押弦しやすい指の状態とは?その2
① 外在筋と内在筋
指を動かす筋肉は肘から始まって指先に終わる筋肉や、掌の中から指先までしかない筋肉があり、前者を「外在筋」、後者を「内在筋」と呼びます。
外在筋は肘から伸びて手首を通過する分、指を動かす時にはどうしても手首に多少の影響が出てしまいます(指を曲げる筋肉は掌側を通って肘に繋がるため、この筋肉が縮こまろうとすると指は屈曲・手首は掌屈する力が生じる)。
しかし実際には手首を動かさないで指を動かすことは容易に行えます(怪我をしていない人に限る)。これは指・手首を動かす筋肉がそれぞれの動きを調整しながら収縮していることで可能となる動きとなります。
対して内在筋とは掌から指までの長さの筋肉になるため、内在筋には直接手首を動かす働きはありません。弦を押さえる時の手首から指先までの動きを考えると、手首の関節の角度に比べて指の関節の角度はコードが変わるたびに大きく変化します。そのため弦を押さえる力を生み出すには、この内在筋を使えるようになることが1つのポイントであると考えられます
ではこの内在筋をうまく使えるようになるトレーニング方法を説明します。
MP関節屈曲位、PIP・DIP関節伸展位⇄MP関節伸展位、PIP・DIP関節屈曲位
をまずは人差し指〜小指でまとめて行います(写真参照)。
その後、今度は人差し指だけ、続いて中指だけというように各指に分けて行います。
●この動きを行うことで内在筋の収縮と弛緩が繰り返し行われ、押弦時の指の動きを滑らかに行いやすくしていきます。
② 手首の角度に伴う握力の変化
手首の角度と握力の関係として、
「手根を伸展させるように安定化させると、指屈筋はおよそ3倍の握力を出すことができる。(Neumann DA(著),嶋田智明,平田総一郎(監訳):筋骨格系のキネシオロジー.医歯薬出版,東京,2007, pp 205-207)」
とされています。つまり手首を後ろに反った状態で握ることで、普通に指を握るよりも強く握れるようになるということになります。
例えば5弦を小指や薬指で押さえようとして無理に手首を掌屈させてしまうと、握力が発揮できずかえってミュートさせてしまうといった事に繋がります。
●押弦する際には指の動きだけでなく手首の角度にも注目してみてください。
③ 親指の筋肉を考える
押弦する際には主に人差し指〜小指までを使って弦を押さえますが、指板を支えるために後ろから親指でしっかり押さえる必要があります。
親指の力をしっかり伝えるために意識することとして
1. 掌の親指側を小指方向に動かす
2. 親指を中指から手首にかけて伸ばした線に近づけるように閉じていく
ことが挙げられます。
上記の理由として
1. 親指のCM関節は前回の投稿で述べたように対立位を取ることで関節の支持性が高まるとされています。支持性を高めるために必要な動きをする筋肉は「母指対立筋」と呼ばれ、掌の親指側にある骨から掌の底辺に付着します(写真参照)。この筋肉を上手く収縮させるために上記の対立動作(親指と小指を近づける)動かし方を意識していきます。
● 親指で指板を後ろから押さえる際は掌の親指側から押さえるように指を動かす。
2. 母指対立筋以外にも指板を後ろから押さえる親指の筋肉の1つと考えられる「母指内転筋」は母指の付け根付近から掌の中にある中指に付着しています。そのため親指の動く方向としては中指に近付いていく動きが必要と考えられます。
●親指で指板を後ろから押さえる際は掌の真ん中に向かって親指を動かすイメージで指を動かす。
今回はここまでのお話となりますが、何か1つでも皆様の演奏活動の手助けになれば幸いです。
それではまた!