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双子の不思議
夫は先週、好きなシンガーのファンミーティングがあるとのことで神戸に行った。
いつもなら私も同行して買い物を楽しむのだが、今回は原稿の締め切りが近かったので家に残った。
実は、家に残る理由はもう一つある。
寂しがりやで体の弱い猫を、一人ぼっちで留守番させるのが心配なのだ。
おまけに、夫がいないと生活音が静かで、猫も人間も心地よく過ごせる。
夫には申し訳ないが、最近では『どうぞ一人で行ってらっしゃい』と送り出すことが多くなっている。
その夫だが、彼には双子の兄がいる。二卵性だけど顔や背格好がそっくりで、音楽や車の趣味も同じ。ドライな性格も似ている。
彼らの違いをあえて探すなら、頭髪の残存数と配偶者のタイプだろう。
そんな彼らだが、偶然にも神戸で合流していた。
義兄は、妻と遊びがてら神戸在住の子供に会いに行き、たまたま夫の好きなシンガーのライブがあるのを知ってメッセージを送ってきたらしい。
彼らはライブの終わる時間に待ち合わせをして、スタバでおしゃべりを楽しんだそうだ。
すごい偶然に、報告を受けた私は驚いたのだが、夫は平然としている。
まるで、散歩の途中で知り合いに会ったくらいのテンションなのだ。
夫の情緒は私の100倍落ち着いている。
最近ではさすがに大人しくなったけれど、私の情緒というか感情の揺れは猫の目のごとく激しい。
……が、感情の揺れの9割ほどは私の内面で完結しているので、外側から見れば普通の落ち着いた人に見える。
こんな面倒くさい女と、よくもまあ一緒にいてくれるものだと夫に感心するが、あの性格だからあまり気にならないだろうし、もしかしたら夫の感情の揺れも、私の知らない間に彼の内面で処理が完了しているのかもしれない。
ところで、夫の双子の兄だが……私から見れば、謎の多い人だ。
謎の一つに彼の妻の存在がある。
彼女は超小柄で気が強く、若い頃は前田敦子に少し似た不機嫌顔が魅力的だったと推測される。
髪の毛は前髪ぱっつんの黒髪ストレートで、リボンやフリルの付いたラブリーな服が好き。求心顔だけど若く見られるタイプだ。
私は初めて彼女を見た時、映画・プリンセスブライドストーリーのロビンライトを連想した。
義姉は、私との初対面から不機嫌を隠さず、態度が非常に悪かった。
義母の家では動かざること山のごとし、子や夫に指図ばかりしていた。キッチンに立つのは義母か義兄、そしてたまに私。
……そんなこともあって私は義姉を嫌っていたが、最近では会っても何も感じなくなっている。
理由は簡単だ。私は建前で動いているだけで、本音は義母の手伝いをしたいわけではなかった。あの頃は、あまりにも雑に扱われる義母が気の毒で動いただけのことで、義姉に遺恨は残っていないのだ。
人は大人になると、就職して少しばかりの苦労を知るが、義姉は就職をしたことがない。元々の性格や生活の違いもあるだろうけれど、義姉は多分、"他人に気を遣う”という行為をしない人なのだ。それはもう、清々しいほどに。
常に本音で生きることを、何かに許された人なのかもしれない。
ドライで利害勘定が冷静にできて、なおかつ善良(に見える)義兄がどうして義姉のようなタイプに惹かれたのか? それを知りたい思いもあって、私は義姉の観察をしている。
不謹慎だが、義母の葬儀の際にも義姉の観察を継続していた。意外なことに、義姉は葬儀で大泣きして私を驚かせた。
義母の息子達(夫とその兄)や、他の親族の誰も泣かなかったのに……だ。
泣いた理由はさすがに聞けないが、この一件からさらに彼女が興味深い存在になった。
私の探究は続く。
彼女はなぜそんな発想をするのか? その服装はどうして? その行動の源はどこから?
たまに本人に質問をすることもあるが、推測する方が面白い。
大体、質問しても的を得た答えが返ってこないことが多く、後で夫の解説を聞いてもよくわからないのが常だ。
義姉の観察は継続予定だが、謎の多い義兄の観察には、実は興味がない。
理由は、彼を深掘りしても私の興味を惹くエピソードが出てきそうにないのと、闇が深い気がして腰が引けている。
ちなみに、夫の深掘りにはかなり苦労したので、今は中止し再開の目処は立っていない。