父が教えてくれたこと
わたしの父は北海道のすみっこの出身です。祖先はいわゆる開拓団のメンバーでルーツは四国なんだそうです。
父はプライドが高くて、傲慢で、不器用な人です。仕事第一で出世欲が強くて母とはうまく行かず、私が10歳の時、離婚しました。けれども、母と完全に切れることはなく、私が結婚した2年後に復縁して籍を入れています。別居婚ではありますが、両者の幸せのために良かったと思いました。今は母方の実家のある京都に二人ともいます。
父は私の年齢のときにはすでに糖尿病の診断を受けていました。運動習慣がなく食生活が適当で、直す気もなかった父に、母も私も何度も改善を勧めたものの聞く耳を持ちませんでした。症状が出て来ても、合併症が出ても病気と向き合うことはありませんでした。
人工透析を始めて10年になります。5年前には心臓のバイパス手術、去年からは壊疽による足指の切断、今年に入ってから視力の急激な低下、と私が聞いた限りでもさまざまに深刻な状況が進んでいます。ここ2年はコロナで帰省もできておらず、直接会うこともできません。たまに来る電話は空元気で無理をしているように感じます。
父方の親族と顔を合わせたのはちょうど10年前の夏でした。お風呂の事故で亡くなった祖父の初盆で、北海道に飛びました。わたしは当時まだ若く、その後、結婚、出産という転機は予測できませんでした。(と言っても三十路でしたけど)
母系家族の中で何となく違和感を持ってそれまで生きてきたわたしは、ここで否応なく自分のルーツを実感します。自分にもつながっている姿かたち、人柄にも何か懐かしいものがあり、強い印象を受けました。初めて会ったのに、自分もその一員なんだという不思議な感覚。
そしてその中でも一番近い父が生死のギリギリのところにいます。そう思うといても立ってもいられず、父からもらったものを大切にして、わたしもちゃんと生きたいと思います。父は身をもって、病気の恐ろしさを教えてくれました。それを無駄にしてはならないと思いました。健康と向き合うこと=人生をより良くすること。若い頃にはわからなかったけれど、父から学びたいと思います。