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絵本紹介【みずうみ】

 ゆうかは、棚の上の帆船模型を取ろうと手を伸ばしますが、床に落として壊してしまいました。お母さんに怒られ、溢れていく涙は、やがて湖となり・・・。

【コメント】
 子どもの生きている感覚的な世界を、少ない言葉と優しい絵で表現している、とても素敵な絵本です。

 1ページ目では、ゆうかが棚の一番上の段にある帆船模型に手を伸ばしているのですが、それに関する文章はありません。これは絵本の魅力の一つです。絵を見て、状況を理解します。

 子どもの目線からすれば、小さな女の子が精一杯に背伸びをして、棚の上の壊れやすそうなおもちゃ(帆船模型は子どもにはおもちゃでしかありません)を取ろうとしている。届くかな、届かないかな、落としちゃったら大変だ、そんな気持ちでドキドキしていると、次のページでは、

ゆうかは、おかあさんに おこられました。
おかあさんの こわいかお。 こわいこえ。

 文章と共に、壊れた帆船模型の前でお母さんに怒られているゆうかが立ち尽くす姿が描かれています。

 帆船模型を落としてしまったとも、壊してしまったとも書いてありません。お母さんが何を言っているのかも書いてありません。子どもにとっては、「おこられた」「こわいかお」「こわいこえ」、これだけでもう十分すぎるほどの描写なのです。

 泣き始めたゆうかの涙は、あとからあとから溢れ出て、やがて大きな湖となります。ここからは空想(夢)の世界なのですが、最小限に抑えられた文章と優しく美しい挿絵が、想像力を掻き立てます。

 作者の千葉智江さんが、あとがきで、

泣きはじめて、泣きおえる、ひとりの子どもを見つめる気持ちで、この作品をつくりました。

と書いてあります。

 子どもはよく泣きます。それだけ全身で物事を感じ、吸収し、表現し、成長しているのだと思います。

 ゆうかの夢の中の「涙の湖」。誰もが子どもの頃、その湖の中に入ったことがあります。懐かしく、不思議な、子どもの頃の感覚。

 素敵な絵本に出会えました。オススメです。


このマガジン内では、私のオススメする絵本をたくさん紹介しています。                                                                             主に未就学児への読み聞かせや、一人読みの練習にピッタリの作品をピックアップしているつもりです。
 子どもに絵本を読んであげたいけど、選ぶ時間がない方、どんな絵本がいいか決めかねている方のお役に立てれば幸いです。


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