第九章 再修羅場⑪
安奈の隣の卓に、あたしを座らせる一哉。
「梨紗、この女達?」
安奈の後ろで縮こまっているギャル二名。
「うん」
迷わずそう答えた。
「安奈、どうする気?」
溜め息をつきながら、一哉は安奈を見つめる。
「限度があるだろ?」
あたしは、タバコに火をつけた。
このギャル達は今、クスリをやっていないのだろうかと思った。
こんなむしゃくしゃしたヤバい時にこそ、クスリに手を出しそうなものだけれども。
そして、安奈もやっているのだろうか。
それは、あたしには分からない。
「あたしは……店の皆の前で大恥かかされたのよ?!客の前でも女の子達の前でも……マネージャーには、外に連れ出されて理由とか色々聞かれて……大変だったんだから。これでチャラでしょ」
コイツ。
認めたし。
しかも、あっさりと。
警察へ突き出そうか?
安奈も、ゆっくりとした動作でタバコを吸い始める。
「安奈、お前、梨紗に土下座しろ」
「……はっ?!」
安奈が火をつけたばかりのタバコが、安奈の細くて綺麗な指から零れ落ちた。
「梨紗の顔の傷は、一生消えないんだよ。それに比べたら、一瞬の土下座くらいできるだろ」
珍しく、一哉は本当に怒っているようだった。
空も隣で会話の一部始終を聞いていたらしく、
「うん。安奈がどう見ても悪いな。安奈、出禁になる前に素直に土下座した方がいいよ」
空にまでそんな事を言われて、当の安奈は……。
立ち上がった。
そして、あたしの眼の前に立ちはだかる。
「あたしね、誰にも振られた事なんて今まで一度もないの。あたしが土下座するなら条件がある。一哉と別れて」
はあ?
条件も何も……。
てか、何でこの状況でまだ上から目線でいられるのか、誰しもが不思議で仕方がないようだ。
「わざと梨紗が車見せつけた事、分かってるのよ。二人が離れるなら……あたしは、土下座をする。そして、もう二度と梨紗には迷惑かけない。約束するわ。けれど、一哉は譲れない。あたしは、一哉を本当に愛してるから」
そう言って、涙を流す安奈。
安奈は唇を噛みしめて、涙が瞳から零れ落ちないように必死に耐えている。
安奈……。
そんなに一哉の事?
あのプライドの高い安奈が人前で泣くだなんて、とてもではないけれども考えられない事だった。