『2分の1の魔法』初見感想

昨日、『2分の1の魔法』(原題:Onward)字幕版を観てきた。ディズニー・ピクサーのアニメ映画ではいつものことだが、字幕版の上映館が少ないなあ。

以下簡単にネタバレ感想

弟と父の話と思いきや

 この映画の主人公はエルフ(この世界では魔法生物たちが現代アメリカ人のように暮らしている)の兄弟イアン(弟)とバーリー(兄)で、作品の大部分がイアン視点に沿って語られる。

ひょろっとして引っ込み思案で気の小さいイアンは自分が生まれる前に病死してしまった父親に憧れていて、生前の父のように豪胆になりたいと思っている。父に一日だけでも会えたら、そして親子らしいふれあいができたらいいのにと願っている。そしてその願いが叶うかもしれないチャンスが彼に訪れる……というのが序盤の流れだ。

 これを観ていると、観客はこの映画の主人公はイアンで、彼が冒険を通して成長して、最後に父に会えるんだろうなと想定すると思う。でも、そうならないのがこの映画の一番面白いところだと思う。父に会えるのはイアンではなく、ちょっとウザい変人の兄バーリーなのだ。

 バーリーは物語の前半、困った古代魔術オタクとして描かれる。二人の母親ローレルはバーリーについて、早く大学に行ってほしいみたいなことをぼそっと言っていた気がする(一回しか見てないので記憶が曖昧)。多分家で魔術ゲームに熱中したり、古い遺跡の撤去反対運動をやったりして暮らしている変人だ。兄弟仲も親子仲も決して悪くはないが、イアンもローレルもバーリーには手を焼いている感じがある。

 バーリーのイアンへの関わり方はテンションが高くてちょっとウザい兄貴という感じだけど、弟への愛情は随所で示される。ちょっと困ったところはあるけどいい兄なんだなというのが分かるように描かれていると思う。そんなバーリーに対してイアンが心の中で「ダメな奴(パンフレット表記)」だと思っていることがばれてしまう場面がある。ここは結構つらい場面。

 私は中盤のこのあたりまでイアンが主人公だと思って観ていたんだけど、観終わってみるとむしろ、バーリーの物語なのでは?と思われる。先述の場面などから、バーリーが家族も含めた周囲から「ダメな奴」だと思われていて、軽んじられているのがわかるわけだけれど、この映画を最後まで観てみると、実はバーリーは最初から最後まで正しいのだ。

 世界のみんなが忘れている魔法をバーリーは忘れず、継承しようとしていた。旅路の選択も、イアンは(おそらく観客も)馬鹿にしていたけれど結局バーリーが正しかった。イアンに何かと口出しした魔法についてのあれこれも、おそらく全部的確なアドバイスだった。観客は最初、イアンや他のみんなと同じように、バーリーをある程度馬鹿にして観ていると思うけれど、最後には反省させられることになる。

 そして、亡くなった父に会えるのも、イアンではなくバーリーだ。イアンも会えても良かったのでは?と思わなくもないけど、制作者たちがこのエンディングにしたのは、イアンではなくバーリーこそが父に再会する必要があるというメッセージを込めたかったからなのだろうなと思う。

 バーリーはイアンとは違って幼い頃の父との思い出がある。そしてバーリーは病に伏す父親ときちんとお別れができなかったことを負い目に感じている。制作者たちは、「生まれたときからいなかった父親に憧れる次男」ではなく「もう会えない父親に対する後悔や罪悪感を抱えた長男」を救ったのだ。

 一方のイアンは兄と脚だけの父親との冒険の中で魔法の才能を開花させ、自信をつけて成長する。そして最後には、自分が父親に求めていたいろいろな事がその旅の中で達成できたこと、そして兄が自分にとって父親の代わりをしてくれていたことに気づく。イアンは完全体の父親に会えなくても、自分の問題を解決することができたということになる。

 弟と父の話と思いきや、兄と父、兄と弟の話なんだなあという印象でした。

お母さんのこと

 母ローレルも結構活躍する。

 ところでシングルマザーである彼女にはケンタウロスな警察官の恋人がいて、これはこの手のディズニー・ピクサー映画では割と新しいのではという気がする。こういう設定がさらっと出てくるのは良いなと思う。

 それはさておき、ローレルは家出した息子たちを探し、車で自ら彼らが行きそうな場所へ向かう。有能。警察にもちゃんと連絡している。

 そしてそこで勇者マンティコアと出会い、一緒に息子たちを救いに向かう。マンティコアが女性なのは今のディズニーらしい。

ドラゴンを倒す女性陣とエモーショナルな父子

 ローレルとマンティコアは良いコンビで、いろいろありつつも息子たちのピンチに間に合う。ドラゴンに襲われている息子たちを守り、伝説の剣で戦うのはこの女性たちだ。最後のとどめを刺すのはイアンかな?と思ったけれど、ローレルが投げた剣をイアンが加速させて倒すというような形でしたね。

 このように女性たちが勇ましく描かれるのに対し、この映画では父子関係がかなりエモーショナルに描かれている。それがテーマだから当然と言えば当然だけど。イアンとバーリーが喧嘩してしまったときに脚だけの父親がダンスを始めた場面や、もちろんバーリーとの再会の場面もとても感動的だった。

世界観の楽しさ~科学技術と身体

 最後になるけれど、この映画は舞台設定・世界観もかなり面白い。

 魔法生物たちが魔法を忘れ現代アメリカ人的な生活をしているという世界で、かつて命がけの冒険をする旅人たちの酒場だった店がファミレスになってるとか、それだけでも面白いじゃん。

 イアンとバーリーの家も普通に現代人っぽい家なんだけど、完全にそうというわけではなく、ちょっとロード・オブ・ザ・リングのホビットを思わせるようなディテールもあり、なかなか楽しい。

 そしてこの映画は車で旅するロードムービーでもある。自動車がかなり印象的。魔法使いの修行みたいな旅をおんぼろの車で行くの面白いよね。

 ストーリーとしてはだいたいこの家族内で完結する話なんだけど、二人の旅は周囲にも影響を与えていて、魔法を忘れ科学技術で便利に暮らしていたこの世界の魔法生物たちは、物語の最後には少し魔法を思い出すようだ。魔法というか、彼らにとっては身体の使い方なわけだけど。(速く走れるケンタウロス、空を飛べるピクシー?マンティコアなど)

 科学技術偏重から自然・身体への回帰というメッセージもあるんだろうね。

今回はこんなところで。また今度吹き替えを観てきます。


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