦えるね」
…え?
「よかったじゃねぇか」
「頑張れ!(^^)!リュース!」
「うん(;^ω^)頑張る…」
優しさは時に心をも滅ぼす。
木刀を打ち合いながらコギトが小声で言う。
「なんでお前がセナに気に入られたのかは全くわからねぇが…邪魔をするなよ…セナは俺が幸せにする」
「は…?何言ってんだよ…」
「もう何年もセナと一緒のパーティーにいるんだ。少なくともお前よりはセナの事をわかっているつもりだ…一応…だ。一応念のために聞いておくが…お前、セナのこと好きじゃないよな」
「好きだけど」
「即答かよ…ふ…ふつうそこは『べ、別に好きじゃねーよ』とか言うとこだろ!」
「うるせぇよ!いいか⁉コギト!39まで一人も彼女ができなかったら!それはもうおしめぇなんだよっ!」
「39?何の数字だよ!あと、怒りに支配されるな。コントロールできないようじゃ命取りになる」
「そんな人間に優しくしてくれたらさぁ...!それはもうさぁ...!好きになっちゃうだろ…」
「はい、隙あり~」
「痛っ!」
「と…とにかく…セナは俺が守る。お前はせいぜい囮役として頑張るんだな。今日の稽古は終わりだ。次までに体幹を鍛えておけ。軸がブレブレだ」
「…わかった。ありがとう…」
あぁ…俺は寝転ぶ。セナが俺の顔を覗いてきた。
「おぉふ、セナ!まだいたのか」
「うん。ずっといたよ。はい、これ使って」
セナがタオルを渡してくれる。
なぜか部活のマネージャーを思い出す。
「あ…ありがとう( ´Д`)=3 フゥ」
「剣術の方はどう?」
「うん。剣術は魔法と違っていい感じだよ。コギトの教え方が(多分)上手いおかげかな」
「そっか…よかった…」
「…なんか悪いな、俺がいることで他のみんなに迷惑かけて」
「そんな、迷惑じゃないよ!コギトはリュースが入るとき、ああは言ってたけどそれでもちゃんと面倒見てくれているし、ファルシナはメンバーが増えることに賛成してくれているし…」
「イリウスは?」
「あぁ…イリウスは『3人で活動したら致死率が上がるんですよどうするんですかぁ⁉』って言ってたけど…多分大丈夫!(`・ω・´)」
「そっか~。(´▽`*)多分大丈夫なのか~。なら安心だな」
「来週の始めにCランクの地下迷宮探索クエストがあるの。それにリュースも一緒に参加してもらおうと思っていて」
「え⁉いきなりCランク!?大丈夫?」
「うん。リュースからしてみればランクは高いけど今回はエレア全体で参加するし、地下一階までしか探索しないから魔物の戦闘力もかなり弱いはず」
「なるほど。それなら大丈夫そう…」
「魔法の方はどう?」
「うん。ファイアとシャドを今のところ練習してる」
「いいね」
「でも…なかなか連射できなくて…」
「リュースはマナが少ないからね…しばらくは仕方ないよ…あ、でもマナの少ない人でもできることがあるよ。ちょっと待ってて!」
セナはそう言うとどこかに行き、どこからか剣を持ってきた。
「こうやって剣に手を当てて…『ファイア』」
「うおぉ…すげぇ」
剣が火をまとっている。
「こういう特殊な剣だと魔法効果を付与することもできるの。『バブル』」
火が消える。
「はい、これプレゼント」
「えっ…!いいんですか!特殊な剣なのでは?」
「いいのいいの。街にたくさん出回ってるから安く買えるし」
「あぁ…そっか。ではありがたくいただきます…」
「うん」
「あっ、そういえばコギトに体幹を鍛えろって言われたんだけど…なんかいい方法ある?」
「体幹か…それならヨーガがいいんじゃないかな」
「ヨーガ?(ヨガのことかな)」
「ちょうど今日、ヨーガ会の日だから行ってみるといいよ。ほら。さっきこれ道端でもらったの」
セナからチラシを渡される。
「ふむ…行ってみますか」
全ては己の強さのために…!
うん。おばあちゃんが多い。
若い子あんまりいないなぁ~。
なんとなく想像はついたけど。多分ここが初級クラスだから、きっと若い子は中級かそれ以上にたくさんいるのだろう。
それでも既に何回も行われているのか他のおばばたちはたいへん打ち解けている様子だった。
「はい、それでは始めますね~」
先生みたいな人が呼びかける。
「まずは木のポーズから~」
うお。もうこれでさえまずい…
やばい前のおばばたちめっちゃきれい…俺なんかずっとくねんくねんしとる…
「はい、そこの方~身体の軸を意識して~」
先生が来る。
「背筋を伸ばして顎を少しだけ引いてまっすぐ前を向く~」
「それができたら呼吸を整えて~ゆっくり、ゆっくり~」
なるほど。身体の軸。確かにこれは剣術に使える、というか前提な気もしてきた。
その後いくつか簡単なポーズを取った後、適度な柔軟を行ってこの会は終了した。
身体がカチカチだった俺はかなり苦労したが、これから毎日今日のことを繰り返せばすこしずつ柔らかくなっていくだろう。
剣術、魔法、ヨーガ。この鍛錬を毎日欠かさず行う。努力は嫌いではない。
1週間が経ち、ついに今日は初クエストの日である。
「よーし、行くぞぉ、お前ら」
団長が言う。
「おぉー!」
かくしてエレアは迷宮探索クエストへと出発する。
「おい、本当に大丈夫なのかよセナ。こいつを連れてきて」
「何度も話し合ったでしょ。この一週間でリュースがそこそこ成長したことはあなたが一番わかってるでしょ」
そこそこ…?
「まぁ…確かにそこそこ成長はしたけどよ」
そこそこなんだ…
「ぼぼぼぼぼくは構いませんけどね…ききき今日はかかか簡単なくくクエストですから…」
イリウスが言う。
「私はいつでも囮が増えるのは大歓迎ですわ~」
そうですか。やっぱ囮役前提なんですね。
移動にはゴドラと呼ばれる恐竜みたいな動物に乗って移動する。
1匹に2人乗ることができて何と俺はセナたんと今一緒に乗っている。
…素晴らしい。ほんとにここまでしてくれるなんてこの人は天使なんでしょうか。
いい匂いがする。揺れる赤髪に見とれてしまう。けどコギトの視線を感じなくもないので見たい気持ちを抑えてたまに眼を逸らす。
時間のはかなさについてもの思いにふけろうとしていたその時、エレアの一行は迷宮に到着した。
「じゃあここからは作戦の通りだ。はぐれた場合はその魔石でパーティーのリーダーに知らせること。パーティーのリーダーは俺までそれを知らせること」
団長が言う。
団長の言う魔石とは仲間の安否を知らせるための道具で受信用と発信用の二種類の魔石がありリーダーには団長との通信用そして受信用、リーダー出ない者にはリーダーとの通信用の魔石を持っている。
外部からの発信を受けた受信用の魔石は受信があった方向に光を放つ。
本当は携帯電話や無線があると便利なのだが、流石にこの世界にそれは無いらしい。
「では、作戦開始」
「了解!」
迷宮に入る。
作戦と言うのはざっくり言うと迷宮で陣形を保ったまま探索を進める計らいだ。なのでやはりここでも基本パーティーで行動することになる。のだが…
「ここここ怖いですよ。しししし死にますよ。いいいい今すぐかかか帰りましょう」
「イリウスちょっと黙って」
「はい…」
うぉ、セナさんこえぇ~
Bランクのクエストを軽々こなすほどだからきっとイリウスもそれなりに強いのだろうが…
まぁ…あれかな。弱いと見せかけて実はめちゃくちゃ強いパターンなのかもしれないな。
その後30分ほどパーティーで進む。エレアの人たちも見える距離にいてそれほど遠くにはいない。道中、何回か敵に出くわしたが難なく撃破(瀕死状態の敵を一体倒すことができました)
「その調子でお願いね」
はい。セナ様。
よし、じゃあ進みますか…!
『転移』
突如あたりが光る…!
「うぉ!なんだ⁉」
「近くにトランがいるぞ!」
遠くから団員の声がしたーーー
「あれ?」
周りを魔石で照らす。魔石はライトにもなる。
「みんな?…え?」
誰もいない。
これはひょっとすると…かなりまずい展開なのでは…?
今日私は生きて帰れるのでしょうか。
「誰かぁ~?誰かぁ~?」
叫ぶが返事は返ってこない。
魔石の発信は既にしている。ここは何もせず待つのが得策だろう。下手に動いて敵に見つかってはおしまいだ。仮にここが地下1階で無かった場合、敵との遭遇は死を意味する。
「よし、ここで待つか。
( ゚Д゚)」
目の前にスライムがいる。
うん。多分こいつの名前はスライム。
丁度角を曲がってきた。
剣を抜く。構える。
「来いよ…」
「…」
( ゚Д゚)
逃げた。
「おい、待て!」
追いかけるか…⁉いや、でも…
いや、スライムくらいは一人で倒せるようになりたい…!
何回か角を曲がり、ついにスライムを追い詰める。行き止まりだ。
「よ~し、もう逃げられないぞ…」
剣で一刺し…あれ?
ダメージは与えているが、ぷにゅんとしているからか軽減されてしまった。
仕方ない。
『ファイア』
剣に火をまとわせる。
「これで…斬る!」
スライムが焼ける!やった!
スライムはもう瀕死状態だ。
…ん?
スライムが足元にすり寄ってきた。
なんだ?
殺す◀
見逃す
まぁいい。初めて一人で倒した記念にスライム討伐させていただきま~す。
バシュ!
剣でとどめをさす。
スライムがはじけた。
[能力『簒奪者』を獲得した!]
簒奪者:スキル/能力保持者の殺害および降伏によって、当能力保持者は対象者のスキル/能力を獲得することができる。尚、当能力保持者が殺害された場合、保持者が所有していた全てのスキル/能力は殺害した者に引き継がれる。
…え、何?
さんだつしゃ…?
そういえば俺、ここに来た時…二者択一ってのを得た気がするな…
「フガガガ…」
「え?」
後ろを向く…
「……うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
何かめちゃくちゃ強そうな魔物がいるぅ!頭に角が生えていて凶暴な山羊みたいな、んで金棒を持って、二足歩行してます。
金棒を振りかざす。
当たれば即死。
落ち着け…奴の身長はかなり高い。そして今、やつは野球ボールを打つかのように横に金棒をスイングしようとしている。
…来る!
しゃが見込んで前に転がる…行けた!
背後に回り込んで…攻撃…!
「硬って!」
剣の火が消える。
まずい...!
逃げます。
「うわぁぁ!やっぱ助けてぇ!勝てるって思っちゃったじゃん!思いますよそれはぁ!」
角を何度も曲がる。
やばいもう追いつかれる…!死!
「おらぁ!」
背後からから鈍い音がした。
「…え?」
「情けねぇ悲鳴がしたから誰かと思って来てみたらよぉ…お前か」
「コギトさぁ~ん!」
すげぇ、あの強そうな怪物をワンパンで…頭が急所なのは魔物も変わらないのか…
「今ならおにぎり頭のコギトと呼んでもいいぜ」
「いや、それはいいです」
「なんでだよ⁉」
「いや~助かった。それでここはどこなんだ?」
「まず地下1階ではねぇな」
「やっぱそうなのか。いやぁスライムがでたからちょっとは期待したんだが…」
「スライム?何かの見間違いだろ…」
「いや、さっきの怪物が来る前この手で初めてスライムを倒したんだぜ」
「馬鹿も休み休み言え、こんなとこまでスライムは来ねぇよ。そんな知能、やつらにはねぇからな」
「…?」
「さっきのテレポートはトランスと呼ばれる魔物の仕業だ。奴は自分の死と引き換えに他の奴を決められた場所に転移させることができる。厄介な魔物だぜ」
「どうやって合流すればいい…?」
「大丈夫だ。うちのチームはそんなに雑魚じゃねぇ。これを見ろ。転移の巻物だ」
「おぉー」
「これを使えばすでにマークしてあるセナのもとまで行くことができる」
「なんで俺にはそれが渡されてないんだ?」
「…」
「…」
「…ほら、まぁ、あれだ。お前はまだ来たばかりで教えることが色々あってだな。セナも忙しかったんだろよ…まさかセナが忘れたわけではないとおもうがな」
「そっか(;^ω^)」
「じゃあ行くぞ。掴まれ」
当たりが光に包まれる…!
「リュース!コギト!」
「セナ様~(´▽`*)」
「どうやら俺たちが最後らしいな」
「当然ですわ。合流が最優先ですもの」
ファルシナが言う。
「ちっ…リュースの野郎が道草くってたんだよ…」
「はははは…早く出ましょうよ…ここここんな所」
「魔石の指示は青色。出口に向かいつつ調査を進める。ファルシナ、地図への転記をお願いね」
ファルシナが頷く。
「ここは地下何階だ?」
コギトが尋ねる。
「これまでに出くわした魔物の強さからいって、おそらく地下2階ね」
「そいつは運がいい。俺たちは多分だが地下6階まで飛ばされたぞ」
「6階まで?」
「多分な…あぁ、でもこいつがスライムがいたとかいってたしな…まぁいい。その話はあとにしよう」
道中何度か魔物に出くわす。
俺とコギトが前衛。イリウスとセナが近~中距離で魔法サポート、必要があればファルシナが弓で遠距離攻撃をする。
初めての魔物に最初はビビったが、この階の魔物は動きが単純で読みやすい。だから俺でも難なく…倒せる!
いや~これは楽しいかもしれない…異世界悪くないかもなぁ…
間もなく上への階段が見つかる。
道案内をしているのはイリウスだ。彼は風属性だからか、風の流れを頼りに階段を探し当てることができる。やっぱ優秀じゃん。
次第にエレアに属する他のパーティーとも合流する。
その後地下迷宮から脱出することに成功した。
「おぉ、セナ。お前らのパーティーも無事だったか」
「団長!他のパーティーは?」
セナが尋ねる。
「まだ1つだけ帰ってきてないが、魔石での連絡は取れている。多分大丈夫だ」
しばらくするとそのパーティーが帰って来た…
パーティーのリーダーが団長に告げる。
「すみません…団長…一人…やられました…」
「…!」
周囲に緊張が走る。
「...地下4階にて我々と同じ言語を話す魔物と接触し、その後何度も討伐を試みましたが、その魔物には驚異的な再生能力があり…周囲に爆発物をまき散らす武器を所持しており、撤退時一人その爆発物に巻き込まれ…遺体の原型もなく…死亡しました…」
「…『ギフテッド』か…そうか。ご苦労だった。遺物があれば家族に渡してやってくれ…」
「はい…」
「ひとまず帰還する。反省会はその後だ」
団長が全員に告げる。
「了解!」
かくして1名を失ったエレアは街に帰還した。
俺たちは街に帰還し、団長がクエストの報告をすると、あの地下迷宮関連のクエストのランクはA以上になった。
先の話にもでた『ギフテッド』というのは通常では考えられない能力を宿している魔物を指して言うらしい。中でも喋る魔物はかなり特殊な例だそうだ。
俺はEとDランクの任務を個人でこなし、日銭を稼ぎ、たまにパーティーでCかBランクの任務を手伝い日々鍛錬に励む。
そうこうして三カ月が経つ。
魔法も火魔法、闇魔法、だけでなく、水、風も扱えるようになってきた。とはいっても、マナが少ないので初級魔法のみだ。
連射もなかなかできない。聞けばマナ総量が増えるのは幼少期の時で今の俺の年齢だと増える時期を過ぎているのだという。
セナは増えると言っていた気がするが…まぁいいか。
宿はエレアの団長の妹が経営しているという宿をかなり割安で貸してもらっている。何でもこの世界での結構な大手の宿屋さんらしい。
エレアの団員も全員彼女の経営する宿屋で暮らしている。
そういえば少し前に気になることがあった。
あの地下迷宮のクエストが終わり解散した後、いつも通り部屋に向かおうとしていると、何に使うのかよくわからない何もない部屋から二人の話し声が聞こえてきた。
「また…!また…ぼぼぼくは救えなかった…!」
「お前のせいじゃねぇだろ」
この声は…イリウスとコギトだ。
会社にいた時もそうだったが、何と言うか俺はそのつもりでなくても盗み聞きしてしまう癖があった。そして今回もその例に漏れず盗み聞きをしていた。
「いや…ぼぼぼくのせいなんだ…もう何度も何度もやり直しているけど…どどどうしてもあそこで一人死んでしまう…」
…?やり直し?
「…仮にお前のそれを信じたとしてよ…避けられないことなんじゃねぇのか?こういう言い方は本当にしたくないけどよ…せめて俺らのパーティーで死者がでなくて…よかったとは言えないが…まぁ不幸中の幸いなんじゃないのか?」
「…わわわわかってる…こここ今回はしない…!」
「あとなぁイリウス。前にも言ったけどよ、仮にお前が戻ったとして、その後に残された俺たちのことを考えろよ。結局この世界は続いていくんだぞ?…まぁ、んなことお前が一番わかってるだろうけどよ」
「…そそそそれでも。それでも、ぼぼぼくは…かかかか可能性を諦められない…ででできないんだ…」
「そうかよ。まぁこの話はここで終わりだ」
…!まずい、来る…!
俺は忍び足で素早くその場を離れ、側の階段をいくつも登った。
あの時イリウスが言っていた「やり直し」の意味。セナやファルシナは知っているのだろうか…?
「リュース。おはよう」
「あぁ…セナ。おはよう。今日もクエスト?」
「いや…今日は特に何もないの。その…もし良ければなんだけど…一緒に来てほしい場所があって…」
「勿論いいよ」
Σ( ゚Д゚)
こ…これはもしやデェイトゥの…デェイトゥデイの誘いなのでは…?
という訳で俺はこれからデェイトゥデイをする。
二人でセナの言う目的の場所へと向かう。
「リュースを入れてのチーム連携もかなり良くなってきたね」
「そうかな。これもセナやみんなのおかげだよ。けど、みんなを見てると、まだ俺って弱いなぁって思っちゃうからさ。もっと鍛錬しないと!」
「すごいね。ここ数か月間でリュースはかなり成長してると思うよ」
「お!本当ですか⁉そう言っていただけると…(´▽`*)」
「でも魔法はまだまだこれからね」
「なっ、あめとむち~( ;∀;)」
「あははっ」
「それで、今日はどこへ?」
「まだ内緒」
「はぁ」
「あ、ごめん、ちょっとあそこで買い物していい?」
セナが商店街を指差して言う。
「うん。もちろんいいよ」
しばらくしてセナが戻ってくる。
「お待たせ。行こっか?」
「ん。何か買ったの?」
「回復薬とマナのポーション」
「帰りまで持つよ。邪魔になるでしょ」
俺はセナから小さめの麻袋を2つ受け取る。
「あ…いいよこのくらい」
「いいですって…いつも感謝してるからこのくらいのお礼はさせてよ」
「そう?…じゃあおねがい…」
しばらく歩くと目的の場所に着いた。
「ここは…お墓?」
「何と言うか…一人でお墓参りに来るの…少し怖くて…」
「そっか。セナでも怖いものがあるんだね」
「ふふっ。それどういう意味…?」
「いや、何か安心したよ。セナは何でもできると思ってたから…」
セナが墓の前に立つ。
「この前死んだのはこの人?」
「そう。今日は時間があったから来ようと思って。ミヒャエルさん」
セナが手を合わせる。
俺もそれに倣い手を合わせる。
「優しくて…ユーモアのある人だったんだ…」
セナが涙ぐむ。
肩に手を添える◀
何もしない
聞けばセナはエレアに6年ほどいるのだという。
きっとミヒャエルさんとの関わりも深かったのだろう。
…俺はそっと手を合わせた。
近くの飯屋で昼食を済ませた後、セナはまた行きたいところがあると言ったので勿論ついて行くことにした。
かなり山を登って歩いた後、また長い階段を登っている。
この長い階段を登った先にとっておきの場所があるのだという。
あと数段という所で突然目を隠される。
「いいよって言うまで目を閉じてて」
いや、手ぇ~。やべぇ手ぇかわいい~。
階段をのぼると、
「はい。いいよ」
眼を開けるとそこには一面の花畑が広がっていた。黄色、オレンジ、赤、紫の多種多様な花で当たりが埋め尽くされていた。
「綺麗~」
セナと同じくらい。
「後ろを見て」
「ん?おお…」
すげぇ、俺たちがいる街、ヨーロッパの城下町のような風景をここから一望できる…
「すごくいい場所…」
「でしょ?何かあったときは大抵ここにいるんだ~」
「そっか。んお、何か今日祭りやってる?あのあたりが賑やかな気が…」
「ああ、そういえば今日は『勇者の日』だった」
「勇者の日?」
「そう。リュースは勇者の神話…知ってる?」
「ナニソレシラナイ(*_*)」
「この星に生きる者ならほとんどが知っている神話よ。この機会に知っておくといいわ」
そういうとセナは勇者の神話を語り出した。
「むか~しむかし。
まだこの世界が始まって間もないころ。
この世界の大部分はシューヴェルトと呼ばれる魔王率いる魔族によって荒廃した世界となっておりました。
空は闇に包まれ、植物は枯れて朽ち果て暗黒の世界が広がっていました。
そんな中ある時、光り輝く勇者とその仲間たちが現れました。
光の勇者と魔王は死闘を繰り広げ、ついに相打ちで決着がつきました。
この光の勇者の犠牲により以降魔界と人界の調和が保たれるようになりましたとさ」
「う~ん。ただのいい話というわけでも無さそうだな」
「そうね」
「魔界ってのは俺らがよく行くダンジョンのこと?」
「うん」
「なるほどな…そして今はその調和が保たれている状態か…にしても勇者なんて本当にいるのかね?」
「いるじゃない。目の前に」
「え?」
後ろを振り返る。
誰もいない。
「やめてよ、セナ。おじさん、ちょっとびっくりしちゃったよ」
「リュースは私にとっての、勇者」
「…え?」
「いつも一生懸命鍛錬に励むリュースは、私にとって勇者に見えるよ」
「…そんなこと言われると…照れるなぁ。どうしたの急に?」
「…ねぇリュースはどう思ってたの?私のこと?」
なんで過去形?いやそんなことよりこれは…!
「どうって…いい友達だと…思ってるよ」
「ずっと大好きだよ」◀
「ずっと大好きだよ。頭ん中八割セナでいつも埋まってるくらいにセナの事が大好きだよ!」
「……」
「……」
「…そっかぁ。うん。そうだよね…」
「セナ…なんで泣いて…」
「こ…これは嬉し涙」
「そ…そっか…うお」
セナに抱きしめられる。
「…セナ?」
「ごめん…ごめんね…」
小声でセナが呟く。
ミヒャエルさんのことだろうか?
というか何この展開。すげぇ。もし死んでなかったら今頃死んだ目で帰宅していたであろう俺が、こんなファンタジーの世界のお花畑でめちゃくちゃ可愛い赤髪の女の子に抱きしめられている。何か今頭の中で感動的なBGMが流れています。
「リュース、約束して」
「約束?」
「何があっても生きるって」
「…?わかった。生きる。セナがそう望むなら。俺は生きるよ。この世界で」
人はこういうのを幸せというのだろうか?
ともあれ、今俺にできることはそっとセナを抱きしめることだけだろう…
その後は勇者の日に関連した祭りを楽しんでから、帰ることにした。
その帰り道。
「なんかごめんね今日は。色々ありがとう」
「あぁ全然いいよ。また誘ってほしい。それから…」
「…?」
「口癖なのかもしれないけど…謝らなくていいよ。少なくとも俺には…」
「…わかった。もう謝らない」
「うん。あとこれ、今日セナが買った回復薬と…ポーションだっけ?…はい。じゃあまた」
「あ、ありがとう。忘れてた(笑)。またね」
今日も中々進展のある、いい一日だった。
その数週間後。
再びあの地下迷宮に臨む。目的は探索と『ギフテッド』と思われる魔物の討伐。
今回はエレアだけでなく、『ミレトス』と合同で作戦を執り行う。団長同士の仲だという。
ミレトスも30~40人くらいの中規模の人数からなる、精鋭の揃うチームだと聞く。心強い。
今日は地下迷宮探索の作戦会議のため、招集がかかった。
団長から説明がなされている途中、突然声が上がる。
「あああ、あの!」
…イリウスだ。
「なんだ....ええと、名前....たしか…イリウスだったな....」
名前を覚えないことで有名な団長もイリウスの名前は辛うじて憶えていた。
「ここ今回の探索....で…ぜぜぜ前回同様…転移がおお起こります…そそそして…こここ今回は8割の人がが地下6階以下に行きます…ぜっぜぜ前回のようには行きません」
どよめきが起こる。
「なぜそんなことがわかる?お前は預言者か何かか?」
「…そそそれは…見てきたからです」
「何を?」
「未来を…もう何度も…見てきたからです」
「未来だと?」
「何を言い出すかと思えば…」
団員たちがざわめく。
「そそそしてみんな…生き埋めにされる」
....え?
「ぼぼぼ僕は…戻りたいと思えば何度でも、かっ過去に戻ることができる能力をもっています」
....!やり直しとはそのことだったのか…
「それで…何度も見てきたんです。エレアが全滅する様子を....だから探索を止め....」
団長の目がかっと開く。
「....!わかった」
「待ってくださいよ団長!」
他の団員が止める。
「ならこちらも手を打とう。団員の一人に迷宮の外で待機してもらい、皆が緊急時に転移の巻物ですぐに脱出できるようにする。それでどうだ」
「はははい。そそそっそれでお願いします」
「悪いが探索はやめない。ミヒャエルの死を無駄にするわけにもいかんからな。お前の能力については作戦が終了してから聞こう」
「....は、はい」
イリウスは席に着く。
団長の作戦説明が再開し、終了する。
「イリウス、お前は、本当にタイムリープ、つまり何度も過去をやり直しているのか?」
俺は少し気になってイリウスに尋ねる。
「うん」
「この世界は何回目なんだ?」
「かかか数えてないから、せっ正確にはわからないけど....もう百回近くは....」
「タイムリープしたらイリウスはどうなる?」
「....?」
「あぁ、つまりこの世界のイリウスはどうなるんだ?消えるのか?」
「わっ、わからない....僕は見たことがないから....」
「確かに....」
「でっでも...ここここの世界では君と会ったところからすすスタートした。そそそこまでは大丈夫でっそそそこからなんだたたったいへんなのは....もう、もう何度もやりなおしている…」
『その後に残された俺たちのことを考えろよ。結局この世界は続いていくんだぞ?』
突如コギトの言葉を思い出す。なぜだろう…
「そうか…」
「ぼぼぼくは誰も死なせない…たたた大切な人をままま守りたい…」
「うん。俺もだ。頑張ろうぜ」
パーティーメンバーの顔を見たところ、全員イリウスがタイムリープをしていると言っていること。また今日の会議でそれについて述べることは既知のことだったらしい。最もそれを本当に信じているのかどうかはわからないが。
[超越者:イリウス・ベルクソン]
超越者(タイムリープ):当能力保持者が「やり直したい」と強く請願した場合にこの能力が発動する。その際、保持者の主観は過去にタイムリープし、タイムリープ前の保持者(以下A)とは異なる保持者(B)がAがいた世界に残る。尚、Bが知るのは自らが能力を保持していることおよび能力発動の手法のみでタイムリープをした自覚は無い。
作戦会議が終わった翌日、俺たちは再びあの地下迷宮へとゴドラに乗って向かった。
「では、これより作戦を開始する!」
「了解!」
今回は前回よりも人数が倍近くいる。ミレトスとの合同作戦であるためだ。
俺たちは再び地下1階からスタートとして探索を進めていく。
しばらくするとやはり前回と同じように
『転移』
で飛ばされる。
「ふっふっふ。今回はちゃんと転移の巻物渡されたもんねー。えっと脱出用じゃない方を使ってっと…」
当たりが光に包まれる。
「ただいま戻りました!」
セナの元に戻るとすでにコギト、イリウスがいて、すぐに後からファルシナが戻ってきた。
再び探索を開始する。
だが、本当に地下迷宮なのか?ここは。
地下一階は迷宮という感じの無機質な建物だったが、この前の地下6階とこの4階は洞窟に近い構造をしている。
道中、何度か魔物に出くわす。
「魔物の強さから言って、地下4階くらいか?ここは。イリウス、8割が地下6階に行くと言ったがセナは2割か?」
「そ…そうだよ。そそそそしてこのあと爆発が....もうすーー」
突如大きな爆発音が響き渡る。
大きな揺れ。
「くっ…」
…!
どこからか足音が聞こえる。
「いやぁ、実にあなたたちは運がいいですねぇ。うん、いいですよぉラッキーですよぉ」
姿が見える。
「お前が…ギフテッド…」
紫色のおかっぱで紫の口紅を塗った高身長の喋る魔物…
先に出合った団員の証言と一致する。
「なんてったって、私に直々に殺されるんですからぁ。ラッキーですよぉ…」
「殺されるのはお前の方だ」
コギトが言う。
「ほぉ?言いましたねぇ。あ、申し遅れましたぁ、『超回復』のアキレアです。せいぜい楽しませてくださいねぇ!」
[超回復:アキレア・ゴルギアス]
「ポイズン」
イリウスが先制攻撃を仕掛ける。
「何ですかぁ?これは毒ですかぁ?そんなものこの私には効きませんよぉ」
「にしては動きが鈍ったじゃねぇか」
コギトが金棒で顔面をえぐる。
「おらぁ!」
「やったか!?」
「いや…まだだ…感触が無い…」
「…痛いじゃあないですかぁ…神は無慈悲なことに我に痛覚を残されたのですぅ…たとえ回復があろうとも…」
アキレアが小声でつぶやく。
「いたいいたいいたいいたいいたいいたぁいじゃないですかぁ!もぉうゆるしませんよぉ!」
アキレアがこっちを見てる…まずい来…
「…え?」
キン!
「おい!ぼさっとすんな!やられるぞ。剣をもて…闘え!」
コギトが庇ってくれた。
そうだ。俺は足を引っ張りに来たんじゃねぇんだ。
ビビるな…そのためにここまでやって来たんだ…!
「あぁ、もう私のつめがぁ~!!にくいにくいにくいにくいぃ!」
すかさず俺はコギトと反撃をする。
「ライトニング」
「ホーミング」
セナが光魔法で、ファルシナが火魔法を上乗せした矢でサポートをする。
「だぁからぁそんなの効かないっていってるでしょう!こざかしいぃぃい!ギガ・シャドウ!」
闇が立ち込める…!まずい…
「まずは弱いあなたからぁ!」
来る…!どこからだ…!
「こ・こぉ」
後ろ!
「ざんねーん」
ザシュッ!
後ろから爪で切られる。
「あああぁ!」
痛ってぇ…!
「次はあの子…」
ザシュッ!
「くっ…!」
コギトの声。
「ギガ・ウィンド!」
イリウスが闇を晴らす。
「…!」
俺は背中を、コギトは肩から胸のあたりをやられている。いずれにせよ傷が深い…
このままでは…
「あなたたちはここで終・わ・りぃ。よくがんばったほうなんじゃなぁい?」
「せせせセナ。後は頼んだよ…」
「……わかった」
「うおおぉおおおお!」
…!イリウス…?
「なにぃなにぃこの子?かぁいいわねぇ」
イリウスがアキレアに突進し、乗りかかる。
「早く!みんな!こっち!」
セナに言われる。地にかざす手の先には…転移の巻物!
「禁忌魔法…デッド・ポイズン!」
イリウスがアキレアの口から大量の猛毒を摂取させている…!
「ふ…ふざぁげぇんじゃぁなあ゙いわよぉ!」
グサッ
イリウスの胸をアキレアの爪が貫く。
「うはっ…」
それでもイリウスは毒を流し込む。
「早く!」
行く◀
行かない
.......…畜生!
「なんで…!」
ようやくセナのところにたどり着く。
「イリウスは⁉」
「…置いていく…」
「…だめだ!俺だけでも残る!」
「コギト!これはイリウスが決めたことなの!あなたはその覚悟を無駄にするの⁉」
「……くそっ!」
「コギト!早く!」
「あぁあああああ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!」
イリウスの声だ。
コギトがセナの肩に手を置く。
「あぁああ、くそっ!」
周りが光に包まれる…
迷宮の外には既にかなりの人数がいた。先の爆破で脱出したのだろう。
長い沈黙が流れる。
「お前ら戻ったか」
団長だ。
「…イリウスは?」
「ギフテッドと戦闘した後…自分を犠牲にして…死んだ」
コギトが答える…
「……そうか。……しばらく休め」
「いや、ダメ」
セナが答える。
「何?」
セナがイリウスの最期を説明する。
「今がチャンスなの。ギフテッドは今イリウスの攻撃を受けてしばらくまともに動けないはず。いくら回復力があるといっても」
「…わかった…明後日だ。明後日万全の準備で奴を討伐する。禁忌魔法の毒なら少なくとも三日は効くはずだ。とにかく、今はだめだ。退避用の転移の巻物も無い」
「…わかった」
俺は地下迷宮の入り口を見やる。
…イリウス
お前の敵は必ず打つ。
かくして俺たちは街に帰還する。
翌日。俺はセナに聞きたいことがあったので、二人きりの時に聞くことにした。
「セナ。聞きたいことがあるんだけど…」
「何?」
「あのさ。なんであの時、イリウスが最期の攻撃をしに行った時、すぐに転移の巻物を用意していたんだ?」
「…」
「まるでイリウスが死ぬことがわかってたみたいだったから…『イリウスの覚悟』とも言ってたし…」
「うん。わかってた」
「…え?」
「私はイリウスに事前に伝えたの。『あなた次の迷宮探索で死ぬよ』って。そしたら、『ならできるだけみんなを助けてほしい』って言われて…」
「何で…?というか死ぬことがわかってたって…」
「私、小さい時から未来が見えてね。とはいっても全てが見える訳じゃなくて、断片的な結果しか見えないんだけどね。見えた未来がどんなに残酷な結果でも…これまでに変えることは一度もできなかった」
私はお母さんを小さい時に亡くしてて…その時も未来が見えていたの…
「お母さん、死なないでよ…」
「大丈夫よ。お母さん、頑張るから」
その数日後お母さんが死んでしまったの。
「お母さんの…うそつき…死なないって…大丈夫って…言ってたのに…」
「リュースと出会ってもしかしたらって思った。でも…未来は変わらなかった。イリウスが死ぬことは変わらなかった。でもまだいいよ。イリウスは能力を使って、過去に逃げることができる。私は違う。逃げることはできない。リュース。私は次、地下迷宮に行った時に死ぬ。先に言っておくけど、地下迷宮に行かないという選択はできない。きっとどうにかして強制的に地下迷宮に行くことになる。それに、もう何回も試したの。それでも…未来は変えられなかった」
「は…?いや…何言って…」
と同時にはっとする。
『ごめんね…』
これまでのセナの言動の違和感。セナには未来が見えていた…
「リュース…私は…未来の奴隷なの…もう頭がおかしいの…私には…止められないの…」
俺はセナを抱きしめる。
「嫌だ....!そんなの…セナが死ぬなんて…納得....できない…」
「…」
「させない…セナの見えた未来がどうであっても…絶対にセナを死なせない。誰一人死なせない....。アキレアはまだ生きてるんだろう....?絶対に俺が殺す。回復が追いつく前に殺す」
「…」
「それにセナは明日行くんだろう?どんなに残酷な結果が待っていても…」
セナが頷く。
「…大丈夫だ。俺が守るから。そのためにいるんだ」
突然の告白に驚いたが、とにかく何があってもセナは死なせない。
未来を変えるんだ。
[未来視:セナ・アルベール]
未来視:自分が未来にて経験することを断片的に視ることができる。一度視た未来は絶対に変えることはできない。
かくして俺たちは3度目の地下迷宮探索に向かう。
「先の探索でエレアの団員が二人もやられている。必ずギフテッドを討伐し、地下迷宮の探索を促進する!ミヒャエルとイリウスの敵(かたき)を!」
「おぉー!」
団長が続ける。
「いいか、今回は作戦の通り、転移があった後、エレアはエレア、ミレトスはミレトスでチームごとに固まって動く。不測の事態がなければ脱出用ではなく合流用の巻物を使用するように。では作戦開始!」
3度目の地下迷宮探索。
予期されていた転移が来ない。
「きっと奴らは前の戦いでトランスを使い果たしたのよ」
セナがそう言う。
これまで何度も転移させられていることもあり、それぞれの団員によって地下迷宮の探索はサクサク進んだ。休憩を何回か取りながら地下6階に着く。
ところどころ崩壊が見られる。20分ほど探索を進めると広間にでる。
「あらあら、今日は大勢きてくれたのねぇ」
「お前がミヒャエルを!!」
団員の一人が首を斬りに走る。
「待て!!」
団長が呼び止める。
突如爆発音が響く。
空から岩が落ちる。
アキレアと団員が岩で潰れる。
「ふっ。馬鹿な子。人間ってほんとばかよねぇ」
アキレアが再生する。
…!アキレアはハンマーのようなものを持っている。あの武器で起爆した…?
「各員、戦闘準備!なんとしてでも奴の首を取る!」
団長が叫ぶ。
「ばかねぇ」
「ライトニング」
団員の攻撃が始まる。
「はい、効かない。効かない。うっ....!」
団長がアキレアの首を斬る。
「今だ、身体を切り刻め!」
「はい!」
…!
アキレアの身体がハンマーを振る。
爆発音。
崩落が起こる。
「うわぁあああ!」
響き渡る団員の悲鳴。
「だから....効かないって言ってんでしょう!もうあんたたちは終わりなのよ…ここで生き埋めになってね!」
さらなる爆発音。
「…くっ!」
「団長!」
まずい、これでは本当に生き埋めに....!
「ここまでのこのこ来てくれて、感謝してるよぉ。わかってるよわかってる。あんたたちはこの私の秘密が知りたいんだろう、ホントはさ。だから馬鹿みたいに何度もこうしてきてくれるわけだぁ。でも残念。あんたらに私は殺せないよぉ!」
「…総員脱出の巻物を使用しろ…!」
団長!
「ふふふふ....」
アキレアが部屋を移動する。
「…待てよ!」
俺はアキレアを追う。
部屋を移動すると既に何者かがアキレアに斬りかかっていた。
コギトだ。
「おい、逃げんなよ。この前の毒がしっかり効いてるじゃねぇか」
「コギト!」
セナだ。
突如、セナの言葉を思い出す。
『私は次、地下迷宮に行った時に死ぬ』
…!
「セナ、今のうちに逃げよう。まだ今なら変えられるかもしれない....!」
セナは首を振る。
「リュース。未来は変わらない。今ここで、確実にアイツを仕留める」
…どうして。
何で君は....
鈍い音が連続する。
....!
コギトが再生するアキレアの身体を何度もつぶしている。
「うおぉおおおぉおおお!」
「ギガ・ライトニング!」
セナも応戦する。
勝てるかもしれない....これなら....
「ファイア」
俺も剣に火をまとわせ、加勢する。
「きゃぁああああああああ!」
アキレアの悲鳴が響き渡る。
直後、長い沈黙が流れる....
「やったか....?」
コギトが倒れこむ…
「....おいコギト、どうしたんだよその傷…!」
胸のあたりから出血している。それもかなりの量だ…
「最初の方にやられちまってな…俺はもう限界だ....おいリュース…」
「もう喋るな…転移の巻物でみんなで脱出しよう」
「セナを頼んだ…ぞ…」
「…は?おいリュース⁉リュース⁉…ぁああ!なんで…なんで…!」
突如爆発音が響く…!
…!?なんで…あいつは死んだはず…!
「あ…あ…あなたたちはよくやりましたよぉ!もうちょっと!もうちょっとであああ危ないところでしたぁ…!」
…!
上半身をひきずるアキレア。下半身が無い。
こいつ…肉体の一部をわざと離れた場所に…!
俺たちがさっき斬っていたのはただの死体だったというわけか…!
「リュース!」
突然セナに強く押される。
直後、天井の岩石が落下してくる。
「セナ!」
粉塵でよく見えない。
セナ…セナは....!
……!
セナの下半身から肩までが崩落の下敷きになっている…!
嘘だ…
こんなところで…!
「わたしは逃げますよぉ…!」
「…!」
アキレアの伸びてきた手を斬る。
「お前はぁ!」
「ああぁああ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!あ゙なた!絶対ゆるしませんよぉぉお!」
「待ってセナ!今どかすから」
「無理よ…足の感覚ももうないよ…そいつを連れて逃げて!わかるでしょ。そいつはみんなの敵なの!」
「何言ってるんだ!?そんなことできるわけが…!」
「リュース!お願い…私はここで終わりなの…!」
「…!……できな」
「リュース!…お願い…生きて…約束したでしょ…」
「…ああぁああああ゙あ゙あ゙あ゙!」
まだ何も…何もしてないのに…!
セナのいない世界なんて…
俺は要らない。
でも…約束した…
俺は…!
行く◀
行かない
「みんなぁ道ずれですよぉ!」
爆発音。
こいつ....まだ手に武器を....
「お前も来い」
「セナ…必ずまた…ここに来るから…」
『転移』
光の中、どこからか「ありがとう」と、そう聞こえた気がした。
地上に上がるとあたりには暗闇が立ち込めていた。
…!あれはファルシナか?
みんな倒れている。
「お疲れ様!僕がみんなみんな殺しておいたよぉ!アキレアはうまくやったかなぁ⁉まっ、僕はみんな殺せればそれでいいけどねぇ!」
あぁ…何で?
「タスケテ....カエリタイ....」
「何でお前らは…」
『ファイア』
何でなんだ....?
「ウァアアア゙ア゙ア゙ア゙!アツイ!」
アキレアの悲鳴がどこかで聞こえる。
ザシュ!
[能力『超回復』を獲得した!]
超回復:当能力保持者は驚異的な自然治癒能力を得る。
「うん?今のはアキレアの声?」
「…!」
いつのまにか足元に闇が迫ってきていた。
足が壊死している…
「あはは!君ももう死ぬね」
右手が壊死してもげている。
「くっ…!うおおぉおおお゙お゙お゙お゙お゙!」
剣をもった右手を左手で奴に向かって投げる。
「?そんなことして何になるのかな?あはははは!」
「……」
「あれ?もう死んじゃったかな?頭おかしいのかな?」
「お前は能力に頼りすぎた」
グサッ!
「…え?何で…」
背後から急所を刺す。
「運が悪かったな。超回復はもう俺のものだ。そして、お前の能力も俺のものになる」
「そん.......…な.......…」
[能力『ジ・エンド』を獲得した!]
ジ・エンド:闇魔法の突然変異。それが能力として現れたもの。当能力保持者のマナではなく、体内エネルギーを用いて発動する。強大な闇の力で「ジ・エンド」自体にエネルギーを吸収させることができる。尚、当能力保持者の耐性が十分にない場合、保持者の心身を徐々に蝕む。
「はぁ…セナ....セナに....会いに行かなきゃ....」
俺は再び地下迷宮に足を踏み入れる。
4年後
「おい、お前魔王の居場所を教えろ。さすれば命の保証はしてやる」
「シラナイ…」
「何?魔物の癖に我に歯向かうか!」
「…ヤメロ…モウヤメテクレェ!!…」
殺す◀
殺さない
[能力『勇者』を獲得した!]
*********************************************
「おい、ヨナト、聞いたぞお前…あの地下迷宮に行くのかよ…」
「ええ。行きますよ。勿論ついてきてくれますよね?」
「おいまじかよ勘弁しろよ…あの地下迷宮には『ギフテッド』の喋る魔人がいて、もう入った奴は帰ってこないって噂だぜ?」
「大丈夫ですよ。それにその魔人というのがどうも気になるんです」
「はぁ…どうしてもっていうんなら行くけどよ…まだ死にたくねぇよ俺はよぉ…」
「よし!それじゃあ行きましょう!」
「おいおい…まじかよぉ…」
第二部
「ここが噂の迷宮かぁ~」
僕の名前はヨナト・ニーチェ。風属性。
今日は、とんでもなく強い魔物がいると噂の迷宮にやってきた。
パーティーには火・土属性の前衛ディンキーと水・光属性の中衛ヲリがいる。
楽しみだなぁ~どんな魔人がいるんだろう。
!(*^▽^*)!ワクワク!ワクワク!
「なんでお前はそんな楽しそうなんだよ!」
すかさずディンキーが突っ込んでくる。
「まったく…ディンキーは真面目過ぎるんですよ。ほら!もっと肩の力抜いて~抜いて~」
「抜けねぇよ!逆にこわばっちまうよ!おい、ヲリも何とか言ってくれよ~」
「(^_^)……」
ヲリはいつも何も言わない。常に微笑んで僕たちのことを見守ってくれる。
「さぁ!行きましょう行きましょう!」
「ヲリ?(;^ω^)あぁ、死にたくねぇよぉ~!!」
地下一階。
中には微かな闇が立ち込めている。
『ウィンド』
風で闇を払う。
「闇に触れないよう気を付けてください…嫌な予感がします」
そうして僕らは地下へ、地下へと進んでいく。
「おい、何かところどころ崩れてるじゃねぇか…ここで生き埋めはごめんだぜ…」
「多分大丈夫ですよ」
「そっか…多分大丈夫か…とはならねえだろΣ」
地下に行けば行くほど闇が深まる…
『ギガ・ウィンド!』
そうこうして地下6階。
「おいおい…今までも十分すぎるほど闇が深かったが、ここはやべぇって…何も見えねぇじゃねぇか。ヨナトやっぱ引き返ーー」
「行きます」
「えぇ…( ;∀;)」
「ですが、確かにこの闇の量は危険です…下の固まった闇の結晶には絶対に触れないように…ものすごく嫌な予感がするので…」
『ギガ・ウィンド!』
「もう一回、行きますよ~!」
『ギガ・ウィンド!』
20分程歩くと、広間が見えた。
…!奥の部屋に何かいる…!
「オマエ…ダレダ…?」
「こんにちは。僕はあなたと話がしたくてここに来ました」
「コロス…コロス…セカイ…イラナイ…!」
「おい、こっちに来るぞ…おいおいおいおい!」
*********************************************
「今日のクエストも割かし早く片付いたな」
コギト…
「うん。リュースが入ってのチーム連携もだいぶ良くなってきたね」
セナ…
「囮が増えた分、戦いやすくなるのは当然のことですわ。これからも頼みますわ。リュース」
ファルシナ…
「ぼぼぼぼくはみみみんながししし死ななければそそそれでいいんだ…」
イリウス…
「もう、イリウスはいつも大げさなんだから…」
笑い声が遠のいていく…
「リュース…生きて…」
セナ…
「生きて…」
待って!セナ!行かないでくれ!
周りに誰もいなくなる…
あぁ、そうだった…
もうみんなどこにも居ないんだった…
*********************************************
「セナ…」
「あっ!起きましたか?」
「…ココは?ん…なんだ?この手は…?」
「ここはエーテルという近くの街の宿屋です。あなたは今、半魔になっています。ほら」
そういって僕は鏡を見せる。
「顔が…」
彼の顔、身体は半分魔物化していた。
「オマエ…名前は?」
「ヨナトです。あなたは?」
「リュース。ヨナト…なぜ俺を連れ出した…?」
「それは勿論あなたに仲間になってほしいからです。あなた強そうなので」
「お前、ちょっと面白い奴だな…でも…もういいんだ…もう…殺してくれないか…?」
「それはセナさんが死んだからですか?」
「…何で」
「僕はさっきあなたに『幻影』を見せました。僕の能力なのです。心の弱い者にはとくに効くのですがあなたほど効いた人は初めてでしたよ。それで…あなたの幻影を見ました。すいません、どうしても見えてしまうもので…」
[幻影:ヨナト・ニーチェ]
幻影:対象者に幻影を見せることができる能力。対象者の心に弱みがあるほどその幻影に没入しやすくなる。
「お前も…能力者か…まぁいい。そうだ。俺はセナを失った。それも目の前で....!だから…もういいんだ」
「リュースさん。闇の力が強まっていますよ。あなたはそうして闇の力に支配され、半魔になってしまったのでしょう?それに…何もよくないですよ…セナさんと約束したんでしょう?」
「……」
「あなたには僕の記憶を取り戻す手伝いをしてほしいんです」
「…記憶?」
「はい。僕はこれまでに何度も自分自身に『幻影』を見せたことがあるんです。その時によくでてくるのが、何と言うか…この世界ではない世界にいる自分なんです。それで、その記憶が何なのかを知るために『記憶操作』ができると言われている人に会いに行く旅をしているという訳です」
「それは…多分....地球だ…」
「地球?何か知っているんですか?」
「うぅっ…」
リュースさんが頭を抱える。
「あぁ…俺ももう全ては思い出せないが....あの世界のことが夢みたいに消え始めて....」
「今は休んでください…旅の途中でまた教えてください。リュースさんが回復したらまた出発します」
宿屋を出ると、ディンキーが呼び止める。
「おい、ヨナト。大丈夫なのか?あいつを仲間に入れて?」
「あいつじゃありません。リュースさんです。」
「リュースを仲間に入れて…大丈夫なのかよ?」
「ええ。大丈夫ですよ…リュースさんが闇に支配されないうちは…」
「よし、では出発しましょう!」
「それで、その『記憶操作』ってのは何だ…?」
リュースさんが尋ねてくる。
「以前、僕が冒険していた時に聞いたことなのですが…この世界のキーナ村という場所に人の記憶を自由に見たり改変したりできる者がいるらしく、まぁ噂程度の話なので本当にいるかどうかは定かではないのですが…ただ、キーナ村の場所はおおよその検討はついているのでほとまず行く価値はあるかと思い」
「…なるほど…でも…知ってどうなる」
「…?」
「お前が自身の地球での記憶を見たところで、何が変わる?」
「何も変わりませんよ。ただ僕は、見たいという好奇心を抑えられないだけなので」
「…そうか」
それから僕たちは野を超え、砂漠を超え、雪山を超え、獣を狩りながらおいしい食事を取り、ついにキーナ村と呼ばれる場所までたどり着いた。しかし…何か様子が…
....!
あれは?
村が魔物に襲われている…
魔物が家を破壊している。
「助けに行きましょう。リュースさん....あれ?リュースさん?」
いない。
「おい、ヨナト。あいつ村の方にいっちまったぞ」
ディンキーが言う。
「僕たちも行きましょう」
村に着くと既に魔物は駆逐されていた。
「…リュースさん?」
「あぁ。全部殺しといたよ…」
「…優しいんですね」
「…どうかな。もう俺は…壊れちまって…それでも誰も傷つけたくなくて…」
「お…おい、あの方だ。魔物を退けてくださったのは」
村の人がぞろぞろと出てくる。
「あぁ、ありがとうございます!」
「ありがとう!」
「ありがとう」
「ありがとう」
「何で…こんな見た目なのに…半分魔物の姿をしてるんだぞ…?俺は…?」
「人は見た目じゃありませんよ。リュースさん。少なくとも。ここの村の人たちはそれを解っているみたいですね」
「あんた見かけによらずいい奴じゃねぇか」
「ディンキー。見かけによらずは余計ですよ」
「あぁ、悪い悪い」
「まったく…」
ひと段落して僕たちは村の人に『記憶操作』の話を聞くと
「あぁ、十代目のことですね」
と言い、その十代目のところに案内してくれることになった。
一つの家に入る。
「…子供?」
ディンキーが言う。
「そうだね。僕はまだ13歳だ。先代から能力の継承を受けてからまだ数年しか経ってないからね。僕の名前はネルト・マクルーハン。よろしく」
[記憶操作:ネルト・マクルーハン]
記憶操作:当能力保持者は対象者の記憶を自由に閲覧し、改竄することが可能。危険な能力であるため代々マクルーハン一族が乱用を防ぐ掟のもと継承を行っている。
「…継承ですか?」
僕は尋ねる。
「そう。この能力は絶対に魔物に渡しちゃいけない。理性を持つ人間が管理しなくてはならない。だから、この『記憶操作』の能力はうちの一族が代々受け継いでいるんだ」
「あの…僕はあなたに僕のかすかな記憶を見せてほしくて…何と言うか…うまく思い出せない
記憶があるんです」
「…いいよ。村を助けてくれたお礼にさせてもらおう。あと…そうだね…じゃあそこの半分魔物になった人の記憶も見せてもらおうかな。面白そうだから」
「....リュースさん。お願いできますか....というかお願いします....」
「....わかった」
リュースの頭に手をかざす。
数秒してネルトが言う。
「あっ!君先代に会ったことあるんだね⁉うらやましいなぁ~。ほら!この世界に来て一番最初に話しかてくれた人だよ。ま、憶えてないだろうけど」
「…!この記憶は何だ?」
「忘れちゃったの?君が地球にいた時の記憶だよ」
「…あぁそういえばそうだったな…何で…忘れていたんだろうな…」
次にネルトは僕の頭に手をかざす。
蘇る「地球」での記憶…
そうだった。何で忘れていたんだろう。
僕は幼いころから好奇心が強かった。
そして、あの日僕はしてはいけないことをした。
当時まだ社会人になって間もない20代の頃、僕は休日に一人でキャンプに出掛けていた。
自分の他には誰もいない場所で僕はひっそりとキャンプをしていた。
夕方、薪の代わりに木の枝をとりに行こうと林に行くとその中になぜか木の葉のかかっていない地面があるのに気が付いた。
不思議に思って掘る。
そして見てはいけないものを眼にした。
人の死体が埋まっていた。女性の死体が。
肉体が綺麗に残っていることからおそらく埋められてからそこまで時間は経っていない。
服も着ている。
本来ならそこですぐに警察に連絡すべきだった。
しかし僕はその時人道に反する好奇心を抱いてしまう。
『人間の中身はどうなっているのだろう』
この人は既に死んでいる。言うなればただの物質。誰かが手を加えたところで僕はこの人を殺していないという事実は変わらない。
僕はテントを張った場所に戻りナイフを手に取る。
死体の服を脱がせて身体の至る所に切り込みを入れる。
あぁ…なるほど....こうなっているのか....
「おい、そこで何をしている!?」
後ろを振り返る。
警官だ。
事情を全て話したうえで刑務所に送られる。
数か月後、殺人犯が見つかり刑期が少し軽くなる。
数十年を刑務所で過ごし、出所する。
全てを失った後、僕は放浪の生活を送る。
その日の夜、道を歩いていると前を歩いていた人がぶつかってきた。腹を刺された。
おそらくあの女性の関係者だろう。
これから僕もどこかに埋められるんだろうか。
意識が遠のいていく…
好奇心が抑えられない時、そこに罪の意識は無い…
「ふーん。君もなかなか面白いね。君も能力者であることを考えると、やっぱり能力者は全員地球から送られてきてると考えて間違いないのかな」
「あのギフテッドと呼ばれる魔物もか....?」
リュースさんが尋ねる。
「そうだね」
「そうか…あいつも帰りたかったんだろうな…」
またリュースさんが尋ねる。
「ソウルにはどうしたら会える?」
「君が地球からこの世界に来た時に会った、君自身の姿をした人のことだよね?」
「そうだ」
「ソウルって人に会えるかどうかはわからないけど、僕の一族に『記憶操作』とともに伝えられる神話の一つに神への会い方がある。その内容を簡単に言うと、六つの属性、火・水・風・土・光・闇の魔法石を集めて、その後神殿の場所に供えると、転移のゲートが開いて神に会うことができる。って感じだね。その神がソウルかどうかはわからないけどね。それぞれの場所を記した地図も渡してあげるよ」
「何で…そこまでしてくれるんだ?」
「実はね。君たちが来ることは…いや、特に半魔の君が来ることは父さん、先代から既に知らされていたんだ。先代は色んな人格を持っていて…あぁまぁその話はいいか。とにかくその人格の一つに未来予知をできる先代がいて、それで半魔の君が来た時、できる限り彼を手伝えって言われたんだ」
「そうか....何かよくわからんが…ありがとう」
「うん。色々大変な人生を送って来たみたいだけど、この先も頑張ってね!」
村を出た後、リュースさんに言う。
「じゃあ、一番近い火の魔法石から行きましょうか…」
「おう、行こうぜ」
「(^_^)……」
ディンキーとヲリが同意する。
「リュースさん?…いいですか」
「あぁ…いや、いい子供だったな....と思って」
「あっはは。意外ですね。リュースさんはそんなことあまり言わない人だと思ってました....」
「....言うよ。まだ人の心があるうちは....」
そうして僕らは魔法石を集め出した。リュースさんはとても強くていつも一人でどんどん進んでいってしまう。追いついた時には魔法石の回収が既に済んでいる。
*********************************************
火山地帯
最終面
~火の闘技場~
「マッ....マッテ....」
殺す◀
殺さない
[火の魔法石を手に入れた!]
[能力『堅牢無比』を獲得した!]
堅牢無比:当能力保持者は防御力が非常に高くなる。その分物理攻撃が殆ど0に等しくなる。
深淵海溝
最終面
~水の闘技場~
「…」
殺す◀
殺さない
[水の魔法石を手に入れた!]
[能力『未来視』を獲得した!]
天空の浮島
最終面~風の闘技場~
殺す◀
殺さない
[風の魔法石を手に入れた!]
巨岩迷宮
最終面~土の闘技場~
「マテ…マッ――」
殺す◀
殺さない
[土の魔法石を手に入れた!]
[能力『不老』を獲得した!]
聖光の神殿
最終面~光の闘技場~
「オネガイ…」
殺す◀
殺さない
[光の魔法石を手に入れた!]
[能力『反射』を獲得した!]
奈落の洞窟
最終面~闇の闘技場~
[闇の魔法石を手に入れた!]
*********************************************
「闇の魔法石を守る強敵はいませんでしたね。最も、どの魔物もリュースさんが全ていとも簡単に倒してしまいましたが…けど、これで全部そろいましたね。神殿に向かいましょうか」
そうして僕らは全ての魔法石を集めた後、神殿に向かった。
魔法石を集めてから早一年。
僕はいまだにリュースさんのことがよくわからない。好奇心が強いので、リュースさんに話しかけたり、勝手に魔物化した身体を触ったりするのだが、常にそっけなく返される。まるで心ここにあらずという感じで。
そして、リュースさんの魔物化が進んでいる…
あのころは丁度半分人間、半分魔物という感じの姿だったのが、今では8割、ひょっとすると9割魔物化しているように感じる。
少し…心配だ。
神殿に入ろうとする。が、見えない壁に行く手を阻まれる。
…!
「おい、なんだよこの壁?」
ディンキーが言う。
「リュースさんは入れますね」
「あ?ああ…」
「魔力の強い者しか入れないのでしょうか…?」
「…行ってくる。魔法石を供えて神に会って、能力を…無くしてもらう」
リュースさんは能力の撲滅を望んでいた。彼曰く、能力はこの世界に必要ない。とのこと。僕は…この幻影の力が嫌だと思ったことは無いけれど、この力が原因でギフテッドと揶揄されたこともある。
ただ、色んな人の幻影が見れなくなるのはつまらないなと…そう思う。
「もう…誰にも…傷ついてほしくないんだ…頼む」
僕が何も能力を破棄することはないんじゃないかと言うと、彼はそう言った。
とても哀しそうな顔をしていた。
「分かりました。リュースさん。終わったら、必ず戻ってきてください」
「…あぁ」
リュースさんは神殿を昇って行った。
*********************************************
塔を登る。
意識が混濁している…
何で俺は昇っているんだっけ?
あぁ…そうだ…全て終わりにするためだ…
この世界に能力は必要ない…
能力なんてなければ…セナは…みんなは死ななかった…
何か今敵がいた気がする…攻撃を受けた気がするが…
まぁいいか…
最上階に着く。
魔法石を設置する。
中央にゲートが開く。
進む。
「誰かな?僕、今ちょっと忙しいんだけど…あれ?君は『二者択一』の…」
ソウルは最初にあったときとは違う姿で、純黒の帽子を被り純黒のコートを着ていた。
「そっかそっか。あっはは。君面白いね。能力に支配されて魔物になっちゃったわけだ」
「なぁ…ひとつだけ教えてくれ…なんで俺はこの世界に選ばれたんだ?」
「忘れたのかい?君が望んだことじゃないか?」
「…は?」
「向こうの退屈な世界に飽き飽きしていたのは君だろ?ほら、現に君は向こうの世界に戻りたいとも思っていないじゃないか。君はそこそこ若くして死んだわけだし、エンマさまが願いを叶えてもいいって思ったんじゃないかな?」
「…もういい。もう一つ…頼みがある…もう地球から魂を送るのを止めてくれ」
「ほう?」
「地球から来た者が能力を付与されることはわかってるんだ。そして多くの場合それは…」
「あまりいい結果をもたらさない。だね?」
「あぁ…そうだよ。だから…もう止めてくれ…!」
「健気だねぇ~そんな風に頼まれたら力になってあげたくなっちゃうけど…ごめんね。僕にはできない。というか、僕がしているのは魂の采配、つまり『魂の交通整理』って感じかな。多分だけど仮に止めるとして、それができるのはエンマさまくらいじゃないかな?」
「…どうやったらエンマに会える?」
「さあ?なんせ僕も一度も会ったことがない。ずっとここにいるからね。君もたぶん会えないよ。君が会えるのは地球とディピアに関連のある僕だけ」
「…そんな、俺はどうすれば…」
「気に入らないなぁ~。もう答えは見えてるだろ?『未来視』で。この後君はディピアの生物を皆殺しにする」
「!…なんで…?」
「僕に時間の概念は無いからね。あとはちょっとの勘さ。何百万年もいたら大抵の事はわかるもんだよ」
「できない…そんなことできるわけが…」
「その躊躇いを生じさせているのは理性だろ?君の身体はもうまもなく『ジ・エンド』に全て支配され、君は理性を失う。これで君の悩みも解決!ってわけさ。さぁもう話は終わりだ。僕は忙しいんだよ。じゃあね」
「おイ、マテ…マッテク――」
アァ…イヤダ…
リュースは未来を垣間見る。
「アァァアアアア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!」
セ…ナ…
「………………………………ミンナ...コロス…」
闇が世界を支配する。
塔は崩れ、側にいた人は腐敗する。
「リュースさ…!」
やがて空は闇に包まれ、植物は枯れ、人間、魔物は全て死に絶え、暗黒の世界がひろがる。
星は闇に染まる。
*********************************************
約400年後
「シューヴェルト!貴様をここで討つ…!」
[勇者:ニュート・エバレット]
「オマエ…ヨワイ…」
殺す◀
殺さない
その20年後
「リュートよ。今度こそ…今度こそ…頼む。ニュートの無念を....いや、それだけではない…この世界を救ってくれ…」
「心得ました。ええ。任せてください。我々『勇者』の一族の無念を必ず晴らし、世界の秩序を取り戻します」
第三部
「ヴィルヘルム様。リュート・エバレットが謁見に参りました」
「通せ」
中から声が聞こえ、扉が開く。
王の前に跪く。
「400年前、世界は突如闇に包まれた。しかしこのレイト王国は特殊な結界を張っていたことにより、辛うじて生き残ることができた。そしてなにより、代々この国にて継承されていた『勇者』を守ることもできた。じゃが…」
王は深く息を吐く。
「リュート。そなたも知っての通りこれまで『勇者』は常に非業の死を遂げておる。諸悪の根源は全てあの魔王シューヴェルトにある。奴が大地を枯らし、結界外の世界を闇に葬ったのだ」
「はい…」
「リュートよ。今度こそ…今度こそ…頼む。ニュートの無念を....いや、それだけではない…この世界を救ってくれ…」
「心得ました。ええ。任せてください。我々『勇者』の一族の無念を必ず晴らし、世界の秩序を取り戻します」
僕は家に戻り、準備を整えて、街から出る。
「ついに行くのね」
後ろから呼び止められる。
「エレナ。うん。行ってくる....」
「何が『行ってくる』よ」
「…?」
「決まってるでしょ。私も行くわよ」
「本当か?それは心強いけど....でも…死ぬかもしれない…」
「勿論。今回運よく勝てるかも何て思ってないわ。負ける可能性の方が高いとも…だからこそ…あなたを一人でいかせるわけにはいかないでしょ」
「エレナ…」
「ちょっとまてぇい!!」
「はぁ…はぁ…」
「ライアン!ユル!どうして…」
「どうしてじゃねぇよ!なんで勝手に二人でいい感じになってるんだよ⁉」
「…僕たちも行きますよぉ」
「....覚悟は」
「当たり前だ」
「もちろんです」
「....結局みんな一緒だな。じゃあ行こうか」
この4人は幼なじみで小さいころから今までいつも一緒に遊んだり、パーティーを組んで街の外に行ったりした。
3人がいるとはとても心強い。
目的の場所。魔王の城に向かう。
砂漠を越え、雪山を越えて、森を抜けて、海を渡り、ついに魔王の城に着く。
「くっ…さすがに魔物が多いな…」
ライアンが言う。
「そうだね。でもこの四人なら…」
「ええ。楽勝ね!」
…突如あたりが光に包まれる!
「転移だ!」
ライアンの声が聞こえた後、どこかに飛ばされる。
…?みんなは…?
「よくここまで来たな。俺は四天王の一人。カクロス。見た所お前が一番強そうだからな。一番強い俺が相手をしてやるという訳だ」
後ろから声がした。
「…そこをどけ。俺は魔王を倒しに来たんだ」
「お前には無理だ。あのお方は誰にも倒せない」
「だとしてもそれが諦める理由には...ならない!」
『ヘヴンズレイン』
「お前…光属性か…!いや、まさかな…」
『フレア』
「くっ…」
「どうしたどうした?もう終わりか?」
「おれはみんなの為に…こんなところでは終われない!」
『ヘヴンズソード』
「…速――」
ザシュ!
「うわあぁあああああ!」
四天王が倒れる。
「そんなに強くなかったな...........まぁいいか...........」
僕は構わず先に進む。
「みんな!無事だったか!」
「あぁ、何か思ってたより強くなかったわ」
ライアンが言う。
「えぇ、そうね。でも次は魔王よ。気を引き締めていきましょう」
エレナが言う。
「あぁ。これで最後だ!」
魔王の間にたどり着く。
「ふっふっふ。よく来たな」
「シューヴェルト!貴様をここで討つ…!」
「父親にそっくりだな...........お前は。弱かったよ。あいつは。お前らもきっと弱いんだろうなぁ。せいぜい楽しませてくれよ」
『アイス・フロスト』
『ギガ・ファイア』
『ウィンド・カッター』
『ヘヴンズソード』
…!
「......うわあああ!」
魔法攻撃が返ってくる。
「効かんな...........」
「もう一度!」
『アイス・フロスト』
『ギガ・ファイア』
『ウィンド・カッター』
『ヘヴンズソード』
「......うわあああ!」
「おい、効かんと言っているだろう。もういい。貴様らの遊びに付き合うのも飽きた」
『ブラックアウト』
『ギガフレア』
『ハイドロレイン』
『濁流』
『リゲイン』
『ギガフレア』
『ホーリーランス』
『ジ・エンド』
「.......…え」
刹那、意識が飛ぶ。
「…死んだか」
「くっ..........」
「おお、まだ生きていたか..........」
「エレナ?ライアン?ユル...?おい、起きろよ..........」
三人が血を吐いて倒れている。
重症だ…
「もう死んでおるぞ。お前ももうじき死ぬ」
「まだ終わって…」
「足元を見よ」
…!足が壊死して…
「もう歩くこともできまい」
「あぁああ゙あ゙あ゙!、痛たい…!」
「せいぜい苦しんで死ぬがいい」
「.......…みんな、限界なんだ....お前がいるせいで…街の結界の外では作物が育たない…お前がいる限り…街の不幸は終わらない」
「..........ん?おい、何だその光は?」
「俺はここで!お前を倒す!絶対に!父さんをみんなを殺したお前を許さない!」
「…!早く始末せねば…」
『ジ・エンド』
「ぉぉぉぉおお゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙!!」
[能力『勇者』は『光の勇者』に進化した!]
光の勇者:当能力保持者は対象者の能力・スキルを無効化することができる。過去に受けたダメージも無効化することが可能。尚、当能力保持者は自身を対象者とすることはできない。
「足が…戻っている…!」
「何?攻撃が…効かないだと…!」
『ヘヴンズレイン!』
「あぁああ!まだ、まだだ…」
『ブラックアウト』
『ギガフレア』
『ハイドロレイン』
『濁流』
『リゲイン』
『ギガフレア』
『ホーリーランス』
「..........効かないよ。お前は能力に頼りすぎた」
「馬鹿な…ありえん…こんなことが…!」
「これで終わりだ!」
『ヘヴンズソード』
「待て…待ってくれ…殺さない方がいい…思い出したんだ…殺せば…酷い目に…あう…」
僕は魔王に近づく。
「ふざけるな。世界を荒廃させ、仲間を殺したお前の言うことなど聞かない」
「あぁ…」
「終わりだ!シューヴェルト!」
「…………セナ」
ザシュ!
魔王の息の根が止まる。
「やった…あぁ…ついにやったよ…父さん…みんな…」
エレナ…
ライアン…
ユル…
みんな…ごめん…守れなかった…
ごめん…
帰ろう。故郷に。
ようやく平和が訪れ――
[能力『簒奪者』を得た!]
「…は?」
[能力『二者択一』を得た!]
[能力『超回復』を得た!]
[能力『堅牢無比』を得た!]
[能力『不老』を得た!]
[能力『反射』を得た!]
[能力『未来視』を得た!]
「なんだ…これは?」
[能力『ジ・エンド』を得た!]
リュートは未来を垣間見る。
「.............何だこれ…なんで…」
「どうして……悪夢は……終わらないのか…?」
『勇者』を待つ◀
逃げる