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第五章 冷戦⑦

安奈を潰せるのは、あたししかいないだろう。

安奈を、これ以上調子には乗らせない。

一哉からも、離れてもらう。

二度と、ブリリアントにも来させない。

ブリリアントは、出禁だ。


安奈ほど、あたしをイライラとさせる女に出逢うのは初めてだった。

売られた喧嘩なら、買うまでだ。

ずっと我慢してきたけれども、もう限界だ。

やってやろうじゃん!


一哉に電話をかける。

「もしもし、梨紗ちゃん?」

「うん。一哉くん、今日お店に行ってもいい?」

「え?どしたの急に……いいよ、来なくて。オレが逢いに行こうか?」

「一哉くん……安奈の事、好きなの?」

唐突な質問だと、自分でも思う。


「は?安奈?好きじゃないよ。また何か言われたの?」

「一哉くんが安奈を好きじゃないのなら、安奈を出禁にさせる……とりあえず、今から行くね!」

「え、梨紗ちゃん?!」


スーパーライトへと入り、卓へと通されるあたし。

ここへ来るのは、まだ二回目……か。

すぐに、一哉はやってきた。


「梨紗ちゃん!何、どしたの?何があったの?さっきの電話、どういう意味?まだ仕事中の時間じゃ……?」

「今日は早退してきたの。安奈が後から来るから」

「は?ちょっと、マジで意味分かんない。どしたの?」

「安奈が喧嘩売ってきたから、あたしは買うだけよ」

「へ?やめろよ。安奈と同じレベルまで堕ちるなって」

「……とりま、ビールください」


「あれ、梨紗ちゃん?」


空……。

今は、一番逢いたくはない人物だ。

元はと言えば、全ての根源はコイツだ……。


「何、やっと一哉さん指名したんだ?」

そう言って、頼んでもいないのにあたしの隣に座り出した。

あんたの事は、呼んでない!


「……栞と連絡取ってるの?」

「当たり前じゃん。じゃないと、掛け飛ばれたら困るでしょ」

「栞……今、どこで働いてるか知ってるの?」

「吉原でしょ?」

「……知ってたの?」

「悪いけど、オレがけしかけたわけじゃないから。栞が自分で働くって言いだしたんだよ。てか、この話題面倒くさい。じゃあね、梨紗ちゃん。ごゆっくり」

さっさと席を立つ空。


ドイツもコイツも、本当にむかつくヤツらばっかりだ。


それとも、あたしが短気なだけなのだろうか。


そして、安奈がやってきた。

「梨ー紗さん♪言っておくけど、勝負挑んできたのはそっちなんだからね。あたしは、応じただけなんだから。マチルダの藤崎安奈をあんまり舐めないでね」

そう言って、あたしを思いきり睨みつける安奈。

やっと本性出したね、安奈。


「勝負を挑んできたのがこっち?冗談じゃない。あたしは今まで何度も耐えたけど、もう我慢の限界が来たからあなたに売られた喧嘩を買ったのよ。そっちこそ、あんまりあたしを舐めないで」

「やあだ!怖い顔して!」

「笑っていられるのは今のうちじゃない?そのうち、いつかそっちがあたしにひれ伏す時が来るわ」


「ちょ、おい……いきなり喧嘩始めんなよ。店内でそれ以上言い合ったら出禁だぞ?」

空が、焦ったように間に割って入ってきた。


そっちこそ、あんまりブリリアントの日向梨紗を舐めない方がいい。

あたしは、安奈に負ける気など更々なかった。

安奈は、栞をバカにした。

一哉の事で、あたしに敵対心を燃やしている。

これで負けでもしたら、あたしこそ歌舞伎を歩き回れたもんじゃない。


そして、あたし達の長い夜が幕を開けた。


一哉、巻き込んでごめん。

けれども、女の闘いなのよこれは……。



絶対に負けられない!

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