家出て5分で職質された話
火傷をした。
私が会社員の頃だった。私の会社は制服で通わねばならず、可愛いんだか何だかよく分からないピンク色のリボン付きシャツは1人2枚ずつしか支給されず、そのため毎日仕事から帰ってきたらとにかく洗濯機を回さねば間に合わなかった。その忌まわしい半乾きの制服をアイロンで無理矢理乾かしていた時に、うっかり指に最高温度のアイロンを当ててしまった。
そこそこ痛かった。水で冷やしても普通に痛かった。水ぶくれになってきたので「火傷 水ぶくれ」でググると「火傷レベルⅡ 手当てをしましょう」みたいなことが書いてあった。とりあえずガーゼか絆創膏か何か貼っておけばいいのだろうが、家にそんなものは無い。私は買いに行くことにした。
出がけに自分が『うる星やつら』のラムちゃんが大きくプリントされた紫のTシャツを着ていることを思い出したが、その他の服はパジャマ以外全て洗濯され半乾きの状態で干されていた。まあ深夜1時過ぎに上司には会わないだろう。私は一応マスクだけして出掛けた。
社宅から徒歩5分の距離にあるセブンイレブンに行く途中、後ろからゆっくりと車が近付いてくる気配を感じた。振り向くとパトカーだった。別に何も悪いことをした覚えは無いのだが、私は何故か「ヤバい」と思った。早足で歩いていると、パトカーは私を通りすぎて行った。安心したのも束の間、パトカーは私の前方で停車し、中から二人の警官が私に向かって走り出てきた。
「すいませーん!ちょっといいですかぁー?」女性警官に引き留められ、私はその場に直立した。「今って何されてたんですか?」買い物である。私は火傷した手を証拠として見せた。「持ち物確認させてもらっても大丈夫ですか?」手に持ったスマホとポケットの1000円札。私はその場での全財産を並べた。「今いくつですか?身分証明書持ってるかな?」今度は男性警官に聞かれた。22歳で身分証明書は家にある。聞かれてもいない会社名まで答えてしまった。
警官が家に私の身分証明書を見に来ることになった。火傷用の絆創膏を買ってからでもいいと言ってくれたが、火傷より心の方が痛かったので遠慮した。私はパトカーと女性警官を引き連れ社宅へ帰宅した。
走って部屋に戻り保険証とパスポートを持って来て女性警官に見せると「あっ私と同い歳だ。本当にすみません」と言われた。深夜にお仕事頑張ってるお姉さんとラムちゃんTシャツの私が同い歳で逆にすみませんと思った。女性警官が私の保険証から何やら色々メモっている横で、男性警官から「夜道の一人歩きは危ないですから」とちょっと叱られた。ちょっと人の温もりを感じた。
私の保険証をメモし終わると、警官2人は帰っていった。「いや~ほんとすいませんでしたぁ」としか言えなかった。火傷がヒリヒリ痛んだ。ティッシュとラップを適当に巻いて布団に潜った。明日はお仕事頑張ろうと思った。